《本記事のポイント》
- 「アメリカ人は消費者ではなく生産者」
- 世界は経済学者デヴィッド・リカードの想定外の状況にある
- トランプ政権の貿易政策は再評価されるべき
前編では、中国の経済成長は、アメリカからの「富の移転」に裏付けられており、中国の対米貿易黒字がいかに巨大な額に達していたかについて、トランプ政権で米通商代表部(USTR)の代表を務めたライトハイザー氏の見解を紹介した。後編でも、同氏の見解を以下に紹介しつつ、ドナルド・トランプ前大統領の成果について振り返ってみる。
「アメリカ人は消費者ではなく生産者」
コロナ後にアメリカの対中貿易収支が悪化した理由についてライトハイザー氏は、アメリカで生産をストップしたこと、バイデン政権のバラマキで米国民の需要が喚起されたため、米消費者のお金が中国に回ったと説明。
またトランプ政権の政策が「保護主義」だという批判に対しては、「アメリカの雇用を守ろうとしたのです」「私は生産主義者(productionist)なのです」と述べて、「私はアメリカ人を消費者というよりも生産者として見ています」とその人間観を明らかにした。
その上で「ローマ法王の聖ベネディクトも、『祈りかつ働け』と述べていますが、働くことによって自尊の心を持つことができるのです」と同氏の経済神学というべきものを語り、製造業が空洞化し、雇用を失ったアメリカの状況を憂えた。
最後に1930年代のイギリスでも、ドイツと商取引をしたいというイギリス人の要求が認められ、英ロールス・ロイス社の航空エンジンをドイツに売却することが許可されたことに触れた上で、これが「ポーランド人、フランス人、そしてイギリス人の空爆に使われたのです」と当時も現在と同じく背徳的な商人がいたことを苦々しく語った。
世界は経済学者デヴィッド・リカードの想定外の状況にある
ちなみに同氏は、自由貿易の原理原則を擁護する理論を説いた英経済学者のデヴィッド・リカード(1772年~1823年)の学説は間違っていないという立場だ。
英誌「ザ・エコノミスト」への寄稿記事でも、「彼は間違っているのではなく、当時彼が想定しなかった状況が現在起きているのだ」と述べ、経済学の教科書通りの自由貿易の世界に我々は住んでおらず、経済学の原則を適用することで、アメリカは静かに死に絶えていく、という趣旨を述べている。
これについて大川隆法・幸福の科学総裁は、著書『繁栄への決断』の中で以下のように述べ、この政策は「経済面におけるトランプ革命の一つ」と位置付けている。
「今、もう一つの考え方として、トランプ氏からは、原点に戻って、『二国間の貿易において著しい不均衡があった場合、これを調整する方法としては、やはり、国の関税自主権でもって調整すべきだ』という考えが出てきたと思われるのです。
片方の国のみが一方的に儲けているような状況であるのは、やはり、おかしいと言わざるをえません。また、そうした状況でもって儲けたお金が、よいことのためだけに使われるならばともかく、軍事的拡張主義や核兵器の増大のために使われていくのであれば、たまりません。
これは、経済面における『トランプ革命』の一つであると言えます。ただ、これが成功するかどうかについては、現時点では、多くの識者たちにはまったく分からない状態にあるでしょうが、私は、『実験する価値は十分にある』と思っています」
トランプ政権の貿易政策は再評価されるべき
トランプ氏の参謀であったライトハイザー氏の考えを丁寧に辿れば、トランプ氏は「保護主義だ!」とする批判がおおざっぱで、問題の本質を捉え損ねた見解にすぎないことが見えてくる。
もとより技術窃盗や、本来の通貨よりも低い通貨価値を維持するために為替操作を続ける中国は、不公正貿易の代表格。ライトハイザー氏もインタビューで強調していたが、黒字は軍に投資され、中国の覇権拡張を下支えした。これが世界の脅威となったのである。
そうした脅威認識や国内産業の空洞化への憂慮もあって、トランプ政権は敢えて関税という棍棒を振るって、中国に「兵糧攻め」をしていたのだ。
減税政策と併せて政策を実行し、国内回帰を促し、アメリカ人の雇用を拡大させることに成功した。
この点についても大川総裁は、次のように評価している。
「一方、アメリカのほうは、『アメリカ・ファースト』という言葉だけを聞けばエゴイストに聞こえますが、失業率は四十九年ぶりの低水準になっており、今、三・六パーセントぐらいです。
私がアメリカにいた、今から四十年近く前には、失業率はたいてい十パーセントはありましたので、それから見ると、『失業率が、(一九六九年十二月以来)四十九年ぶりに三パーセント台で、過去最低になっている』というのは、トランプ大統領の経済改革が、この二年間余りで劇薬のようにそうとう効いていることを意味しています。これは、職のない人に職をつくる『ジョブ・クリエーション』をやったということでしょう。(中略)
したがって、なるべく、海外との関係で儲けるよりも、国内で自分たちの「雇用」や「賃金」を生み出すような仕事を増やしていく努力をするほうがよいわけです。(中略)この流れの『読み』は間違えないでください。アメリカは、独善的にやっているわけではありません。『知った上でやっている』ということです」
対するバイデン政権は、雇用や対中戦略において、トランプ政権とはまるで対照的だ。半導体という一定の分野では中国に強く出ているものの、軍の原資である貿易黒字減らしには熱心ではない。「悪を押しとどめる」ことについて、大統領としての強い意志が感じられないのである。
2024年の大統領選に向けて、今一度、トランプ政権の対中政策の成果が再評価されるべきだろう。
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2022年8月7日付本欄 予期せぬ「ドル高」の猛威 中国経済に打撃
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