2023年9月号記事

Pick Up Movie

編集部がオススメする「今こそ観たい」映像作品。

「ハクソー・リッジ」

2017年

【レビュー】

米ヴァージニア州の山麓の町で腕白に育ったデズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は、ある日、喧嘩の最中に弟ハルをレンガで殴打してしまう。弟は無事だったが、デズモンドはモーセの第六戒「汝、殺すなかれ」を見つめ、涙を流す。そして、プロテスタントの母から、「殺人は最大の罪。主を最も苦しめるのよ」と諭されるのだった。

15年後、成長したデズモンドは、命を救う医師たちの姿に心動かされ、看護師のドロシー(テリーサ・パーマー)と恋に落ちる。だが、真珠湾攻撃で大東亜戦争が勃発し全米を揺るがせる中、彼は「衛生兵として国に尽くす」という固い決意で陸軍に志願。そして、婚約したドロシーから携帯用の聖書を受け取り、見送られていった。

彼の訓練ぶりは優秀だったが、信仰上の理由で、銃の所持も敵兵を殺すことも拒否。除隊を宣告され、上官の嫌がらせや同僚らの暴行を受けても、決意は微塵も揺らがなかった。

だが、結婚式の機会を奪われ、上官らの策略で軍法会議にかけられる。ここに至り、信念の戦いだと確信し、「皆は殺すが、僕は助けたい」と法廷で宣言。しかし有罪に。

ところが、意外な人物の尽力で従軍が認められ、沖縄戦最大の激戦地ハクソー・リッジ(前田高地)へ赴く。先発部隊は150mの絶壁の向こう側で既に壊滅。苛烈を極める戦場で、怯むことなく兵士を救い続けるデズモンド。同僚たちも驚嘆の目を向け始めた。しかし彼には、さらに過酷な戦いが待っていた──。

武器を一切持たず、たった一人で戦場から75人を救い出した男の、衝撃の実話。部隊が撤退する中、天啓を受けたかのように戦場へ戻り、一人救い出す度に「主よ、もう一人助けさせてください」と祈り続けた彼。信じ難い奇跡を前に、「お前の信念を信じる…お前なしでは戦えない」と彼に許しを請う上官のシーンが続く。やがて迎える彼のラストシーンに、イエス・キリストの姿を重ねる方もいるのではないだろうか。