《本記事のポイント》
- ウクライナ反攻作戦が期待外れに終われば、停戦の機運が高まる
- 停戦に向けて暗躍する中国 アメリカは蚊帳の外に置かれるかも
- アメリカはイニシアチブを失う可能性も?
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
バイデン大統領の署名で債務上限停止法が6月4日に成立したことで、アメリカはデフォルト(債務不履行)を回避することができました。
ただ代わりに来期の国防予算の上限が厳密に監視されることになり、国防予算は8860億ドル(約12.5兆円)を超えないと規定されました。またロイターは3日、戦車や艦艇などの優先度の低い防衛装備品に充てられる160億ドル(2.2兆円)が、資金不足となる可能性があると報じています。
さらに米国防総省は、バイデン氏がウクライナ支援のため確保している資金は9月末に尽きると予想していますが、同省は2024年度の国防予算要求にウクライナへの追加支援を盛り込んでいません。今後の支援については、議会が承認する補正予算で要求するとしています。
加えて国防総省は、台湾防衛のために武器供与を提案中ですが、オースティン国防長官は「台湾に武器を送るとなると米軍の在庫が減少するが、これを補充するためには軍事予算が必要だ」と述べています。
一方、(これら米軍の不足分やウクライナ・台湾関連の資金が不足する場合でも)マッカーシー下院議長は、補正予算で増額することに否定的な立場を取りました。
こうした流れを受け、それ以降のウクライナ追加支援の是非を巡る議論が再び活発になっています。
要するに、今のアメリカには、ウクライナに加えて台湾への軍事支援に資金を供給していく余裕がなくなっているのです。
米下院軍事委員会の警告
6月7日の米ディフェンスニュースによると、米下院軍事委員会のマイク・ロジャーズ委員長は、「ウクライナ支援を縮小して対中国対策への投資を望む」と述べました(*1)。
ロジャーズ氏は続けて、「この夏のウクライナの反攻がどの程度有効か、また9月末までに停戦か何らかの解決がなされるかどうかで、ウクライナ支援を見直すことになるだろうが、その際、これまでよりもはるかに小規模なものになるだろう」と語っています。
(*1)https://www.defensenews.com/congress/budget/2023/06/06/house-armed-services-chair-wants-china-spending-bill-less-ukraine-aid/
ウクライナ反攻作戦が期待外れに終われば、停戦の機運が高まる
ウクライナ軍の反攻作戦が期待外れに終われば、アメリカは秋以降の軍事支援を大幅に縮小する可能性が出てきました。
ウクライナの軍事支援は8割がアメリカによるものであり、他の西側諸国が肩代わり出来るものではありません。
したがってアメリカの支援が滞れば、ウクライナは停戦に向かわざるを得なくなるのではないでしょうか。
ウクライナの反攻作戦の動向によっては、秋以降に停戦の機運が高まる可能性があります。
停戦に向けて暗躍する中国 アメリカは蚊帳の外に置かれるかも
しかし、ここでアメリカの政策が揺れ、対応を誤れば、またもや中国の外交面での影響力が高まることになりかねません。
ウクライナ侵攻から1年の節目となる2023年2月24日、中国は「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」と題する文章を公開しました。
同日の中国中央テレビは「中国はウクライナ危機の当事者ではないが、手をこまねいて見ているわけではない」として、文書はウクライナ危機の政治的解決のために、詳細で確実な、実行可能な解決策を提供したものだと報じています。
続く2月28日に「ウクライナ危機に対するポジションペーパー」を発表。和平交渉プラットフォームの設立を提案しました。
2023年5月16~17日には、中国の李輝ユーラシア事務特別代表がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領をはじめとした政府高官と会談しました。李代表は、中国はウクライナ危機に対するポジションペーパーに基づき、国際社会がウクライナ危機解決のための最大公約数を形成することを推進し、可能な限り早い停戦と和平実現のために努力すると述べています。
対するウクライナ側は、「『一つの中国』原則を遂行し、中国・ウクライナ関係のさらなる発展を推進する」と述べたとされます。
停戦は中国のみが仲介してなされるとは限りません。ロシア・中国が主導する新興5カ国(BRICS)のブラジル、南アフリカ、インドも停戦に協力的で、アメリカと明らかに距離を置きロシアと接近しているトルコも停戦仲介に意欲的です(トルコもBRICSに加盟を希望しているといわれています)。
このようにアメリカの蚊帳の外で停戦への流れがつくられていった場合、世界的な影響力におけるアメリカの衰退は決定的なものになりかねません。
アメリカはイニシアチブを失う可能性も?
ウクライナの反攻がそれなりに成功し、アメリカがこれまで通りウクライナ支援を継続したならば、ウクライナ戦争は今後も長期化するでしょう。その場合は前編で述べたように(https://the-liberty.com/article/20679/)、延々と消耗戦が続き、第一次世界大戦を彷彿とさせる西側の衰退という危機が待っているように思います。
ウクライナ軍が反攻に失敗した場合に、アメリカが停戦交渉で優柔不断な態度を示したならば、外交のイニシアチブを中国やBRICS諸国側に奪われる局面も出てくるでしょう。
これまでの世界の安定はアメリカがスーパーパワーであったことで維持されてきましたが、アメリカの経済的・金融的な危機、および外交での影響力の後退は、アメリカが大国の一つに滑り落ちていくことを意味しています。
アメリカの落日は世界の不安定を加速させ、台湾有事、朝鮮半島有事はもとより、世界各地での紛争の多発を招く恐れがあります。
日本および世界の主要国は、単にウクライナ支援を打ち出すだけでなく、世界の平和と繁栄を見据えた大局的な舵取りが求められます。賢明な外交、安全保障政策がとられることを心から切望します。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
【関連書籍】
いずれも大川隆法著、幸福の科学出版
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