《本記事のポイント》

  • 新たに大きな脅威「火星18」が加わった
  • 危機的な水準に高まる北朝鮮の脅威
  • 核廃絶のために核装備を

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

前編の「金正恩氏は『核兵器生産に拍車を加えるべき』 北朝鮮は予想以上に小型の戦術核を完成させた!?」でお話しした3月16日の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」に引き続き、北朝鮮は4月13日午前7時23分ごろ、最新型で初めての打ち上げになるICBM「火星18」を日本海に向けて発射しました。

韓国側の情報によると、飛行距離はおよそ1000kmで、過去同様にロフテッド軌道(山なりに高く打ち上げる方法)だったようですが、高度は3000km未満とそれほど高くなく、報じ方も曖昧でした。

自衛隊は北朝鮮のミサイルを見失った

日本の防衛省も、ミサイルを探知したもののレーダーから消失したと発表しています。防衛省はレーダーから消失した理由について、高い高度で飛翔したことが原因だったとの見方を示しましたが、韓国側の情報では、3000km未満とそれほど高くなかったと伝えています。これまでのロフテッド弾道のケースでは、高度6000km以上のミサイルも追尾していますので、本当は別の原因があって追尾できなかったのではないでしょうか。

結論からいえば、今回のミサイルを見失ったのは、ミサイルの高度が高くなりすぎたためではなく、軌道が大きく変わったためなのではないか、と推測しています。

なお、ミサイルが途中で爆発したためにレーダーから消失した可能性もあったのですが、北朝鮮の「労働新聞」はその疑念を払拭するために、3段目を切り離した後のミサイルの写真をわざわざ掲載して、成功をアピールしています(平壌労働新聞(2023年4月14日))。

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「平壌労働新聞」が掲載した「火星18」の写真。写真右下が3段目のロケットを切り離したところ。

北朝鮮の国営メディア「朝鮮中央通信」は、従来の液体燃料式よりも迅速に発射できる固体燃料式の新型ICBM「火星18型」の初めての発射実験だったと明かしました。

同日付の「労働新聞」は、「朝鮮民主主義人民共和国戦略武力の絶え間ない発展の様子を示す威力的実体が再び出現」と題して「火星砲-18」の試験発射を報道しており、「今回の試験発射は、周辺国の安全と領内飛行中の多段分離の安全性を考慮し、1段目は標準弾道飛行方式、2、3段目は高角方式に設定し、時間遅延分離作動方式でミサイルの最大速度を制限しながら、武器体系の各系統別の技術的特性を確証する方法で行われた」と報じました(労働新聞(2023年4月14日))。

つまり「火星18型」は3段式で、1段目を通常の角度で発射したのち、2段目は遅らせてロケットの速度を落としてから点火、さらにロケットの軌道を大きく上向きに変えて、2段、3段目の飛翔経路を「ロフテッド軌道」にして飛翔させた、ということでした。

これは、日本政府がミサイル発射を受けて、Jアラートやエムネットで「ミサイルが北海道周辺に落下するとみられる」と発表し、その後「落下の可能性がなくなった」と改めて発表したことと一致します。

つまりミサイルは、当初は通常軌道で発射されたため、そのままの飛翔経路ならば北海道周辺に到達した可能性が高いのでしょう。しかし途中で軌道を変えたため、「わが国領域への落下の可能性はなくなった」と改めて発信することになったのです。このように考えると、北朝鮮の発表は事実と思われます。

なお、自衛隊のレーダーからどの時点でミサイルが消失したのかは不明ですが、2段目以降で大きく軌道が変更されたときに追尾が間に合わず見失った可能性は高いと思います。もしそうであれば、自衛隊の現状のレーダーでは、軌道を変えるミサイルは迎撃できないことを証明してしまったことになります。

令和5年度の自衛隊予算では、防空レーダー(FPS-5やFPS-7)を改修し、極超音速滑空ミサイルなどの探知・追尾能力を強化することが盛り込まれています。逆に言えば、現状の航空自衛隊が運用するレーダーでは、極超音速滑空ミサイルなどの軌道を変えながら飛翔してくるミサイルの探知や追尾は難しいと認めているということでもあるのです。

日本政府の発出したJアラートが国民を混乱させたことに批判が出ていますが、問題の本質はそこにあるのではありません。北朝鮮のミサイルの脅威が高まっていることへの危機意識をもっと醸成すべきなのです。

新たに大きな脅威「火星18」が加わった

これまでのICBM「火星15」「火星17」は液体燃料であったので、発射直前に燃料を注入するなど、準備に時間がかかっていました。

しかし今回のICBM「火星18」は固体燃料で、あらかじめ燃料をミサイルに搭載しておけるので、より迅速に発射できます。北朝鮮のミサイル奇襲攻撃などをより容易にするものです。さらに1段目と2段目以降では、変則的な着火タイミングと姿勢の変更を行っており、ここでもけっして侮れない技術を持っていると推定されます。

なお、アメリカのICBM「ミニットマンIII」も固体燃料ですので、同じ機能を持ち、北朝鮮はICBMの最終的な完成形に近づいているということになります。

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※「平壌労働新聞」掲載の「火星18」。炎がスカート状に広がるのは固体燃料の特徴。

危機的な水準に高まる北朝鮮の脅威

北朝鮮はアメリカを狙えるICBMとして、配備済みまたは間近を匂わせる「火星15」、モンスター級の大型「火星17」、そして今回の即応型「火星18」と、多様な核攻撃手段を完成させようとしています。

なお核ミサイルの完成には、ミサイル実験と併せて核弾頭の核実験が欠かせません。これに関して北朝鮮は昨年の初夏頃から核実験場の準備を進めており、いつでも核実験が出来ると推定されてきましたが、いまだに行われていません。これに対して、北朝鮮が核実験を行うのは、ミサイルの完成の目途がついた後になるだろうという分析も出ています。

この分析が正しく、核実験が行われたならば、ミサイルは完成の域に達したというメッセージにもなるでしょう。

この場合は、アメリカ攻撃用のICBMに搭載する大型水爆などの核実験かもしれません。あるいは先述の9日付の記事で、北朝鮮は韓国や日本用の戦術核弾頭(火山31)の写真を公表したとお伝えしましたが、今後の核実験でそれが"はったり"ではないことを世界にアピールする可能性もあります。

座して死を待つのは日本の恥

日本政府の核戦略は、アメリカの「核の傘」に護ってもらうという非自律的なものです。

フランスのシャルル・ドゴール大統領は、アメリカの「核の傘」に護ってもらうことを拒否し、独自核を配備した大統領ですが、彼は当時の「米ソによる核兵器の独占体制」に激しく反発したといいます。

アメリカの同盟国(フランスや日本など)を永遠に自主的な核抑止力を持てない状態に留めておけば、アメリカ政府は「敵性国の核ミサイルが怖かったら、お前たちはアメリカの言うことを聞け!」といつでも同盟国を脅すことができる、とドゴールは考えていたのです。

ドゴールは、フランスの自由と独立を回復するためにこそ、フランス独自の核抑止力が絶対に必要だと考えました。

現在の日本のあり方は、これとは正反対です。北朝鮮に数え切れないくらいのミサイルを周辺に撃ち込まれ、中国の巨大な脅威が迫っても、アメリカに依存して自らの安全を保とうとしているように見えます。独立国家の気概を持たず、卑屈な半主権国家の地位に喜んで甘んじているように見えます。

核廃絶のために核装備を

来たる5月19日から岸田首相の地元広島で、G7サミットが開催されます。岸田氏は核廃絶を強く訴えるものと思われますが、それにより現政権で核保有の議論はタブーになるでしょう。

しかし核廃絶は北朝鮮や中国に言うべき問題であって、日本はその脅威にどう立ち向かうかを真剣に模索する立場にあります。

日本に残された猶予はほとんどないと危機感を強める日々ですが、核兵器を持った北朝鮮や中国に囲まれる中、日本は精神的独立を果たし、サバイバルをかけて核抑止力を持つべきです。

その上ではじめて、北朝鮮や中国と互いの核兵器の削減、廃絶の協議のためにテーブルに着くことができるでしょう。本当に核を廃絶したいのならば、逆説的ですが、日本は核装備を進めるべきなのです。


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の北朝鮮情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。

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