2月20日にキエフを電撃訪問し、ウクライナのゼレンスキー大統領と共同記者会見を開いたバイデン米大統領(画像:photowalking / Shutterstock.com)。

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バイデン米大統領に続き、イエレン財務長官も2月27日にキエフを電撃訪問し、今後数カ月で80億ドル(約1兆900億円)を超える経済支援を表明しました。同氏は「戦争が続く限り、アメリカはウクライナを支持する」と強調しています。

しかしその一方で、水面下では、現実的な和平交渉を求める声が各国で強まっています。

《詳細》

アメリカの著名な国際政治学者でハーバード大学教授のスティーヴン・ウォルト氏は2月28日、米外交専門誌フォーリン・ポリシーの記事で、指導者らの本音と建て前について指摘しました。

ウォルト氏は、19日に閉幕した、世界の首脳・閣僚らが外交・安全保障の課題を話し合う国際会議「ミュンヘン安全保障会議」に出席した所感を寄稿。その中で、出席者は公には語らないものの、私的な会話では「ウクライナが、(クリミアを含む)失った領土を奪還できるとは誰も考えていなかった」として、次のように明かしました。

「(政府高官は公の場で戦況について楽観的な見解を述べるが)個人的な会話は、もっと重苦しいものだ。私が参加した私的な会合に主要政府の高官は含まれなかったが、会話を交わした人々で、戦争が早く終結すると期待している人や、ウクライナが(クリミアを含む)失った領土を取り返すことができると考えているような人は、誰一人としていなかった」

「私が話した人のほとんどが、(両軍が)互いに消耗する膠着状態が続き、おそらくは数カ月後に休戦が導き出されると想定していた。西側によるウクライナ支援は、勝利を目的としたものではない。真の目的は、(休戦の)タイミングが訪れた時、ウクライナ政府にとって有利な取引ができるようにというものだ」

その上でウォルト氏は、バイデン氏によるキエフへの電撃訪問は、戦争の結果を自身の「政治生命」と直接的かつ鮮明に結びつける行為だったと指摘。バイデン氏が、(「ロシア勝利は絶対にない」など)自身が語ってきた約束を達成できなかった場合、アメリカのリーダーシップは減退を免れないだろうと懸念を示しています。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙も2月24日、独仏英による、ウクライナに和平交渉を促す狙いについて報じました(電子版)。

各国の当局者に取材した同紙によれば、独仏英の3カ国は、ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)の関係強化に向けた協定締結を模索しているが、これは「和平協議に着手するようウクライナを促す狙い」だといいます。

というのも、ウクライナのゼレンスキー大統領は、あくまで「全土奪還」が目的だと主張しています。しかし、2014年からロシアの支配下にあるクリミアとウクライナ東部からロシア軍を排除することは、現実的に難しいのではないかという見方が、独仏英の政治家間で強まっているとのことです。特に、「膠着状態に陥った場合は、ウクライナへの軍事支援をいつまでも継続できないとの見方がある」といいます。

同紙が複数の関係者に聞いたところによれば、マクロン仏大統領とショルツ独首相は2月、ゼレンスキー氏との会談で、ロシアとの和平協議の検討を促したとのことです。

バイデン政権がウクライナへの徹底支援を強調し、ウクライナの指導部および国民も全土奪還を主張する一方、各国では戦況に対する冷静な見方が強まっています。

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