《本記事のポイント》

  • ロシア―ウクライナ戦争で漁夫の利を得る中国
  • 台湾危機への備えは十分か?
  • 目前の危機、台湾有事に日本はどうするのか?

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

前編(https://the-liberty.com/article/20043/)では、米軍が中国と対峙するために十分な予算規模を割けていないというお話を中心に述べてきました。今回は、この財政難がアメリカや世界に与える影響について話していきます。

ロシア―ウクライナ戦争で漁夫の利を得る中国

さて、アメリカは国防費の面で受難の時代を迎えているにもかかわらず、現時点では、バイデン政権はウクライナ支援を止めていません。

オースティン国防長官は、4月にウクライナを訪問した際に、アメリカはロシアの「弱体化」を望んでいると発言しました。ウクライナ戦争の目的が、ウクライナの防衛にとどまらず、ウクライナ侵攻を奇貨として、アメリカのライバルにならないようロシアを永遠に三流国に貶めたいという本音が思わず出た発言でした。

トランプ政権で安全保障担当の大統領補佐官を務めたボルトン氏も、10月に「Putin Must Go: Now Is The Time For Regime Change In Russia(プーチンは去らねばならない。今こそロシアのレジームチェンジの時だ)」と題する論文で、プーチン氏を政権から引きずり下ろすべきだと主張しました(*)。

アメリカのウクライナ介入の目的が、ロシアの弱体化にあるなら、その目的を達するまでアメリカはウクライナ支援をやめたくありません。多数派を奪還した共和党の下院議員がウクライナ戦争の長期化を阻止する形で動くまで、この流れは止まないでしょう。

アメリカは、歴代の政権が同時に2つの戦争に勝利することを目標にしてきたものの、現実には破綻していることを前述しました。

この米軍の衰退は、ウクライナ戦争の長期化という中にあって、台湾を狙う中国の習近平国家主席には好機と映るに違いありません。ウクライナでロシアと代理戦争を行うアメリカには、同時に東アジアで中国と事を構える余裕はないのです。

したがってウクライナ戦争の長期化は、中国にとって軍事的利益になります。習氏の三期目の盤石さと人事、国際情勢を鑑みれば、台湾侵攻は遠い未来にしか起きないという考え方は、希望的な見立てだと言えるでしょう。

(*)John Boltn, “Putin Must Go: Now Is The Time For Regime Change In Russia"

台湾危機への備えは十分か?

11月3日に開催された海軍のシンポジウムで、米戦略軍司令官のチャールズ・リチャード提督は、中国との大規模衝突は「来る」と明言しました。しかしその一方で、アメリカの「船(抑止力)は、ゆっくりと沈みつつある」と述べ、中国に対するアメリカの通常兵器および核抑止力の水準が徐々に低下していると強調しています。

また同氏は、「ウクライナ危機はウォームアップに過ぎない。大きなもの(中国との衝突)がやってくる。それはロシアのウクライナ侵攻とは異なる次元の紛争になるだろう」と述べ、中国との紛争に備えるためには、「米国の防衛戦略や抑止力を早急に見直し、根本的に変えていかなければならない」と主張しました。

さらに前統合参謀本部副議長のジョン・ハイテン大将は昨年9月、中国と直接対決するための軍の近代化について、「まだ信じられないほど動きが遅い」と述べています。

米海軍は中国を抑止するためには500隻の戦闘艦が必要だと試算しているものの、現実の米海軍は298隻にとどまっており、2037年には280隻に縮小してしまいます。

弾薬も不足しています。例えば台湾に侵攻する中国海軍艦艇を阻止する長距離対艦ミサイル(LRASM)のような兵器の在庫は極めて不十分で、2027年までには、空軍と海軍とで合わせて629発しか保有できない予定です。

台湾への支援も、ウクライナに比較すると大きな温度差があります。

バイデン政権は、ロシアの「特別軍事作戦」が始まって以降の約8カ月で、ウクライナに約200億ドルの軍事支援を行ってきました。一方で台湾へは、今後4年間でウクライナの4分の1でしかない45億ドルの軍事支援を含む「台湾政策法案」がやっと米上院議会を通過した段階にあります。

台湾への武器供与は少なすぎで、かつ遅すぎます。ウクライナの教訓を生かし、海底機雷や沿岸防衛巡航ミサイルなどを多量に配備して、台湾を「ヤマアラシ」にすることで、効果的に侵攻から守る能力を早急に整備すべきです。

目前の危機、台湾有事に日本はどうするのか?

米空軍は10月28日、沖縄嘉手納基地に常駐するF15戦闘機を、この11月から2年間かけて段階的に撤退すると発表しました。

沖縄は中国の侵出を阻止する第一列島線にあり、その要に位置します。この戦略的に最重要な地域から撤退するにもかかわらず、それに代替する常駐の戦闘機は用意されない見通しです。

おそらくアラスカに配備されたF22ステルス戦闘機を、一時的な巡回配備で補う計画だと思われます。しかしアラスカのF22のパイロットにとっては、さらに負担が増えることになり、他地域への展開と重なれば、その優先順位で逡巡することになるでしょう。

ここには米軍予算の削減による影響が見られます。ただ中国側からは、中国の嵐のようなミサイルに晒されることを恐れて、沖縄の米戦闘機を撤退させたと映るのではないでしょうか。米軍の本音もこのあたりにありそうです。

台湾防衛は、日本の国家存亡の危機として、挙国一致して取り組むべき一大事です。

しかし自衛隊は米軍との共同作戦を前提として構築されてきました。また近年の驚異的な中国の軍事増強の前に、自衛隊は独力で中国と立ち向かうことができません。

すでに手遅れの感は否めませんが、まだ打つ手は残っています。政府は国民に台湾危機の現状と、防衛努力の重要性を誠実に説明すべきです。一時的な国債増額でも構わないので、ただちに自衛隊の継戦能力を大幅に引き上げる必要があるでしょう。

またインドとの外交関係を強化し、中国の背後に不安を抱かせ、台湾正面に集中できない状態をつくり出すべきです。

ロシアについては、アメリカに同調して行った制裁で、戦争の長期化を招いています。この路線から抜け出し、一刻も早く停戦を促すためのリーダーシップを発揮すべきです。経済・金融的に中国共産党を揺さぶる方策もあるでしょう。

時間はあまり残されていません。戦争になれば台湾のみならず日本も大惨事となります。力を尽くして平和裏に中国の野望を止めなくてはなりません。


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の中国問題などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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