《ニュース》

米CNNの著名キャスターが、男子学生からの報道倫理に関する質問にタジタジになる場面が、アメリカで話題になっています。

《詳細》

話題となったのは、米シカゴ大学で4月6日から8日にかけて開催された、「偽情報と民主主義の崩壊(Disinformation and the Erosion of Democracy)」と題した一連のセッションです。初日にはバラク・オバマ元大統領もスピーカーとして登壇するなど、数々の著名人が参加しました。

イベント2日目の7日、CNNの著名キャスター、ブライアン・ステルター氏が、ニューヨーク・タイムズ紙の記者らと共に、「報道機関が偏向や不公平感を防ぐためにはどうすればいいか」についてセッション。

質疑応答のコーナーで、シカゴ大学の学生クリストファー・フィリップスさんがステルター氏に向けて、次のような質問を投げかけたのです。

「あなた方は、FOXニュースが偽情報の提供者であると散々語ってきました。しかしCNNは彼らと肩を並べています。CNNは(トランプ前大統領と)ロシアとの共謀のデマを流し、俳優ジャシー・スモレット氏のデマ(*1)を後押しし、(連邦最高裁の)カバノー判事をレイプ魔と中傷し、ニック・サンドマンさん(*2)のことも白人至上主義者と中傷しました。そして、ハンター・バイデンのノートパソコン事件を純粋なロシアによる偽情報だと見なしましたよね」

「メインストリームの企業ジャーナリストたちが、バイデン政権の弁明者、もしくはチアリーダーに過ぎなくなりつつある今、ジャーナリズム倫理の規範は死んだ、あるいはもはや通用しないと宣言する時が来たのでしょうか」

「メインストリームメディアおよびCNNのあらゆる過ちは、あたかも魔法のように一つの方向に進んでいるように見えます。これが単なる偶然の一致であると信じるよう、私たち(視聴者)は期待されているのでしょうか。それとも何か他の背景があるのでしょうか」

これに対してステルター氏は一言目に、「昼食の時間だ(It's time for lunch)」と述べ、男子学生の発言内容について「右派によるCNNに関する人気の物語(narrative)であると理解している」とした上で、次のように語りました。

「現実の共有と民主主義について語る時、すべてのネットワーク、すべての報道機関が民主主義を守ることが重要だと考えます。そして、彼らがそれに失敗したのであれば、それを認めることです」

「ですが、FOXニュース特派員のベンジャミン・ホールがウクライナで負傷した時、CNNとニューヨーク・タイムズ紙のニュースクルーは自分たちの仕事を中断して、助けようとした。彼を国外に逃がそうとし、死んだクルーたちを探そうとしました。それが報道機関の仕事です。あなたの質問はこうした絆と信頼を共有することに関するものですが、彼らは実際に共に仕事をしているのです」

しかし、上記のステルター氏の回答はフィリップスさんの質問に全く答えていないとして、米保守層を中心に批判の声が上がっています。

一連の質疑応答が行われた翌8日、フィリップスさんはFOXニュースのタッカー・カールソン氏による人気番組に出演し、次のように語りました。

「ブライアン・ステルターは、FOXニュースがいかに巨大な偽情報の提供者であるかを30分も語っています。彼らは国民の敵だと。そこに私が『ちょっと待ってください』と割って入ったのです。なぜなら、少なくとも私が見た限りでは、CNNの方が、あなた(ステルター氏)が、FOXニュースについて主張する10倍の偽情報の提供者だからです」

(*1) 2019年1月、ゲイであるスモレット氏は、トランプ支持者とみられる暴漢から「人種差別的で同性愛嫌悪を含んだ中傷」を受けたと被害を訴えたが、その後の2月に、スモレット氏が金銭を支払って仕組んだ自作自演であった疑いが浮上し、虚偽の通報などの罪で起訴された。翌3月に起訴は取り下げられたが、その理由は明かされておらず、事実を捻じ曲げていると批判の声が上がっている。

(*2) 2019年1月、米ワシントンのリンカーン記念碑前で複数の団体が抗議集会を開く中、人工中絶反対のデモ行進に参加していた白人男子学生のニック・サンドマンさん(「アメリカをまた偉大にしよう(Make America Great Again)」の帽子を被っていた)が、先住民長老の前で微笑みを浮かべ続ける動画が出回り、これに対してひどく嘲笑的な態度であり、白人至上主義であると非難の声が集まった。サンドマンさんには殺害脅迫も届いたという。しかし、全体状況を映した他の動画から、周りの抗議団体がサンドマンさんたち学生に対して罵声を浴びせていた様子などが明らかになり、不当な批判であったことが明らかとなった。

《どう見るか》