コロナ禍で、政府や自治体がさまざまな「自粛」を要請。それに伴い、国民一人につき一律10万円を給付するなど、多くの補助金や助成金をバラまいている。
だが、政府が1000兆円を超える財政赤字を抱えていることが問題になっていることを考えれば、この先に起きるのは「増税」だろう。
コロナの被害を考えれば、インフルエンザ並みの対応でいいはず。個人や企業が、政府などの自粛要請を無批判に受け入れていると、そのうち、政府の補助なしでは生きられなくなる。
今回紹介するのは、さまざまな言論活動の中で、「自助の精神」や「自由の大切さ」を訴え続けた故・渡部昇一・上智大学名誉教授のインタビュー。
2009年夏に民主党政権が誕生した直後のものだが、「可哀想という『道徳』を『制度』にすると暴走する」「自助努力しない人にトロを食べさせてはいけない」など、現代の日本人に必要な考え方を示している。2回に分けてお届けする。
※2009年11月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの
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自助の精神を失った日本は"動物園"と化している
上智大学名誉教授
渡部 昇一
プロフィール
(わたなべ・しょういち)1930年山形県生まれ。上智大学名誉教授。上智大学大学院博士課程修了後、西ドイツのミュンスター大、オックスフォード大学へ留学。1971年、上智大学教授。専門の英語学のほかに多岐にわたる分野で言論活動を行う。
【戦後、忘れ去られていたスマイルズの『自助論』や幸田露伴の『努力論』を再評価し、自助努力の大切さを啓蒙し続けてきたことでも知られる渡部昇一氏に、左傾化する現代日本において、なぜ「自助の精神」が大切なのかを聞いた。】
「動物園」では大切な本能が衰えていく
いかなる時代においても個人の努力、セルフ・ヘルプというものは尊ぶべきものですが、今の日本からはこの精神が失われつつあります。
以前新聞に、ある動物園でシベリア虎の子供が生まれたという記事が載っていました。しかしその親が子育てを拒否するため、出産直後の犬が親代わりとなって、虎の子供にお乳をあげて育てているという内容です。
昔から「虎の子」と言ったら、とても大切なものを意味しますが、その虎は子育てをしなかった。なぜか? それは「動物園」だからです。
通常、野生の虎は一生懸命えさをとって子供を大切に育てます。それは本能です。ところが動物園ではえさの心配をしなくていいので、重要な本能がどんどん衰えていく。そうすると、虎さえも子供を育てなくなるという極端な例です。
これは、ちょうど現代の日本社会に当てはまります。「国が食べさせてくれる」と期待する人が多くなりましたが、これは動物園の虎と同じ状態で、「自分の生活は自分で面倒を見る」という本能が麻痺しているんです。
可哀想という「道徳」を「制度」にすると暴走する
これまで世界でもっとも真剣に「動物園」を目指した国がソ連です。レーニンやスターリンは「失業もなく死ぬまで国が面倒を見てやる。その代わり国の言うことは何でも聞け」と言ったが、その結果国が潰れました。中国の毛沢東もやろうとしたけどだめでした。つまり、人間の世界を動物園にしてはいけないのです。
人間は動物と違って、困っている人がいると可哀想だから面倒を見てあげようという気持ちになります。これは非常に素晴らしい、尊い感情です。それを否定してはいけません。ところが、その可哀想という気持ちを、「道徳」から「制度」にしてしまうと動物園現象が起きるんです。
社会保障制度でも、その必要性を唱える人が自分でお金を出す分にはいいのですが、個人的な責任感でなく、制度にして人のお金でやろうとするとソ連や中国のように暴走を始めます。この部分は非常に気をつけなければいけないところです。
所得税は一律10%以下に 相続税は全廃を
「本能を眠らせていいですよ」というのが「大きな政府」、「本能を大切にしましょう」というのが「小さい政府」です。目指すべきは当然小さい政府です。その実現のために一番確実な方法は、一律に税金に上限を設けることです。
現在、日本の所得税率は最高40%で、まったく納めていない低所得者も多くいます。
ノーベル賞を受賞した大経済学者のハイエク先生は、ソ連の経済的解体を的確に予言した方ですが、「どんな国も所得税は15%以下でいいはずだ」とおっしゃっていました。また以前、旧大蔵省の主税局長と会ったとき、その話をしたら「すべての人が納めるなら10%もいりません。7%でけっこうです」と言っていました。
現在、国の所得税収入は16兆円程度ですが、国内総生産をだいたい500兆円とすると、その10%は50兆円、7%は35兆円です。なんだかんだいろいろな税金をとるよりも、所得税を一律10%にすれば、税収のほとんどをカバーできるわけです。
現憲法は二九条で、私有財産を冒してはならないと謳っているのに、三〇条には「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」とある。
つまり、法が定めれば所得税だって100%とれてしまう(笑)。だから私は憲法を改正して「所得税は10%以下」と入れるべきだと思います。国民の権利を守るために一律に税金の上限を設けて、国が勝手なことをできないようにしておく必要があるのです。
それともう一つ必要なのは、相続税の全廃。そもそも相続税は、いろいろな税金をとられた上で貯めたお金です。人が死んだからといって、もう一度取るなんておかしい。
(後編につづく)
【関連書籍】
『渡部昇一 「天国での知的生活」と「自助論」を語る』
幸福の科学出版 大川隆法著
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2020年7月号 コロナ不況は無用な人災 Part.2 Spiritual Advices
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