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《本記事のポイント》
- 2期目の政権となる蔡英文総統が中華民国憲法の改憲に意欲
- 台米関係の緊密化に中国が焦り
- 日本は「両天秤外交」を捨て、日台米連携を築け
コロナ禍の中、「中国」と「台湾」の関係の変化に、世界から注目が集まっている。
蔡英文総統率いる民進党政権は台湾と中国の関係について、独立でも統一でもない「現状維持」路線を一貫して堅持。「一国二制度」による中台統一を拒否している。その流れの中で、2期目を迎えた蔡総統が5月20日の就任式で発表したのが、立法院(国会)に「憲法修正委員会」を設けるという方針だ。
台湾における中華民国憲法改正については、これまでにも「中国を統一する方針」を削除し、「中華民国」という名称の変更などの議論が出ていた。
蔡氏の方針に対し、中国共産党序列3位で全国人民代表大会(全人代)常務委員長の栗戦書氏は、同月29日、「もし台湾独立勢力が独断専行で向こう見ずなことをすれば、われわれは反国家分裂法に照らしてあらゆる必要な手段をとる」と反発している。
中華民国憲法、なぜ改憲が必要?
中華民国憲法については、作られた当時の情勢と、現在の台湾の国の在り方とが大きく異なる。そのため、矛盾が生じる点が出ているのだ。
中華民国憲法は1946年に国民党によってつくられた。そこには「国家統一前」や「固有の領域」などの、統一を前提とした語句が含まれている。
蒋介石率いる国民党は、中国本土で共産党との国共内戦に敗れ、台湾に逃れてきた。国民党の言う「統一」とは本来あくまでも、「中華民国」として中国本土を統一すること。「中華人民共和国」に併合されることではない。
一方、民進党は「台湾にある『中華民国』は既に独立した主権を持つ国家」という「独立」の流れを汲む。
事実上、台湾は中国とは政治体制が異なり、別の国家として歴史を刻んできた。憲法における「中国全土を統一する中華民国」というスタンスとは矛盾が生じているのだ。
また、中華民国と中華人民共和国が「1つの中国」という立場を堅持しつつも、その意味解釈においては各自で異なることを認めるという「92年コンセンサス」があると言われている。
こうした混乱により、「中国全土を統一する中華民国」というスタンスが、「中華人民共和国としての統一」として解釈される恐れがある。そのため、明確に「台湾」は「中国」ではないことを示した憲法に改正する必要が出てきている。
ちなみに、蔡総統や李登輝元総統は92年コンセンサスの存在を否定している。
改憲を行うには、国民の過半数の同意が必要となる。このハードルを越えるには、新型コロナウィルス対策で成果を上げた蔡政権の支持率が高まっている今が絶好のチャンスだ。
台米関係の緊密化に中国が焦り
栗氏が強い反発を示したのには、こうした改憲の機運の高まりのほかに、台米関係の緊密化も関係している。
蔡総統の就任式には、アメリカのポンペオ国務長官からの祝賀メッセージが流された。台湾の総統就任式に、米国務長官の祝賀メッセージが流されるのは初めてだ。
また、アメリカが台湾に大型魚雷18発を売却し、台湾への軍事支援を活発化させている。中国政府や中国メディアはこうした台米関係の緊密化にいらだちを募らせ、中国が武力行使に出る可能性をちらつかせて威嚇している。
中国共産党の機関紙である環球時報は5月21日付の社説で、蔡総統の就任演説に対して「台湾をさらにアメリカに傾斜させ、アメリカとともに中国に対抗する意図」が明らかだとして反発している。
こうした強い反発は、新型コロナへの感染対策に成功して世界中から注目を集めながら、アメリカとの連携を強化し、台湾の民主主義が対外的に認められることへの強い焦りの裏返しと言える。
日台米の連携が鍵
こうした中国の圧力に対抗するには、アメリカだけでなく日本も台湾を積極的に支援していき、さまざまな面において日台米で連携していく必要がある。
まずは、日本自身が米中の「両天秤外交」から脱却し、台湾が国家として、国際社会に認められるように支援していくことが重要だ。
日本政府は台湾のWHOのオブザーバー参加を支持する一方で、日中関係は「最も重要な二国間関係の1つ」と配慮を示した。また、習近平の国賓訪日を再検討するように自民党の外交部会が要求したことに対して、菅官房長官は「関連の状況全体を見ながら、日中間で意思疎通を続けていきたい」と述べるにとどめた。こうした両天秤外交をやめる必要がある。
例えば、台湾と日本との自由貿易協定(FTA)の締結によって、台湾の経済的な脱中国を支援できる。
また、台湾と国交を正式に回復し、中国が台湾を侵攻した際には集団的自衛権によって武力で対抗措置を取れるようにしておくことも重要な手立てだ。中国が軍事行動に出たときの備えを日台米で協力して行っていく必要がある。
こうした日台米の緊密な連携が、中国の軍事的威嚇に対抗する有効な手立てとなる。アメリカが台湾との関係を深めつつある今、日本も台湾との関係をさらに深めていく決意を固めるべきだ。(嶋)
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