《本記事のポイント》

  • 圧力(1)「ロシアが最後は助けない」
  • 圧力(2)「トランプ政権の機動力がギアアップした」
  • 圧力(3)「人道的介入」というオプション

トランプ米大統領は14日未明(日本時間)、シリアのアサド政権が首都近郊の東グータ地区で化学兵器を使用したとして、米軍に化学兵器関連施設などへの精密爆撃を指示した。米軍は英仏軍と共同で、昨年4月のシリア攻撃の2倍の兵器で、攻撃したという。

東アジアに視点を移すと、今回の攻撃は、6月初旬までに行われるとされる米朝会談を前に、北朝鮮に3つの圧力をかけたことになる。

圧力(1)「ロシアが最後は助けない」

一つは、「ロシアは、最後は助けてくれない」という現実を見せつけたことだ。

北朝鮮はアメリカをけん制する後ろ盾として、中国と同程度かそれ以上に、ロシアに期待を寄せている。北朝鮮の外相は10日にもロシアの外相と会談。両国首脳による会談の可能性もささやかれている。

このほど再任したプーチン大統領も、3月1日に行った年次教書演説において「ロシアとその同盟国に対する核兵器使用には直ちに報復する」と警告した。さらに、アメリカのミサイル防衛網を突破できるとする、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を公表。その際に、新型ミサイル弾道がアメリカのフロリダに突入しているようにも見える映像を公開するなどして、波紋を広げていた。

北朝鮮にとって、さぞ「頼もしい庇護者」に見えたことだろう。

今回、トランプ氏がシリア攻撃を予告した際にも、「シリアを支援するロシアが報復し、より大きな紛争にエスカレートするのではないか」ということが盛んに議論された。

それに対してトランプ氏は、シリア攻撃命令後に行ったテレビ演説で、「無実の男性や女性、子供たちの大量虐殺に関わりたい国とは、一体どんな国か」と、釘を刺した。

そして14日夜時点で、ロシアに反撃の気配はない。直接的な軍事支援をしているシリアが攻撃されても動かないなら、まだ距離のある北朝鮮のために動く可能性は、限りなく低いだろう。

圧力(2)「トランプ政権の"機動力"がギアアップした」

さらに今回の攻撃は北朝鮮に、「トランプ政権の機動力がもう一段上がった」ことも見せつけた。

少し前までは、マクマスター大統領補佐官、ティラーソン国務長官、マティス国防長官の三役が、トランプ大統領の軍事的な強硬姿勢に歯止めをかけていた。昨年末にかけて、北朝鮮の度重なるミサイル実験に対してアメリカが動かなかったのも、三役の制止があったためと言われている。

しかしトランプ氏はこのほど、大統領補佐官を元国連大使のボルトン氏に、国務長官も元CIA長官のポンペオ氏に入れかえる決定をした。両者は、トランプ氏とより考えが近い。

残るマティス国防長官は、今回のシリア攻撃に対しても慎重姿勢を見せたことを、13日付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。実際、攻撃に踏み切る前に2回ほど、動く機会があったが、マティス氏は攻撃を中止したという。

今回、それでもトランプ氏は、攻撃を決断した。

今後、トランプ政権は軍事行動を取るべきタイミング、取ることのできるタイミングを、逃さない――。今回の攻撃は、そんな政権の機動力のギアアップを世界に示すものだった。

「時間稼ぎの非核化交渉」をけん制

つまり今回の攻撃によって北朝鮮は、ロシアという「盾」が当てにならず、アメリカの「矛」がさらに鋭くなったことを、まざまざと実感せざるを得なかったと言える。

そうなると、これから展開されていく「非核化」をめぐる駆け引きにおいても、立場が弱くなる。

北朝鮮は「段階的な非核化」というものを主張している。これは、国際社会が「制裁解除」「経済支援」「体制の保障」などのカードを一枚ずつ切るごとに、北朝鮮も「核の放棄宣言」や「核の凍結」というカードを一つずつ切って応えるという方式だ。

しかし北朝鮮はかつてこの方法で、制裁解除や経済援助などの利益を引き出せるだけ出し、最後にちゃぶ台返しを繰り返してきた。そして、何事もなかったかのように、核開発を再開したのだ。今回も同じ手法で、時間稼ぎをしようとしている可能性は高い。

アメリカもその意図は見越している。国務長官就任を間近に控えたポンペオ氏は、12日に開かれた指名承認公聴会で、「(北朝鮮に)見返りを提供する前に恒久的かつ不可逆的な結果を得ることを確実にする」ことを主張している。つまり、核開発施設の破壊を見届け、立ち入り調査などで確認するまで、制裁解除も援助も行わないということだ。

始めから時間稼ぎを狙っている北朝鮮にとっては、呑みたくない条件だろう。しかし、交渉が決裂すれば、アメリカは今までになく躊躇せずに軍事行動に移る――。その可能性を、北朝鮮は今回のシリア攻撃で実感したはずだ。

そうすると、北朝鮮にとっての交渉の余地は、狭まってくる。

圧力(3)「人道的介入」というオプション

今回のシリア攻撃による、北朝鮮へのプレッシャーはもう一つある。

それは、昨年の攻撃と同じく、アメリカが国連安保理の承認もなく、「人道的介入」を行ったことだ。

トランプ氏は今回のテレビ演説において「いかなる国も、不正な国家や残忍な暴君、殺戮を行う独裁者を助長させることによって、長期的な成功を得ることはできません」「我々は、神が政権全体を尊厳と平和の未来に導かれることを祈ります」と語った。これが、北朝鮮も意識した言葉であることは、想像に難くない。

「人道」という面に関して言えば、北朝鮮における人権弾圧の激しさは、シリアに引けを取らない(関連記事参照)。

トランプ氏は米朝会談の際に、拉致問題についても提議する見通しだというが、アメリカの自衛のみならず、北朝鮮の体制の問題について、繰り返し言及してきた。「人権のために、我々は動く」というメッセージとも言える。

どのような経過を辿るにせよ、最終的に多くの人々の幸福につながることを祈りたい。

(ザ・リバティWeb企画部)

【関連記事】

2017年5月8日付本欄 北朝鮮、ミサイルよりも恐ろしい50の地獄 それでも「平和的解決」を訴えますか?

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2017年12月25日付本欄 「北朝鮮の国民は、民主化を望んでいる」脱北者インタビュー

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2017年12月9日付本欄 「北朝鮮と対話」は残酷な選択肢だ 2度脱北した"日本人"の壮絶な半生

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