安倍首相は、訪日中のサウジアラビア(以下、サウジ)のムハンマド副皇太子と首相官邸で1日に会談し、これから両国の閣僚らでつくる会議を発足させて、具体策を協議していくことで一致した。

サウジは、世界最大級の原油埋蔵量を誇り、日本の原油総輸入量の約3割はサウジ産だ。しかし、経済が原油に依存しているため、2015年に原油価格が50%下落したことを受け、「金持ち国」から一転、財政難に陥った。

今回訪日したムハンマド副皇太子は、サルマン国王の息子で、30歳という異例の若さで国防相と国家経済評議会議長を兼務する、サウジの最高実力者の一人だ。「脱・石油依存」を目指す経済改革を主導している。日本の後は中国も訪問し、民間投資を促したい考えだ。

サウジを取り巻く国際関係と宗教対立

世界最大の産油国であり、世界第4位の軍事大国でもあるサウジは、政治的な影響力が大きく、「中東の雄」とも呼ばれる。日本は今後、サウジとどう付き合っていくべきか。

まず、サウジを取り巻く最近の国際関係を見てみたい。

中東では、二大大国のサウジとイランが、地域安定の鍵を握っている。しかし両国の間には、宗教対立がある。イスラム教における多数派であるスンニ派を代表するのがサウジで、少数派であるシーア派を代表するのがイランだ。

アメリカもこの地域に大きな影響を与えている。アメリカは、世界一の産油国であるサウジと長く友好関係にある。

サウジはイスラム国などの問題で混乱が続くシリアとは敵対関係にあるため、米軍主導のシリアへの軍事介入を支持している。しかし2016年1月、サウジにとって仮想敵国であるイランに対して、欧米は経済制裁を解き、イランの核開発について合意した。

これを受け、アメリカとサウジの関係は悪化しつつある。

同じ頃、サウジでシーア派指導者ら47人が処刑されたことをきっかけに、シーア派が多数を占めるイランでは、サウジ大使館が襲撃された。この事件で、サウジとイランはついに外交関係を断絶してしまった。

この両国の対立には、サウジを支援するアメリカ、そしてイランと武器や石油を取引するロシアと中国が、それぞれの利害のために介入しているため、「米露中の代理戦争」という面もある。

ひとつ明らかなことは、中東の安定のためにはサウジとイランの二大大国の対立の激化は何としても避けたい、ということだ。

サウジの女性は中東一、不幸?

サウジの国内の問題にも目を向けてみよう。

サウジは、死刑になる罪状が最も多い国。死刑は刀での斬首で、しかも公開処刑として執行されることが多いという。日本では考えられないことが行われている。

また、女性の人権はイスラム諸国の中で最低レベルと言われている。特に未婚のカップルが性交渉をすると、男性の場合は鞭打ちの刑で済むが、女性は銃殺刑、斬首刑、絞首刑などに処されるという。こうした慣習は、現代の人権思想に合わない上に不公平だとして、国際的に批判されている。

日本は中東の経済発展のモデル

こうしたさまざまな問題を抱えるサウジに対し、日本は何ができるのだろうか。

日本は戦後、資源がないにも関わらず、勤勉に創意工夫を積み重ね、経済を一から復興させ、世界で最も発展した国の一つにまでなった。現在、石油依存型経済から抜け出そうとしているサウジに、発展モデルを示すことは確実にできるだろう。

また、日本にとっても、エネルギーの供給元であるサウジをはじめとする中東の安定化は他人事ではない。これから始まるサウジへのさまざまな協力を通して、日本が中東での存在感を強め、経済発展や人権の尊重、そして国民の幸福に貢献できることを期待したい。

(小林真由美)

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幸福の科学出版 『正義の法』 大川隆法著

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