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《本記事のポイント》

  • 「香港国家安全法」は「逃亡犯条例」改正案より危険
  • 習近平政権の賭け──「成長」を捨て「膨張」に進む
  • 中国が「踊らされている」可能性も

「逃亡犯条例」改正案より、はるかに危険な法案だ。

中国は全国人民代表大会(全人代)で、「香港国家安全法」を制定することを発表した。「国家分裂、政権転覆行為、組織的なテロ活動の防止」などを名目に、中国の公安に当たる国家安全当局に香港現地機関を設立させる。そして、中国の全人代常務委員会が香港に導入する法律をつくることができる──。"制度的侵略"とも言える内容だ。

これで「一国二制度」は半壊する。「一国二制度」とは、「外交・防衛以外は、香港人自身が半ば民主主義的に政治を行える」というもの。ここに「抜け穴」をつくるとして歴史的デモを引き起こしたのが、2019年に通りかけた「逃亡犯条例」改正案だった。犯罪者引き渡し」という名目で、中国が香港の「都合の悪い人物」を間接的にしょっぴけるためだ。

しかし今回の「国家安全法」は、「抜け穴」をつくるどころか、「一国二制度」の壁そのものをぶち抜くようなもの。堂々と法律をつくり、堂々と国家安全当局を送り込んで、民主派を一掃できてしまう。

香港の民主派には、昨年を上回る激震が走っている。

習近平政権の賭け──「成長」を捨て「膨張」に進む

習近平政権側にとっても、大きな賭けとなる。

米政府は2019年11月に「香港人権・民主主義法」を成立させた。「一国二制度」が守られていなければ、中国の関係者に制裁を科すものだ。

「国家安全法」の審議入りが発表されると、トランプ大統領は「極めて強硬に対応する」とコメント。米上院では、「国家安全法」案に関わった中国高官など制裁を加える法案が、超党派で提出された。

何らかの経済制裁は、100%覚悟しなければならない。

それでも習近平政権は、「香港落城」を目指す動機がある。

同政権は最近、失点続きだ。香港デモでは面子丸つぶれになり、台湾でも蔡英文総統を再選させた。貿易戦争では経済がボロボロとなり、新型コロナウィルス対策でも隠蔽などの失策は目に余るものがあった。

今まで対立してきた敵対派閥はもちろんのこと、習近平氏自身が属する「太子党」の中からも、陰に陽に批判され始めた。クーデター未遂説も、飛び交っている。

習近平政権としては、何としても失点を取り返さなければならないのだ。

今回の全人代では、「国家安全法」以外からもこうした"覚悟"が滲んだ。

注目を集めたのは、経済成長率の目標が見送られたことだ。経済成長率は中国において、共産党政権の数少ない正当性だった。

一方、2020年の国防費を前年比6.6%にする方針が示された。財政は極めて厳しいはずだが、近年稀に見る伸び方となっている。

求心力の根拠として「成長」を捨て、「膨張」に賭ける──。習政権の、"危険な踏ん切り"が垣間見える。

こうした賭けの背景には、「アメリカへの油断」もあるだろう。

米海軍では新型コロナの陽性者が2000人規模になっている。空母も11隻のうち4隻で感染が広がり、任務を中断せざるを得なくなっている。こうした状況を見て中国は、「トランプ政権は、発言だけは中国に攻撃的だが、実際はコロナの混乱で何もできない」と読んでいる可能性がある。

中国が「踊らされている」可能性も

この賭けは当たるのか。

大川隆法・幸福の科学総裁は4月、第二次大戦前にいち早くヒトラーの危険性を見抜いた戦略の大家、経営学者P・Fドラッカーの霊言を行った。ドラッカーの霊はそこで、アメリカがより大きな発想を持っている可能性に言及した。

それは、「中国を焦らせ、勇み足を誘う」というもの。米中がどこかの時点で衝突する可能性は、さまざまなところでささやかれている。そして、中国の軍事力の伸びを見れば、衝突を5年ほど前倒しにしたほうが、アメリカには優位だ。そこで関税戦争などで追いつめ、仕掛けさせて潰す──。

もしこうしたシナリオが背景で動いているなら、習近平政権は今、まんまと踊らされている。そして、「新型コロナ発症の隠蔽」「香港への圧力」「南シナ海・東シナ海での暴走」といった、"アメリカ爆発"の大義をせっせとつくっている可能性がある。

習近平氏の賭けは、かなり危ない線を行っているのではないか。

(馬場光太郎)

【関連書籍】

『P.F.ドラッカー「未来社会の指針を語る」』

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大川隆法著 幸福の科学出版

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