ピケティブームがあなたの給料を減らす - 本当の「資本主義精神」とは何か? Part3 金融

2015.02.28

2015年4月号記事

ピケティブームがあなたの給料を減らす

本当の「資本主義精神」とは何か?

今世界で最も話題となっている経済学者、トマ・ピケティの著書『21世紀の資本』が、世界で累計売上150万部を突破した。

「格差」を切り口に「資本主義の矛盾」を指摘する同書は、「収入が上がらない」「将来、自分は食べていけるのか」といった、人々のくすぶる不満や不安に火をつけている。しかし、本当に将来の収入が不安なら、このブームには気をつけなければいけない。本記事では、ピケティ理論の正体に迫りながら、「格差問題」「経済成長」「金融」の3つの視点で「資本主義の本当のあるべき姿」を考えていく。

(編集部 小川佳世子、馬場光太郎、中原一隆、小林真由美)


contents


Part3

金融

ウォール街の稼ぎは不当?

「ウォール街を占拠せよ!」

3年半前、アメリカ金融業の中心地、ニューヨークのウォール街で大規模なデモが起きました。「貧しい人が増えているのは、金融機関や一部の金持ちが稼ぎすぎているからだ」という不満が高まったからです。アメリカの金融業は不動産を含め、同国GDPの20%を生んでいます。

ピケティがブームになったのも、実はフランスではなくアメリカから。「アメリカでは1%の富裕層が、国全体の収入の20%を得ている」というデータなどが注目されたのです。「資本家への課税を強化すべきだ」という声が高まっているのは、金融で儲けている人たちへの不満や不平等感が根底にあると考えられます。

金融の本来の使命は有望な事業を育てること

では、金融業や富裕層の投資はずるい稼ぎ方なのでしょうか。世の中には、アイデアや経営の才能があり、起業を志していてもお金がない人がいます。 投資の本来の使命は、そうした有望な事業や人を見つけてお金を出し、育てること。 少し時間はかかりますが、事業が成功すれば富は大きく増えます。投資家は利益の一部を分けてもらうことで、投資した人もされた人も、両方が豊かになります。

金融は「富を増やせるところに富が集まる」資本主義において、重要な機能なのです。

もちろん、事業が失敗し、投資したお金を失うリスクもあります。そのため、金融業者や投資家には、「将来、この事業が成功するか」という「信用」を見極める判断力が問われます。 投資家が利子や配当(r)を得るのは、「信用」を正しく見極めたことへの正当な対価なのです。

多くの日本企業を潰した金融の「グローバルスタンダード」

国際決済銀行(BIS)という機構があります。「金融業界を安定させること」を名目に、1930年に世界の主要国が創設したものです。

BISは、銀行が危険な投資をしないように、さまざまな規制を世界の銀行に課しています。その中に、「貸し出した額の8%に相当する自己資本(自前の財産)を持っていなければいけない」というBIS規制があります。8%の「自己資本率」を下回ると、「その銀行はお金を貸し出せない」ことにしたのです。

日本でも各銀行は「8%の規制」を満たすため、企業へのお金の貸し出しを控え、すでに貸していた企業にも即時返済を迫りました。結果的に、多くの企業が潰れ、経済が停滞しました。中には、長期的に見て有望な企業もあったはずです。 しかしBIS規制は、投資の質とは関係ない一律の数字を押し付けるものでした。

数字だけを見て「信用」の基準を決める欧米的な発想を「グローバルスタンダード(世界標準)」として受け入れてしまったことで、日本経済は危機に陥ったのです。

投資の危険性をごまかして得る「r」

一方で、正当とは言いがたい利益(r)を得ている人もいます。

例えば投資会社が、お金のない人でも家が買えるように、1千万円のローンAを組んだとします。お金が返ってこないリスクは限りなく高い投資です。

投資会社はそれでもローンAを負担してくれる投資家を探すため、よりリスクの低いローンBと組み合わせます。すると、リスクが薄まって"数字上"は安全に見える証券Cができます。こうした操作を繰り返し、リスクが見えないようにして証券を売り、稼ぎを得ます。

こうした危険な証券が世界中で売られたことで起きたのが、サブプライムショック(リーマンショック)と呼ばれる2008年の金融危機です。

お金を返せるあてのない人に貸したことが、そもそもの間違いです。その根底には、金融業者が、投資に値するかどうかの「信用」を見極めず、数学的手法でリスクをごまかそうとする発想がありました。発達するアメリカ金融の負の側面です。

こうした手法で一部の資産家が稼ぎすぎている現状を見て、金融や資本主義そのものを否定する人もいます。

しかし、 本当の問題は金融の利益でも、資本主義でもなく、「長期的視野で起業家を育てよう」という正しい動機や使命感が失われたことにあります。

アメリカは、こうした問題を抱える自国の金融スタイルを、「グローバルスタンダード」と称して世界各国に押し付けてきました(右上コラム)。資本主義経済を健全に発展させるためには、本来の金融のあり方を原点から考え直す必要があるでしょう。

次ページからのポイント

本来の金融のあり方について

金融業者の「倫理」と「使命感」

あの事業も、アメリカの金融機関が育てた!?

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タグ: 鈴木真実哉  投資  ピケティ  著名知識人  2015年4月号記事  インタビュー  使命  金融  日下公人 

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