ついに始まったウクライナ軍の反攻作戦 繰り広げられる消耗戦は第一次世界大戦を彷彿とさせる(前編)【HSU河田成治氏寄稿】
2023.06.11
《本記事のポイント》
- 現在の戦況
- 繰り広げられる消耗戦
- 第一次世界大戦を彷彿とさせる塹壕戦
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
6月の第2週に入って、ロシア当局や欧米から、ウクライナ軍による反攻作戦の開始に関する情報が出始めました。6月8日には、米ワシントン・ポスト紙などのメディアも、ロシア関係者など複数の証言として明らかに反攻が始まったと報じました。
ウクライナ国防省そのものは、「計画は無言を好む。開始の宣言はしない」というメッセージを発信しており、反撃開始は明言しない方針ですが、徐々にウクライナ軍の動きは明らかになってきています。
ゼレンスキー氏はテレグラムで6月6日、「バフムート方面の第3強襲旅団と第57自動車化歩兵旅団の前進に感謝する」とした演説を公開し、翌7日以降も何度も同様の前進があったことを報じています(*1)。
一方ロシア側は6月8日、「ウクライナ軍が南部ザポリージャ地方に侵入したが、ロシア軍の大規模攻撃によって撃退、大きな損害を与えた」とショイグ国防相が発表しました。
(*1)〈 https://t.me/V_Zelenskiy_official/6477〉〈https://t.me/V_Zelenskiy_official/6490〉
現在の戦況
現時点で反攻に関する情報を整理すると、大きくはドネツク州とザポリージャ州で戦闘が起きています。
下図をご覧ください。
(1)ドネツク州方面
ドネツク州のバフムートは、約半年近くの戦闘でロシア側に占領された都市ですが、前述のゼレンスキー氏の演説にある前進とは、バフムート近郊の北と南方面からの反攻作戦のことで、南北から挟み打ちにして奪還する意図が見られます。
ウクライナ政府関係者は8日現在、ウクライナ軍がバフムートで数百メートルから2キロメートルほどの距離を前進したと公表しているようです(*2)。
これ以外にもドネツク州各地で戦闘が行われており、ウクライナ軍参謀本部は8日の戦況報告で「リマン、バフムート、アウジーイウカ、マリンカ方面では1平方メートルを争う激しい戦闘が続いている」と発表しています。
(*2)ISW(2023.6.8)〈https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-june-8-2023〉
(2)ザポリージャ州方面
ザポリージャ州方面では主として、上図のAとBの2箇所で戦闘が行われています。Aはドネツク州とザポリージャ州の境界付近でのドネツク州側で、限定的な反攻作戦という見方もあります。こちらの戦闘に関してロシア国防省は、「ウクライナ軍は大きな損害を被った」と発表したものの、ウクライナ側の前進も伝えられており、6月9日現在、一進一退の様相を呈しています。
もう一つの戦闘区域であるBはザポリージャ州西部で、こちらはクリミア奪還への本命攻撃だと見られています。ウクライナ軍としてはトクマク、メリトポリへ進撃し、クリミアとウクライナ東部をつなぐ補給路を遮断することでクリミアを孤立させる狙いがあると予想されています。
そのため両軍による激しい戦闘が行われており、双方に多大な被害が出ている模様です。
ロシア国防省は9日、「同地域へのウクライナ軍による2度の攻撃を砲撃や空爆で撃退した。この地域で敵は兵士680人、戦車35輌、歩兵戦闘車11輌、装甲車輌19輌、仏製自走砲カエサル1輌を1日で失った」と発表しています。他方で、ウクライナ軍はロシア軍の防御ラインを破り、ロシア軍は後退したとの情報もあります。
繰り広げられる消耗戦
ここ1週間のウクライナ軍の反攻作戦をまとめると、ロシア軍の複数の部隊を制圧し、わずかに前進が認められるものの、大きな損失に見舞われていることも確かなようです。
CNNの6月9日の報道では、米当局者が明らかにした話として、ウクライナ軍はドネツク州での戦闘で、予想を上回るロシア軍の抵抗に遭い、「相当の規模」の損失が生じたとされています。
前回の本欄の記事(ウクライナ軍の反攻作戦が開始! 反転攻勢の先にある3つの未来とは? (後編)【HSU河田成治氏寄稿】 )で紹介したとおり、待ち受けるロシア軍の地雷陣地や塹壕、「竜の歯」(高さ約1.2メートルのコンクリート障害物を並べたもの)などの重層的な防御陣地が反攻を困難にしていると思われます。
第一次世界大戦を彷彿とさせる塹壕戦
昨年来のウクライナ東・南部の戦線を見渡してみると、戦いの様相自体は大きく変わっていません。大量の砲弾や銃弾が飛び交い戦線がほとんど動かない戦闘で、第一次世界大戦を彷彿とさせます。
第一次世界大戦はあまり日本人には馴染みがありませんが、ドイツと英仏軍などが対峙した西部戦線は「塹壕戦」として語り継がれており、一日わずか数メートルの前進のために、大量の武器弾薬が消耗され、流血の惨事となりました。
ヨーロッパの戦後の発展を担うべき若者の多くがこの戦争で戦死したのです。国家の人材と資源の消耗があまりにも大きかったために、第一次世界大戦終了時には、3つの帝国が滅亡し(ロシア帝国、オスマン帝国、オーストリア帝国)、大英帝国の覇権もこの時に終焉を迎えました。ヨーロッパの落日を決定づける大戦争となったのです。
昨年7月のプーチン大統領の発言が改めて想起されます。
「聞くところによると、西側は我々を戦場で敗北させようとしているようだ。やってもらおうではないか。アメリカはウクライナ人を最後の一人まで戦わせようとしている。これはウクライナ人の悲劇だが、どうやらそうなりつつある」
ウクライナ戦争で、当事者であるウクライナやロシアが極めて大きな打撃を受けることは間違いありませんが、ウクライナ人を犠牲にした欧米による代理戦争は、欧米諸国の衰退をも招きかねません。
欧米は多額の資金援助から軍事費を増大させ財政難を加速させています。世界を混乱に陥れたウクライナ戦争に対しては、一刻も早い停戦へ道を開くべきだと考えます。
(後編に続く)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。
【関連書籍】
いずれも大川隆法著、幸福の科学出版
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