最新ウクライナ戦況 予測される米欧・ウクライナ側からロシアへの反撃とは?【HSU河田成治氏寄稿】

2023.01.15

《本記事のポイント》

  • ウクライナ東部でロシア軍が攻勢
  • 着々と準備を進めるロシア軍
  • 攻撃兵器の供給は大規模な戦闘を招き寄せる

元航空自衛官
河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

国連安全保障理事会は1月12日、「法の支配」をテーマにした公開討論を行いました。討論では、欧米側からロシアへの非難と、中露からの応酬で激論となり、両者の溝は深まるばかりです。

ロシア国防省は13日、激戦が続いていたウクライナ東部ドネツク州北部のソレダルを12日に制圧したと発表しました。

現在のウクライナの戦況をどう見るべきでしょうか?

最新ウクライナ戦況:ウクライナ東部でロシア軍が攻勢

実は、東部ドネツク州のバフムート(アルチェモフスク)周辺は、激しい戦闘の一方、ここ数カ月は膠着状態にありました。

しかしここにきて、ロシア軍がバフムートのすぐ北にあるソレダルをほぼ攻略した模様で、ドネツク州の戦況はロシアの優勢が際立ってきました。

ロシア側のドネツク人民共和国の国会議員ベルディチェフスキー氏は、露通信社スプートニクの取材に対し「ソレダルの勝利は、ドンバス州解放への扉を開く」と語りました。またロシア軍のヴドビン司令官も、「(このソレダル攻略などの成果は)ウクライナ軍の防衛線の重点部分の崩壊の兆候で、ウクライナ軍がここで耐えられないと、西方のスラビャンスク~クラマトルスクのラインまで後退することになる」と述べています。

米シンクタンクの戦争研究所は、ソレダル制圧の軍事的な重要性は高くないとの見方を示していますが、ここには、戦略的価値があります。南のバフムートおよび北のシヴェルシクに通じる補給上の重要幹線道路(T0513)の支配につながるからです。

ロシア軍はソレダルの西にある幹線道路T0513に迫っていますが、この道路はウクライナ軍にとって、北方のシヴェルシク方面を守る兵站ルートに当たります。またソレダルから南に進撃すれば、要衝の地バフムートを北側から回り込んで包囲することが可能となり、同時に主要な補給幹線道路であるM03を断ち切ることができます。

ロシア国防省は1月13日、「ソレダルの解放により、アルチェモフスク(バフムート)のウクライナ軍の補給路を切断、封鎖して釜(包囲戦)に入れることが可能になる」と発表しています。

バフムートが陥落すれば、ウクライナ軍はドネツク州の西側に追いやられて、最後の防衛線(スラビャンスク~クラマトルスク~コンスタンチノフカ)を構築せざるを得なくなる可能性が高いので、ロシア軍とウクライナ軍の双方にとって譲れない重大な戦いの地になっているのです。

着々と準備を進めるロシア軍

昨年12月、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英紙エコノミストのインタビューで、「ロシア軍の動員計画は非常に上手くいっており、早ければ来年(2023年)の2月までに動員した20万人の訓練が終わる」「前線から遠く離れたウラル山脈の向こう側で必要な物資の準備も行っている。来年の2月までに準備が整い、再びロシア軍が攻勢に出る」と答えました。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も、「ロシアは長い戦争を戦い抜く準備を行っており、多くの兵員と武器・弾薬を手に入れようとしている。決してロシアを過小評価してはならない」と述べています。

西側のマスコミは、「追い詰められつつあるロシア」という文脈で報道することがほとんどですが、実際にはロシアはこれから強力に攻勢をかけてくる可能性が高く、それに対応するアメリカ側の援助もより過激なものになると推定できるのです。

反撃を計画するアメリカ側とウクライナ軍

アメリカは、昨年末に総額1兆6,580億ドル(226兆円)の2023年度歳出法を可決しました、その中にはウクライナへの巨額の追加支援費449億ドル(約6兆円)が含まれています。

歳出法の成立を受けて今年の1月6日、アメリカは過去最大となる37億5,700万ドル相当(約5,000億円)のウクライナ支援パッケージを発表しました。

このパッケージには歩兵戦闘車(M2ブラッドレー)50両なども含まれていますが、これには重大な意味があります。

ブラッドレー歩兵戦闘車について、ウクライナの国防省情報総局のキリロ・ブダノフ准将は、「我々はブラッドレーの到着を待ち望んでいて非常に期待している。これは我々の戦闘能力を大幅に強化してくれるだろう。3月頃に大規模な反撃が始まり、ロシアの最終的な敗北を決定づけるはずだ」と語っています。

歩兵戦闘車は戦車とともに前線に突撃し、降車した兵員の強力な火器も加えて周辺を制圧する役割を果たします。このように歩兵戦闘車は、ウクライナ軍による作戦で一定の戦力になると考えられます。

さらにドイツはドイツ製のマルダー歩兵戦闘車、フランスはフランス製の軽戦車を提供すると発表をしました。また英国製のチャレンジャー2戦車が送られる予定です。そのほかは、ドイツ製のレオパルド2などの主力戦車も送られることが検討されています。

これまでウクライナに提供される戦車などの主力兵器は、ロシアの兵器がほとんどでしたが、ここにきてアメリカとヨーロッパ製の兵器(NATO軍の兵器)の存在感が増している点は、見過ごすべきではありません。NATO軍の介入ステージが段違いに上がったと捉えるべきです。

今後のウクライナが仕掛ける大規模な戦闘では、ロシア空軍を阻止するための西側(たとえば米国製のペトリオット)の対空ミサイルなどの傘の下で(以前はロシアのS-300など)、これまでのロシアのT-72などに替わり、米・仏・独・英などのNATO軍装備の歩兵戦闘車や装甲車、おそらく戦車も参加することになるでしょう。

これら戦力の増強は、ウクライナ軍に強力な攻撃能力を与えますから、ロシア側からは「NATO軍との戦い」がエスカレートしたように見えるはずです。

ハンガリーのノバク大統領は1月12日、「NATOは戦争に加わらないようにしなければならない。感情に支配されて紛争に引きずり込まれてはならない」と外国大使との会合で演説しました。

攻撃兵器の供給は大規模な戦闘を招き寄せる

フランスが歩兵戦闘車をウクライナに供与すると発表した際、ロシア連邦評議会委員長のプシュコフ氏は、「フランス政府の決定は、NATOがウクライナへ他の攻撃的武器の供給のプロローグになるかもしれない」と警告しています。

これらウクライナ・ドネツク州でのロシア優勢の戦況と、ロシアが2月頃に送り出してくると予測される約20万の動員兵、ウクライナ側が近々計画していると思われる反撃とそのための欧米の兵器供与などを総合的に勘案すると、今後数カ月以内に、具体的地域は不明ですが、大規模な戦闘が起きる可能性が高いと推測されます(数カ月と考える理由は、アメリカなどから供給される兵器の使用に数カ月の訓練を要するものがあるからです)。

ウクライナ国防安保委員会のオレクシー・ダニロフ氏は、「我々も敵も準備しているため、今後の2~3カ月間の戦いが決定的なものになる」と述べています。

軍の作戦は最高機密であり、どこまで本当なのか、またその真意は明らかではありませんが、ウクライナ軍が攻勢を計画していることは確かであると言えます。(後編に続く)

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。

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タグ: 河田成治  NATO  国連安全保障理事会  ロシア  HSU  ウクライナ  正義  戦況 

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