トルコは、シリアの「イスラム国」(IS)、イラクの「クルド労働者党」(PKK)の両者を同時に空爆する作戦に踏み切った。

トルコは北大西洋条約機構(NATO)の一員でありながら、今まではISへの軍事攻撃を控えており、ISを殲滅させたい欧米から批判を受けていた。

トルコがIS攻撃に慎重だった理由は、ISがトルコ政権と同じスンニ派であったこと、ISによる報復テロを恐れたこと、シリアのアサド政権をめぐるアメリカとの意見の対立などがあった。トルコ側はアサド政権の打倒が先決で、ISへの攻撃は敵対するアサド政権を利すると考えていた。

今回、ISへの空爆に踏み切った背景には、ISの動きを看過できなくなったことがある。20日には南部のスルチでISによるものと見られる自爆テロが発生し、32人が死亡し、約100人が負傷。その2日後、シリア国境付近でISとの大規模な交戦が起こっていた。

一方、敵対関係にあるPKKとは2013年に停戦合意に至り、その後も和平交渉を続けていたが、今回の空爆で交渉は決裂した。

ISとPKKの同時空爆には、トルコ国内のテロが激化する恐れもある。トルコ国内には6000人ものIS戦闘員が潜んでいると言われ、トルコ各地で報復テロが起こる可能性もある。

今回の空爆により、シリア情勢は一段と複雑化する見通しだ。現在シリア国内では、アサド政権(シーア派)、反政府勢力(スンニ派)、IS(スンニ派)、クルド人勢力(主にスンニ派だが、クルド人としての意識が強い)が四つ巴の戦いを繰り広げているが、トルコ軍が加わることで、戦いの構図が変わる可能性もある。

イスラム教圏は、寛容性と欧米による植民地支配からの離脱が必要

欧米はISを悪と見なし、殲滅を目指しているが、トルコのISへの空爆は、必ずしも望ましいとは言えない。シリアでは、シーア派のアサド政権がスンニ派住民の弾圧を続けており、ISの活動はそれに対するスンニ派の復興運動という意味合いもあるからだ。

イスラム教という同じ宗教の中で、これだけ激しい宗派対立が起こっているのは、イスラム教に原理主義的な非寛容性と不自由さがあることを示している。また、この宗派対立は、第一次世界大戦後、英仏などの列強国がオスマン・トルコ帝国を植民地化し、国境線を勝手に引いたことに対する抵抗運動という意味合いも強い。

現在のイスラム教圏の戦いは、イスラム教にイノベーションが必要であることを示している。この戦いに終止符を打つためには、イスラム教の中に寛容の精神を取り込み、欧米の植民地支配から脱するための各国の自助努力が必要だろう。(泉)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『中東で何が起こっているのか』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=913

幸福の科学出版 『世界紛争の真実』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=95

【関連記事】

2015年4月号記事 中東の憎しみの連鎖を断つには――国際政治にも「許し」を(Webバージョン) - 編集長コラム

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9431

2015年5月6日付本欄 シリア・アサド政権が危機に イスラム教圏に必要なこと

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9587