2011年に始まったシリア内戦は、イスラム国の台頭やアルカイダの介入などで混乱が増すと同時に、アサド政権に対抗する組織が力を拡大させ、こう着状態に陥ってきた。しかしこのほど、アサド政権を倒そうとする反体制派が、ジズル・アル・シュゴール市を攻略。アサド政権が倒れるという観測も出始めている。

シリア国内では現在、複数の勢力が三つ巴・四つ巴の戦いを繰り広げている。内戦に参加している勢力は大きく分けて、以下の通りだ。

  • アサド政権(シーア派):地中海沿岸部を含むシリア西部・南部を支配。
  • 反体制派の武装勢力(スンニ派):シリア北西部を支配。比較的世俗的な「自由シリア軍」や、アルカイダの分派と言われる「アル・ヌスラ」などを含む。
  • イスラム国(スンニ派):シリア中部から北部・東部を支配。
  • クルド人(主にスンニ派。しかし、イスラム教の宗派よりもクルド人としての意識のほうが強い):トルコに面するシリア北部及び北東部を支配。

2013年当時は、アサド政権側が反体制派を追い詰めていた感があったが、イスラム国が台頭してシリア国内が割れて以来、人材不足、経済危機、そしてイスラム国との衝突で政権側は弱り、今年3月にはイドリブ県の県都が反体制派側の手に落ちている。

このほど反体制派の手中に落ちたジズル市は、アサド政権の中枢部である地中海沿岸地から目と鼻の先であり、アサド大統領の勢力が退潮気味であると分析されている。この見方に拍車をかけるのは、アサド政権の相次ぐ失敗である。

2月、反体制派の主要都市であるアレッポに対するアサド軍の攻撃が失敗し、同月にはアサド政権を支持するヒズボラやイランのイスラム革命防衛隊がシリア南部を制圧しようとして失敗した。また、アサド政権内におけるイランの影響力を巡って、政権内部で仲間割れが生じている。

シリア内戦は380万人以上の難民と20万人以上の死者を出しつつも、なお、治まる気配を見せない。また、他の中東地域においても、イスラム教圏は多くの混乱を抱えている。

歴史を振り返れば、キリスト教圏も中世の宗教戦争の末に、宗派間の共存と近代化の道を見つけた。イスラム教圏を取り巻く混乱は、イスラムの教えにイノベーションをかけるきっかけになるかもしれない。

もちろん、アサド政権による民衆への攻撃や化学兵器の使用は許されるべきではない。しかし、同じイスラム教を信仰する人々の間で、これ以上の惨劇が続いて、一体、誰を利するのだろうか。欧米は、イスラム圏を感情的に敵視するのではなく、紛争の被害を最小限にするための努力をすべきだろう。

そして、イスラム教圏の人々も、宗派の異なる人々をまとめる新しい思想や心の教えが必要とされていることは言うまでもない。(中)

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