イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」の問題について、オバマ米大統領は11日、限定的な地上兵投入を求める決議案を米議会に送った。
オバマ氏は、その理由として「イスラム国を野放しにしておけば、中東全域やアメリカ本土に対して深刻な脅威となり得る」と説明した。
しかし、オバマ氏の提案に慎重論を唱える声も多い。下院のジョン・ベイナー共和党議員は、「大統領が示した戦略が、目的を達するに足るものか分からない」とし、ティム・ケイン民主党議員は、「地上兵の使用を求める提案は漠然としており、不明瞭なので、説明を必要とする」とした。
今回の地上兵投入は、オバマ政権の大局観のなさを露呈しているように見える。イスラム国が生まれた経緯をたどると、アメリカが2003年に始めたイラク戦争で、スンニ派のサダム・フセイン政権を打倒し、イラクに新しくシーア派の政権を誕生させたことに行き着く。
その後、アメリカは、イラクが混乱している最中に米軍を撤退させた上、隣国シリアの内戦で数万単位で死者が出る状況に何も手を打たなかった。スンニ派がつくるイスラム国は、イラクのシーア派による圧迫に対抗するために、シリア国内の混乱に乗じて台頭したのだ。
確かに、イスラム国のような武装集団が中東地域に広がれば、さらに多くの不幸が生まれるだろう。イスラム国の武力闘争を押しとどめることは重要だ。しかし一方で、武力のみでは根本的な解決に至らないという現実も忘れてはならない。
仮に、イスラム国に集った民間人を含む数万人を殺害・殲滅したとしても、イラク国内におけるスンニ派への弾圧状況が改善されない限り、新たな「イスラム国」が誕生するだろう。実際、イスラム国は、元アルカイダ系の過激派集団と、イラクの新政権に排斥されたバアス党(フセイン元大統領が率いていたスンニ派政党)の、二大集団が基礎となっている。
オバマ政権は、イスラム国の武力闘争を押しとどめつつ、スンニ派の人々の声を政治に反映させるように、シーア派のイラク政権に働きかけるべきだろう。
そもそもイラクなどの中東は、さまざまな民族や宗派、言語が異なる人々が混在していた地域で、ヨーロッパ諸国の勝手な都合で国境線を引いて、無理やり「国」としてまとめた歴史がある。
ここまでもつれた糸をほぐすには、武力だけでなく、中東の人々の信仰への理解を前提にした政治的・外交的な努力が不可欠だ。人質などを殺害されている日本や欧米は頭に血が上っている状態だが、これ以上の混乱を避けるためにも、冷静な対応が必要である。(中)
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