2010年9月号記事

上海万博は、発展する中国を象徴していた。中国パビリオンの壮大さは、中でも群を抜いていた。

しかし、ひとたび雨が降れば正面前の敷地に水が溢れ出すなど、細部の粗末さが各所で目についた。遠景と近景は、異なる像を映すのだろうか。


2010年3月号のグラビア写真 【クリックで拡大】

本誌10年3月号で取り上げた馮正虎さん(56歳)。

上海浦東空港で入国を拒否され続け、成田空港で昨年11月から92日間に亘り「篭城」を続けた中国の人権活動家だ。この2月、無事に上海に帰国したが、その戦いは依然続いていた。

4月下旬、万博開催に合わせ、「冤罪博覧会」を開催するとネット上に公表(4月19日)。自身が体験した出版妨害や身柄拘束など、12の冤罪事件を取り挙げ、司法の実体を世界に訴えている。

「中国のメディアは良い面ばかりを伝え、この国の影の部分は伝えていません。これでは逆に中国の発展にとってマイナスです」と馮さん。

公表した日の深夜、6人の警官が自宅内に押し寄せ、パソコン4台などネット接続機器や行政訴訟資料などを押収。取り調べは午前4時まで続き、「刑務所へ送ることも可能」「高智晟(人権派弁護士)のように行方不明にすることもできる」と脅された。

米クリントン国務長官が上海万博を視察した5月22日の前日には、自宅を出たところで公安部の職員に身柄を拘束され、一時行方不明になった。

「あの時は上海郊外の崇明という場所に3日間監禁されました。芸術家の艾未未と私が合流するのを嫌がったのです」――。

艾氏は北京五輪のメイン会場・通称「鳥の巣」のデザイン設計にも加わった中国を代表する芸術家。四川大地震で倒壊した小学校の遺族らを支援する活動で政府批判を続けるなど、両氏のつながりは深い。米国務長官の上海訪問中の2人の合流は、当局にとって目障りだったに違いない。

1班5人、総勢20人。そして最新鋭の監視カメラ。馮さんの自宅前には現在、24時間態勢で見張りがつく。

「私はいま責任を感じています。中国がもっと開かれた国になるための努力は、惜しみません」


2010年3月号のグラビア写真 【クリックで拡大】

成田空港では国連職員からの難民申請を断り、帰国の道を選んだ。

「中国の問題は中国人自身が解決することが大切」という強い信念があるからだった。自分が逃げたら「中国の未来」はない。本気でそう思っている。

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租界時代の西欧建築が並ぶ上海市中心部の外灘(バンド)。その南端は高層マンションの建設ラッシュが続く。

周辺の古い家屋の一部は取り壊され、ゴミの集積所のような空き地が広がっていた。

よく見るとビニール製のテントが10数張り散在し、ホームレスの人々が風雨を忍んでいた。

「発展する中国」というイメージとのあまりの格差に、言葉を失った。

14年には上海浦東空港近くにディズニーランドが開業(予定)する。周辺の住宅地だった村は更地となり、2000世帯が立ち退きを強いられた。中には補償の問題などで、市当局と現在も法的に争っている住民も存在する。

類似の光景は、中国全土で起こり、暴動も後を絶たない。

周辺諸国と良好な関係を築いていける指導体制でないことは、自明の理だ。