自宅軟禁されていた盲目の人権活動家・陳光誠氏。自宅周辺は数百人規模の監視役に囲まれていた。写真:EPA =時事

2012年7月号記事

中国の盲目の人権活動家・陳光誠氏による脱出劇は、「共産党政権がいかに国民を人間扱いしていないか」を世界に知らしめた。

陳氏は06年に中国政府による強制的な中絶の実態を告発。投獄後、自宅軟禁されていたが、暗闇のなか抜け出し、足の骨を折り、地を這いながら、当局の監視・拘束を振り切った。

陳氏の自宅は数百人の監視役に囲まれ、陳氏や家族への暴力は当たり前だった。その予算は年間数億円にも上ったという。

折りしも5月、東京では中国の新疆ウイグル自治区の在外組織「世界ウイグル会議」の代表大会が開かれた。同自治区では、公務員、教員、年金生活者は今年3月から、「信仰を持っていない」と誓約書にサインしなければ、職を奪われるか年金が打ち切られる。また、ウイグル人は携帯番号で位置情報が管理され、4人以上で「集会」していると、警察がやって来るという。

こうした「治安維持」のための年間予算は、国防費を上回る9兆円超。共産党政府は、それだけのエネルギーをかけて巨大な警察国家をつくり上げている。

「ふるさとだが刑務所であり地獄」

同会議日本全権代表のイリハム・マハムティ氏は「ウイグルは私たちのふるさとだが、刑務所であり、地獄でもある」と訴える。

ウイグル人の自由を求める運動は、バックボーンにイスラム教の信仰がある。チベット自治区での抵抗運動は仏教僧侶が中心で、09年以降、焼身自殺が30人以上に達した。

歴史的に宗教は、圧政と戦ってきた。

ローマ・カトリック教会はナチスと妥協し、ユダヤ人虐殺を阻止できなかったが、バチカン内にユダヤ人を保護した。ドイツのプロテスタント教会には、ナチスに従わない独自の教会を立ち上げ、ヒトラー暗殺を計画し、最後は処刑された牧師もいた。

外務省の訓令に反してユダヤ人にビザを発給し、約6千人の命を救った外交官・杉原千畝氏は敬虔なロシア正教徒で、「私に頼ってくる人々を見捨てるわけにはいかない。でなければ私は神に背くことになる」と語ったという。

宗教者が身を捨てて暴政に立ち向かうのは、 人権思想の根底に、「人間は神が創ったものであり、一人ひとりに神の子としての尊さがある」という信仰がある ためだ。

宗教が人権や自由を守る最後の砦であることは、中国でもまったく同じだ。

近づく「易姓革命」を温家宝首相が心配

前重慶市党書記の薄煕来氏が失脚した政変で、共産党幹部の腐敗ぶりが世界的に注目を集めている。調査途中だが、薄氏とその妻が約4800億円を他国に不正送金していたとされる。

この10年間で海外逃亡した党幹部が持ち出した資金は、10兆円とも20兆円とも言われている。これらのカネは、農民の土地を収用して得た利益を懐に入れたケースがほとんど。

温家宝首相も今回の政変のさなか、「政権党にとって最大の危機は腐敗だ。解決できなければ政権の性質が変わるかもしれない」と危惧を表明した。まさに、 「徳」を失った王朝に対して天が見切りをつける易姓革命を首相が心配している のだ。

昨年の「アラブの春」以降、ネット統制が強められ、「中東革命は明日の中国」といった中国版ツイッターなどの書き込みが削除されたり、アカウントが閉鎖されたりしている。

しかし、 共産党の腐敗の実態が次々と明らかになり、「中国の春」へのカウントダウンは始まっている。

革命の主役は宗教?

中国の歴史を見れば、 易姓革命の主役や準主役は、宗教結社 だった。

後漢を倒し、三国志時代を開いた黄巾の乱は、道教に基づく病気治し宗教だった。元末期の紅巾の乱は弥勒菩薩信仰で結束した農民反乱で、その一派から朱元璋が台頭し、明の初代皇帝となった。清朝を弱体化させた義和団の乱は、仏教系結社による反西洋運動だった。

易姓革命は「天帝の意を受けた世直し」だから、宗教が主役になるのは当然と言えば当然だろう。

6月2日に全国公開の映画「ファイナル・ジャッジメント」は、信仰の力によって全体主義の隣国の侵略を跳ね返し、隣国にも自由を打ち立てる宗教家の活躍を描いた近未来予言映画だ。

国民が人間扱いされず、権力者の道具になっている国に自由が打ち立てられることを切に願う。

(綾織次郎)