国土交通省が6月、自動車メーカー5社で型式認証試験の「不正」があったと発表し、3社6車種に出荷停止を指示した。

その後、安全性能に問題はなく、出荷停止は解除されたが、トヨタに対しては別の7車種で新たな「不正」が判明したとして、初の「是正命令」が出された。

しかし、「不正」とされた事案の中には、国の安全基準より厳しい条件で試験をしたのに、形式的なルールに従っていなかったことが「不正」とされたケースも含まれていた。

型式指定制度の課題とは何か。これをどのように変えていけばいいのか。本誌2024年9月号記事「型式認証試験「不正」の本質とは? 国土交通省は日本の自動車メーカーを守れ」で紹介した、自動車経済評論家の池田直渡氏へのインタビューの詳細版を2回にわたってお届けする。

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メーカーを困惑させる国土交通省とマスコミの主張

自動車経済評論家

池田 直渡

池田直渡
(いけだ・なおと)自動車ジャーナリスト・自動車経済評論家。1965年神奈川県生まれ。ネコ・パブリッシング、ビジネスニュースサイト編集長を経て、編集プロダクション・グラニテを設立。クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行うほか、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。

──今回の「不正」の問題をどうご覧になっていますか。

池田直渡氏(以下、池田): 国の決めたルールに従っていないという点で、「不正」であることは事実です。しかし、トヨタのケースで言えば、全体で約20万件の試験データの中で、6件の「不正」が見つかったという話で、しかもその6件がある種の「勘違い」といえるものでした。

ここ数年の大きな不正事案としては、2022年の日野自動車のケースがあります。これは、マフラーの排出ガス性能の劣化耐久試験において、10万kmの耐久試験を受けるべきところ、排出ガス浄化性能が劣化する可能性があることを認識しつつ、途中で新品のマフラーに交換して試験を継続した事案です。これは完全な「不正」であり、「日本のものづくりの信頼が揺らいだ」とマスコミが報じるのも分かります。

しかしながら今回の問題はそれと同じ性質のものではありません。一番分かりやすいのは後方から衝突を受けた時、燃料漏れが起きないかを確認する試験で1100(±20)kgの台車を使うべきところ、1800kgの台車を使ったトヨタのケースです。

トヨタは「より厳しい試験なので、1100kgの車が衝突した時の安全性がないわけではない」と説明しました。これは何も、国交省に対して「不正ではない」と申し開きをしたわけではなく、あくまでもトヨタユーザーに対して、「安全性について不安を感じる必要性はありませんよ」と説明したにすぎませんが、これに対して国交省は、おそらく不正に対する言い逃れと受け取ったのでしょう、「1800kgで安全というのは1100kgで安全であるのとは別。1100kgで問題が起きることはありうる」などと言いました。

しかし、この国交省の主張を真とするなら、1100kgの追突実験をしても、900kgや700kgの自動車に追突された時の安全は保たれないことになります。そういうケースがないとは言えませんが、ほとんどこじつけです。

一方で、「1100kgの安全基準でいいのに、1800kgに耐えられる車をつくれば、過剰な重量を抱えることになり、燃費が悪くなる。これは顧客にとって不利である」などという解説記事も見受けました。

これについては、あるメディアの過去の報道が思い出されます。側面からの衝突に耐えられるよう、ドアパネルに設置する「サイドインパクトバー」という補強材があるのですが、かつてはアメリカでは義務付けられ、日本では義務ではありませんでした。そこでメーカーは、アメリカ向けの輸出車のみに設置していたのですが、それをあるメディアは「日米で安全性に差がある。日本人は死んでもよいのか」といったトーンで報じました。その後、自動車メーカーは国内販売用の車にも設置するようになりました。

こういうこともあるので、メーカーとしてはより高い安全基準を満たそうとしているわけです。しかし「国内基準だけクリアできれば、それ以上の安全基準をクリアするための無駄な強度は持たせないことが正しい」というなら、そのように決めるべきでしょう。

そのような基準もなく、ある時は海外と日本で安全性に差があると報じ、またある時にはルール以上の安全性を持たせたら顧客に不利であると報じるのは、非常に「行儀が悪い」です。