《ニュース》

中東情勢の軍事バランスを根底から揺るがすイランの核保有疑惑をめぐり、核保有が近づいている段階はとっくに過ぎ、「すでにイランは核を保有」し、それに合わせて核保有を禁じてきたイラン政府のイスラム法学に基づく見解(ファトワ)も実は変更されたのではないか、と米誌アトランティックがこのほど報じています。

《詳細》

イランの核開発をめぐっては、オバマ米政権時代にイランの核保有疑惑が高まったことを受け、2015年にイランが核開発を制限する代わりに、欧米のイランへの経済制裁を解除するという「核合意」が成立しました。ただ、イランの核開発の余地を残すあいまいな合意だったため、2018年にトランプ前政権は離脱しています。

その後、イランは核兵器に使用するウランの濃縮度を最大60%まで高めている(核兵器に使用できるのは通常90%以上と言われる)とされてきました。しかし、アトランティックは、複数の根拠をもとに「イラン当局が核兵器を(すでに)製造しており、さらに保有(の事実)さえほのめかしている」と指摘しています。

イラン政権はこれまで、「核開発計画は平和的な目的に過ぎず、核兵器は我々の核ドクトリンには存在しない」という見解を示してきました。しかし、イスラエルとの間の緊張が高まっていることを受け、その方針転換を示唆する動きが出始めています。

例えば、イラン元外務大臣のカマル・ハラジ氏は今月初め、「イランは核兵器を製造する能力を有しており、国家存亡の危機に直面すれば、『核ドクトリン(核使用の方針)を変更する』可能性がある」「イスラエルが他国を脅かすなら、黙って座っていられない」などと述べ、核保有の可能性を示しています。ハラジ氏は現在、イランの最高指導者ハメネイ師の顧問を務めており、今回の発言の裏にはハメネイ師の承認があったのではないかとされています。

イラン革命防衛隊の高官も、イスラエルがイランに圧力をかけようとするなら、「イランの核ドクトリンや核政策を見直す」ことも可能だと、イスラエルを牽制しています。

アトランティックは、イランがこれまでの伝統的な「戦略的忍耐」の原則から「積極的抑止」へと転換しており、「核抑止」という言葉を意図的に繰り返していると指摘。これがブラフ(はったり)なのか、軍事ドクトリンの変更なのかは議論があるものの、「言葉遣いの変化それ自体が重要だ」といいます。

そのほか、イランの核保有・使用はファトワで禁止されていると言われていますが、同誌によれば「そのようなファトワが存在するかどうか、実際は明らかではない」といいます。ジャーナリストのホスロ・サエ・イスファハニ氏は、「ハメネイ氏は、核兵器の使用については禁止するとみなしているが、製造や保有に反対するファトワは一度も発されていない」と分析しています。

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