《本記事のポイント》

  • トランプ減税の効果で1.5兆ドルの歳入増
  • 民主党員でさえ政府支出削減に賛成
  • 下院の法案は1.8兆ドルの富を創出する

米政府の借金の上限である債務上限の引き上げについて、バイデン大統領と共和党のマッカーシー米下院議長が、原則、政府支出を抑制することで合意したと声明を発表した。

今回、下院議長は次の大統領選後まで、債務上限の引き上げを認めるという点でバイデン氏に譲歩し、それと引き換えに歳出を削減する案をバイデン氏がのんだとみられている。

米下院の自由議員連盟に属する議員や、歳出削減に否定的な民主党議員がすんなり合意を受け入れるかは未定で、審議は難航する可能性がある。

歳入というよりも、政府のお金の使いすぎが問題

では、この債務上限問題をどう考えるべきか。バイデン民主党政権は「歳入不足の問題」だとしてきたが、本当にそうなのか。

2023会計年度の最終的な財政赤字は1.7兆ドルから2兆ドルになると予測されている。

だがそれは歳入が不足しているから起きているわけではない。

これまでのアメリカの財政状況を少し振り返っておこう。

2017年度の歳入は約3.3兆ドルで歳出は4兆ドル。財政赤字は約7000億ドルだった。しかも当時の政府債務の総額は20兆ドルで、アメリカのGDPに相当する額でしかなかった。

ところが2022年度の歳出規模は、6.4兆ドルと跳ね上がり、政府の借金はうなぎのぼりに増え、総額は31.4兆ドルとなった。政府は「酔っ払いの船乗り」のごとく国民のお金を使いこんできたのだ。

トランプ減税の効果で1.5兆ドルの歳入増

一方歳入は、2017年の3.3兆ドルから2022年には4.8兆ドルに増え、1.5兆ドルも増加している。

これは2017年12月にトランプ大統領が成立させた「大型減税法」の効果が表れた結果である。

レーガン大統領とトランプ大統領の経済顧問を務めたアーサー・B. ラッファー博士は、2018年11月に「日本では減税をすれば、歳入が減り、政府債務が増えるという議論が一般的です」という筆者の質問に対して、こう述べていた。

「確かに一時的に、減税すれば、歳入は大幅に減ります。しかし経済成長率が高くなれば、次第に歳入は増えていきます。成長自体が富を生むには時間がかかります。減税が経済成長という果実をもたらすには、投資による利益を得るのに数年かかるのと同じです。

私はアメリカの歳入は、3年から4年のうちに、増収に転じるとみています。そして向こう10年で1.5兆ドル(170兆円)の歳入を生むはずです。減るのではなく増えるのです」(2019年1月号「繁栄は政府ではなく国民がつくる」)

当時、メインストリームメディアは、「減税は税収を減らすことになる!」と大騒ぎしていたが、博士の読みの通り、10年もかからずに歳入は1.5兆ドルも増えたのである。

民主党員でさえ政府支出削減に賛成

従って真の争点は、債務上限を引き上げるかどうかではなく、超党派でいかに「お金のかからない政府」をつくるかに知恵を絞ることにある。

アメリカ国民はこの点に気づき始めており、民主党員であっても58%が債務上限の引き上げと政府支出の削減とはセットで行うべきだと考えている。

しかも4月に米下院を通過した共和党の法案「Limit, Save, Grow Act(政府支出を制限し、国民の税金を貯め、成長させる法)」は、歳出規模を2022年の会計水準に戻すというものであり、たいへん控えめな内容となっている。

実はコロナ前の2019年に歳出規模を戻したら、財政は均衡し黒字になるという試算もある。

これは共和党のランド・ポール米上院議員が主張しているもので、サプライサイド経済学派のステファン・ムーア氏やラッファー博士の研究によると、黒字になることが裏付けられている。

第二次大戦後も大幅に政府支出を減らしたが、結果として経済成長率は高まっている。

危機が過ぎたら、政府支出の削減に乗り出さなければ、財政余力が失われ、次の危機に対応できなくなるため、今すぐに政府支出を削減しなければならない。

素面にならない日本政府

一方日本では、地方政府と社会保障基金も合わせた債務残高は、対GDP比で260%を上回り、金利上昇の局面でアメリカ以上に国債の金利の支払いが困難となっている。もはやインフレ対策で利上げさえできない財政状況に追い込まれているのだ。

コロナ前の2018年度で歳出額は100兆円を超え、2020年度は決算ベースで147兆6000億円に達した。2023年度の一般会計の歳出は114兆円を超え、コロナ前の歳出規模に戻る気配はない。

ドイツでは、憲法(基本法)に新規国債の発行を国内総生産(GDP)の0.35%に制限するルールが制定されている。2020年度以降適用を停止していたが、2023年度から復活させた。日本は、こうした「お金のかからない政府づくり」に向けた世界的潮流から取り残され、いまだに放漫財政路線を歩んでいる。

下院の法案は1.8兆ドルの富を創出する

あくまでも一つの仮定の話だが、4月に米下院を通過した共和党の法案「Limit, Save, Grow Act」が成立した場合、どのような好循環が経済に起きるのか。

サスケハナ・インターナショナル・グループ(SIG) のジェフリー・ヤス氏と「成長のためのクラブ」のデービッド・マッキントッシュ氏は米FOXニュースに寄せたコラムで、マーケットは少なくとも4%上昇すると見積もり、これは1.8兆ドルの富の創造に相当すると述べている。

もちろん今回の合意内容は法案の額面通りのものにはならないとはいえ、成長に向けて踏み込んだ法案が提出され、下院を通過したこと自体が日本にとっても参考になる。

このように財政を均衡させ、減税や規制緩和、働くインセンティブを上げることで経済成長させる法案が、近年日本で国会に提出され議論されたことがないからだ。

だが、子供のクレジットカードの上限を無条件に引き上げる親はいない。財政の仕組みが日米で異なるとしても、アメリカの債務上限をめぐる論争は、日本にもまさに必要である。

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