《本記事のポイント》

  • 下位20%の貧困層が収入の2倍を消費に充てられる訳
  • リベラルの究極の問題:貧しい人ほど働かなくていい社会に!?
  • 福祉依存からの離脱を成果目標にすべき

ツイッター社買収後、左派リベラルから狙い撃ちされるイーロン・マスク氏。だが、彼を擁護する人々がいないわけではない。

「イーロン・マスクは誰かから富を奪って豊かになったのか。彼に対する嫉妬心はアメリカ的なものではない」

こう述べるのは元テキサス州選出の上院議員フィル・グラム氏だ。

グラム氏の前職は経済学者である。1978年にテキサス州で民主党から下院議員に選出されるも、自らの寄って立つ主義に忠実であるべきだと考え、共和党から立候補するために議員を辞職。共和党下院議員を務めたのち、上院議員として30年の長きにわたって活躍した。経済学の知見を生かし、レーガン大統領の80年代の税制改革も支えている。

さて、そんなグラム氏が今年『アメリカの不平等は神話だ(The Myth of American Inequality)』(邦訳未)と題する本を発刊し、ヘリテージ財団を含む全米各地で講演を行ってい

る。本書には 重要な主張が多く含まれているため、主要な論点を紹介しておきたい。

下位20%の貧困層が収入の2倍を消費に充てられる訳

アメリカでは、新型コロナの給付金と失業手当とで合わせて約1年半の間、1カ月3000ドル(40万円)から4000ドル(約54万円)を得ていた国民がいる。それだけでも1年半で、723万円から965万円ほどに相当する。

だがこれは非常事態に限られたことではない。アメリカでは2017年時点で、下位20%の所得者への政府移転支出は、1967年の9,800ドル(131万円)から45,400ドル(698万円)に増加している。

だが1967年以降の50年間は、貧困率が約14%から16%の間で推移している。インフレを加味しても約4倍の給付額。それなのに貧困率が変わらない摩訶不思議な理由は、グラム氏によると、給付金などの所得移転を「数えない」ことにしているからだというのだ。

下位20%は収入の2倍消費していることが判明しているが、これは「所得移転」があってはじめてできることである。

グラム氏によると、格差論者で経済学者のトマ・ピケティ氏の研究にも、この点で難があるという。ピケティ氏も下位40%の人々に対する政府からの所得移転を「所得」に数えていないのだ。しかも富裕層については、株式や不動産など未売却の評価額をも所得として換算し、貧困層と富裕層の格差を意図的に拡大して見せているという。

所得移転分を所得に入れた場合、下位20%と上位20%の所得格差は4倍となり、格差は1947年当時よりも縮小しているという。

「貧困率は13%、所得格差は16倍だ」という一般に流布する言説を信じ込むと、いたずらに危機感が煽られ、政府債務も増大していく。その上、貧困層を救うことになる経済成長をも鈍化させてしまうことになるのだ。

リベラルの究極の問題:貧しい人ほど働かなくていい社会に!?

深刻なのは、給付金などで所得移転が増えると、働かない人を増やしてしまうということである。

グラム氏によると、1965年には下位20%の働き盛りの人たちの68%が働いていたが、現在では36%しか働いていないという。

2022年の全階層を合わせた労働参加率は約62%なので、それと比べても極端に低い数字だ。

グラム氏は、コロナ禍で給付金をもらう人が増えたことでこの傾向が助長されたとする。

解決策はあるのか? グラム氏は、「就労とセットでなければ、お金をばら撒いてはならない」とする。

これは1996年に行われたクリントン政権時代の福祉制度改革そのものである。働く喜びを得た彼らはその後、福祉を得るのに就労条件がなくなっても、福祉に依存することがなくなったという。

グラム氏によると、この制度改革が功を奏し、福祉に依存する人は半減。それまで下位40%の人々への給付金は年率3.9%ずつ伸びていたが、その時から0.6%の伸び率に減じたというのだ。

福祉依存からの離脱を成果目標にすべき

グラム氏は、「自分自身や家族をより良くしたいのなら、民間でやればいいのです。今日のアメリカの悲劇は働いていない人が大量におり、彼らはスキルを身につけることができないことです」と述べている。

働かなければ、スキルさえ身に着けることができない。長期的に見れば、そうした人々が福祉なくして所得を増やすことは難しい。しかも、その多くがスクリーンの前で大方の時間を過ごす廃人同様の生活を送っているのは、本欄で紹介した経済学者のニコラス・エバーシュタット氏が指摘している通りである(関連記事参照)。

福祉国家化を推し進めることで、国民を労働力から脱落させることは、政治家にとって「集票」にはなるが、国民の幸福に寄与することでも、神から見て「善」であるとも言えない。

本当に彼らの幸福を願うのであれば、政治家は「どれだけ福祉への依存から離脱させることができたのか」を「成果」として誇るべきだろう。共和党陣営にも、一部バラマキを肯定する政治家が含まれているが、2024年の大統領選に向け、あるべき経済政策を掲げて、リベラルに打ち勝つことが次の2年間で求められている。

目を日本に転じれば、インフレ下でもインフレ対策用の予算を組んで、貨幣量を増大させ、薪に火をくべるようなバラマキ一辺倒の政策しか行われていない。それは、この福祉国家化路線から抜け出せないからである。金利上昇とともに国債の利払い費が増大する未来はすぐそこにやってきているのだが、それを危惧して現政権に政府支出を控えようとする姿勢は見られない。

通常「リベラル」に分類される政治哲学者のルソーでさえ、政治家は「時代の進歩の彼方にみずからの栄光を展望しながら、この世紀のために働き、後の世紀においてその成果を享受しなければならない」と述べている。果たして「後の世紀」まで考えている政治家はどれほどいるのか。

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2022年11月6日付本欄 アメリカでは「見えない危機」が進行中!? なぜアメリカ人は働かなくなったのか?

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