《本記事のポイント》

  • 中国が目指すのは略奪経済
  • 現在ただいまよりも10年後に備える!?
  • 落ち続ける米軍の能力

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

日米の安全保障の専門家の間では、台湾有事が起きるかどうかについての議論はすでに終わっており、台湾有事が「いつ起きるか」、「どのように起きるか」に議論の中心が移っています。

台湾有事は、日本の有事というレベルを超えて、世界に中国の覇権が拡大していく決定的なターニングポイントになるため、絶対に阻止しなければなりません。

奇しくも先日、皆既月食がありました。国立天文台によると、日本で皆既月食と天王星食が重なるのは過去5000年間で一度もなく、極めてまれな現象だとのことです。あたかも太陽・地球・月、そして天王星までが一直列に重なるようなタイミングの一致が、台湾を取り巻く情勢においても起こりつつあるように思います。

つまり中国情勢、アメリカ情勢、ロシア・イラン等の情勢が複合的に重なり、危機が起きる準備が整いつつあるからです。

牙をむく三期目の習近平

中国共産党の党大会で、習近平国家主席は3期目を勝ち取り、最高幹部(政治局常務委員会)の人事を同氏の側近、イエスマンで固めました。前国家主席の胡錦濤氏を全世界の中継中に退場させるなど、同国の指導者として強力な権力を獲得したことを国内外に見せつけました。

ロシアとの関係も、ロシアと接近し協力関係を維持する習近平派の路線と、ロシアと距離を置こうとする派閥との対立があったようですが、体制が固まったことで一層関係強化に進むことが推測されます。

また三期目が確定した直後に、ベトナム、パキスタン、タンザニア、ドイツの首脳が中国を訪問し、習近平氏と会談しました。フランスのマクロン大統領も近々中国を訪問する可能性が高いと報道され、また年内にサウジアラビアのサルマン皇太子との会談も予定されています。中国の国際的影響力は低下を示していません。

軍事面の人事は、「台湾シフト」に明確に舵が切られました。習近平氏が軍の中で最も信頼する張又侠上将を軍事指導部(中央軍事委員会)の副主席(主席は習近平氏)を留任させる一方で、台湾を主目標とする東部戦区の元司令官・何衛東上将(習近平派)を、異例の抜擢で同じく副主席に任命しました。今後、台湾への軍事活動が一層活発化するものと思われます。

副主席となった何衛東氏は、ペロシ米下院議長が台湾を訪問した際、「台湾封鎖作戦」の予行演習を思わせる強硬な軍事演習を行った中心人物で、台湾侵攻の際に、この教訓を活かした軍事作戦をとるのではないでしょうか。

台湾侵攻時の最終的な決定は、最高指導部の政治局常務委員会が行います。既に述べたように、この常務委員会は、習近平氏のイエスマンで固められました。

さらに具体的な作戦は中央軍事委員会が実行しますが、その人事も固めることで、台湾侵攻を迅速に行う布陣が整ったということでしょう。

経済政策の面においては、改革開放路線の推進派を遠ざけました。結果、習近平氏が2020年に打ち出した独裁資本主義を思わせる「共同富裕」(みんなで豊かになるために、富裕層から金を取って貧乏人を少なくする政策)など、経済に破壊的な影響をもたらしかねない政策に歯止めが利かない恐れもあります。

中国が目指すのは略奪経済

今回の人事は、中国経済の低迷の加速を予想させるものとなり、天文学的な国家の負債額と併せると、中国共産党の経済的瓦解の可能性も否定出来ません。

ただ習近平氏は、経済停滞の問題を放置しようとしているわけではないでしょう。むしろ改革開放で「経済で儲けられる者から儲けろ」という路線が招いた"格差"に対して、国内に溜まった不満のガス抜きのために、「共同富裕」を掲げていると思われます。

ただ、「共同富裕」でも経済問題が改善出来なかった場合、習近平氏は、どのように経済問題を解決するのでしょうか。

習近平氏は国内経済の悪化にかかわらず、巨額の軍事費を使い続けています。それは世界支配による「略奪経済」、あるいは「朝貢経済」を目指しているからだ、と考えると分かりやすいと思います。このような騙しと略奪の手法は、「一帯一路」における債務の罠でも露呈しました。

巨額の軍事予算は、将来的な軍事的威圧や武力行使によってお金を回収するための「投資」であって、中期的に経済の帳尻を合わせようとしているということになります。

習近平氏にとって経済的停滞は中国崩壊の序曲ではなく、対外強硬路線(戦狼外交)、軍事的威嚇や侵攻を促進するきっかけにすぎないのです。

「愛されるよりも恐れられるほうが望ましい」とかつてマキャベリが『君主論』で述べたように、世界に好かれることよりも、世界がひれ伏すパワーと恐怖心をこそ望んでいるのです。

隣国日本は、このような独裁者・習近平が支配する専制国家の脅威を低く見積もるべきではありません。台湾危機が迫る中、習近平氏の世界覇権の野望を止めることこそが、喫緊の最重要課題です。

現在ただいまよりも10年後に備える!?

しかし、バイデン米政権が進める米国の国防予算は過小で、本気で中国を抑止するための予算だとは思えません。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は3月に、「バイデン予算で衰退する米国の軍事力」と題した社説で、米軍の能力の衰退に危機感を示しました。

米国防総省は2023年度の国防予算として7730億ドル(約94兆3700億円)を要求し、バイデン氏は前年を大幅に上回ったと強調しましたが、急激なインフレで相殺され、1.5%しか増えていません。

中国と対峙するには、少なくとも3~5%の支出増が必要だと見られています。

WSJ社説は、この国防費の対GDP比は過去最低水準であり、米行政管理予算局も、さらに予算は低下するとの見積もりを出しています。

WSJは11月4日の社説でも、「現在の計画では、今後10年間、インフレ調整後の国防費を大幅に削減することになる」と述べています。

WSJはバイデン氏の予算構想が、中国との戦争を直近のことというよりも、10年後を見据えた未来の兵器の技術開発予算を優先するものになっていることを、警告しています。結果、現在ただいま必要な軍事予算は節約されているのです。

次の10年のためではなく、現在不足している軍事力の実戦配備にこそ、この10年の予算を充当する必要があります。

落ち続ける米軍の能力

また、米シンクタンクのヘリテージ財団は10月18日に、最新の「米軍事力評価報告書」を発表しました。

報告書は冒頭で、ロシアのウクライナ侵攻、中国の劇的な軍拡と挑発的行動、北朝鮮の強硬さ、イランの核開発などの状況は、同時多発する紛争への対処の必要性を物語っている、と現況の分析をしています。

その上でアメリカがグローバルなレベルで国益を追求するには、歴代の政権が求めてきたように「世界で発生する2つの大きな紛争を同時に、時間的に重なっても対処できる軍事力」が必要であると主張しました。

しかし現在の米軍の戦力では、それが不可能になる危険性が高まっていると分析しています。

具体的には米軍の能力を、5段階評価で下から2番目の「弱い(weak)」と評価し、前年度の「最低限維持(marginal)」よりもランクを一段下げました。

特に米空軍に対する評価はネガティブで、空軍を5段階の最低ランク「極めて弱い(very weak)」とし、昨年に続き2年連続で引き下げています。

これはパイロットの訓練時間や戦闘機の配備位置、作戦の準備が不十分で、危機への迅速な対応が困難になっていることに加え、航空機の老朽化と、F-35などの新型機の導入ペースの遅さが原因であると指摘しています。

このため空軍は、最終的に中国に勝利したとしても、消耗を強いられて苦戦することは間違いないだろうと結論づけています。

米海軍もランクを「弱い(weak)」に引き下げました。中国の艦艇が360隻に増えた一方で、現在の米海軍は298隻しかなく、任務に比してあまりにも小規模であるからです。

加えて中国海軍は能力と規模を拡大し続けているにもかかわらず、米海軍はむしろ減少の一途をたどっています。このままでは、2037年には280隻に縮小される予定です。継続的に予算を増額できなければ、海軍の衰退に歯止めをかけることは出来ないと述べています。

米陸軍も「最低限維持(marginal)」、宇宙軍は「弱い(weak)」と評価され、到底安心出来るレベルではありません。


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の中国問題などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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