2022年11月号記事

ニッポンの新常識 軍事学入門 28

ロシア―ウクライナ戦争の終わりの始まり

社会の流れを正しく理解するための、「教養としての軍事学」について専門家のリレーインタビューをお届けする。

元陸上自衛隊 小平学校副校長

矢野 義昭

矢野義昭
(やの・よしあき)1950年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、一般幹部候補生として陸上自衛隊に入隊し、第1師団副師団長兼練馬駐屯地司令などを歴任。元陸将補。現在、(財)日本安全保障フォーラム会長、日本安全保障戦略研究所上席研究員、防衛法学会理事を務める。著書に『核拡散時代に日本が生き延びる道』(勉誠出版)など多数。

ウクライナ軍が敢行した"反攻作戦"をめぐり、マスコミは大々的に報じ、ウクライナへの支援熱を維持しようとしています。これに対し私は、「戦争が停戦交渉をにらんだ新しい段階に差し掛かりつつある」と理解しています。第一次世界大戦や朝鮮戦争のように、戦争が終わりに近づくと、当事国が停戦交渉を有利にさせるために戦闘を活発化させることがあるからです。

ウ軍は北東部イジュームを攻撃し、ロシア軍を撤退させました。露軍が奇襲を受けたのは事実でしょうが、この機に乗じて、北部ハリコフからも自主的に撤退しました。狙いは、戦争目的である東部と南部の制圧のための「軍の再編成」であり、それに含まれないハリコフを返すことで、停戦を見据えた事実上の国境線を引くためだと考えます。ロシアは軍を再編成することで東部・南部への攻勢を強める一方、長期戦も想定した後方のインフラ整備を進めるでしょう。北朝鮮労働者も動員して、東部と南部を繋ぐ鉄道網を引き、軍の補給を強化する可能性があります。