《本記事のポイント》

  • 大胆な金融緩和によってもたらされた失敗
  • 債務膨張への危機意識が見られないが、それで「保守」と言えるのか
  • 国の指導者は勤勉の精神が持てるよう国民を導くべき

保守色を全面にアピールし、「サナエノミクス」と銘打った自身の経済政策を掲げる高市早苗前総務相。アベノミクスを踏まえた上で、大胆な金融緩和と緊急時の機動的な財政出動、大胆な危機管理投資・成長投資を「サナエノミクス」3本の矢と称し進めるとしている。

「物価上昇率が2%の目標を達成するまで」との条件付きで、財政再建目標を凍結し、積極的な財政支出をはかるという。インフレの兆候が現れれば投資額を調整すると述べているので、事実上のMMT(現代貨幣理論)である。

またロックダウン(都市封鎖)の法制化をするとともに、10年間で100兆円の危機管理投資・成長投資を進め、気候変動への対応、国土強靭化を進めるという。

大胆な金融緩和によってもたらされた失敗

これらは金融政策と財政政策を合体させた政策と言える。果たして、これでもう一段の経済発展を遂げられるのか。まず検証しなければならないのは、異次元緩和政策の成否である。

2013年4月の異次元緩和発表後、株価はピークアウトしたという事実を想起すべきだ。つまり異次元緩和政策への期待値で株価が上昇したのであって、政策の結果で景気がよくなったとは言えない。その後の景気の腰折れの決定的な主犯は2014年4月の5%から8%への消費増税だが、金融緩和の効果も実は怪しい。

当初は実質金利を十分下げれば、借り手は必ず現れるという前提に立っていた。しかし、いくら金利を下げても借り手は現れなかった。マネタリズムは「量的緩和をするとインフレになる」という前提に立つが、資金需要の有無を考慮していない(この点について、ラッファー博士がその著書『The Return to Prosperity』や今月末に発売される本誌11月号の連載記事で批判しているので、ぜひご一読いただきたい)。

そこで日銀は実体経済に直接お金を回そうと、国債のみならずETF(上場投資信託)などを購入。企業によっては日銀が大株主となる事態が発生した。企業にとって株主の意向を反映して経営するのが本道だが、株主が日銀なら政府との癒着が発生する。ラッファー博士の言う、政府による企業統治の支配拡大による社会主義化がひたひたと進んでいる。

また「日銀が買ってくれるなら」と、国民が安心して株式を購入する土壌が意図的につくられたが、購入が収束すれば国民の投資意欲に影響を与えてしまう。

さらに日銀のバランスシートも企業の業績が悪くなれば同時に悪化するため、日銀のバランスシートからくる危機が将来発生する可能性もある。

もっと言えば通貨が政治家の道具と化した問題も大きいだろう。今年8月でちょうどブレトンウッズ体制終焉から50年の歳月が経つ中、金の価格は高騰。通貨への信頼の喪失と反比例するかのような値動きが続く。金の高騰を予想しなかったフリードマンは変動相場制への移行を促したが、通貨がここまで政府権力に翻弄されるとは予想していなかったのか。

債務膨張の危機意識が見られないが、それで「保守」と言えるのか

高市氏は、「財政再建目標を凍結」して、2%のインフレが実現するまで財政赤字を拡大するとしているため、その政策が実行されれば、日銀による国債の購入が推し進められる形となる。またコロナ対策として、海外で行われているような都市封鎖(ロックダウン)を可能とする法整備の検討を進める意向を示しており、これは補償金の支払いがセットとなる。現在、日銀は年間50兆から60兆円前後のペースで国債を購入しているが、それを増やしていくことにもなりそうだ。

異次元緩和は、異常なまでに低下した金利によって、政治家の財政規律に対する感覚を麻痺させる負の側面がある。「いくら借金しても低金利だから大丈夫」と言わんばかりに借金を続け、国債の償還費である借金の返済額だけで約24兆円にも上り、歳出の4分の1を占める。

もしマーケットが政府の借金を日本銀行が肩代わりする「財政ファイナンス」だとみなすようになれば、日本国債が信認を失うこともある。

日本の政府債務の対GDP比は250%超と世界のトップを走っている。コロナ禍に乗じて、100兆円を超える予算をためらいなく計上し、歳入の3割から4割を借金で賄うようになったため、10年以内に政府債務の対GDP比は300%を超えるという予測が成り立つ。

現時点においては、日本の政府債務が国民の資産1800兆円を下回るため、政治家は貯蓄税導入などで増税すれば政府はやっていけるという"安心感"を持っているようだが、その安心感は長くは続かない。

日銀は家計や企業の預金を原資に国債を購入しているが、それ自体が減少傾向にあり、自国通貨建てで国債が購入できなくなれば、外国人投資家が日本国債の購入に参入するようになる。彼らは今のような低金利には満足しないため赤字の償還費も膨らんでいく。しかも外国人投資家は、日本国債が市場で信頼を失った時には、容赦なく売り浴びせ、その時は国債価格が暴落する危険がある。

そもそも食糧やエネルギーを輸入に依存する日本において食糧・エネルギー安保は心許ない。中東や台湾情勢次第で原油等の輸入ルートが寸断され、ロックダウンの補償金として国民にばら撒かれたお金が市場に出回れば大インフレとなり、自国通貨も暴落する。

ばら撒いた政権の責任は当然問われるが、事が起きてからでは遅いので、一部の金融リテラシーの高い国民は資産をドルへと交換している。「自国通貨を持ちたくない」、そんな未来を不安に思う国民の声なき声を無視して、どうして経済を浮上させられようか。

米民主党マンチン上院議員の良識にも及ばない!?

日本の政府債務の膨張は持続可能ではないことは明らかで、焦点は「いつどういう形で問題が顕在化するのか」だ。それを世界は固唾をのんで見守っている。

高市氏は外交・国防政策では対中強硬路線を取るが、そのような状態で中国と戦えるのか。レーガン大統領は、軍拡競争でソ連を「倒産」させたが、それも強い経済力からコスト戦略を強いることができたことによる。高市氏が安全保障の強化を政策として掲げるなら、経済力に裏付けられた安保戦略をとるべきだ。

これは高市候補に限らない。次期政権を担う首相候補者に、10年以内に必ずやってくる問題への危機意識があるように見えないのが、日本の危機そのものである。

アメリカに目を転じると、バイデン政権も日本と同様にバラマキ路線ではある。その中で、民主党の方針に反対する民主党ジョー・マンチン上院議員の訴えに、自民党は耳を傾ける必要がありそうだ。同上院議員はウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムで、こう訴える。

「(3.5兆ドルもの財政出動をするというが)次の変異株でパンデミックが悪化した時にどうするのか。パンデミックのみならず、大恐慌やテロによる攻撃、大規模な国際紛争が起きた場合はどうするのか。次の世代にどのような影響を与えるかを考慮しているのか。国家的な危機や将来の不況時に国が財政的に弱る可能性もある。政府債務が国家安全保障の最大の脅威となるのだ」

そう述べて、党ではなく国と憲法に忠誠心を誓うからには、巨額の財政出動には合意できないと、規模の縮小を求めた。

国の指導者は勤勉の精神が持てるよう国民を導くべき

歳出の割に税収が少ないなら、歳出を減らしつつも経済成長力を底上げし、税収を増やす。それには実体経済をよくするための政策が必要である。

借り手の資金需要を度外視して失敗した金融緩和や、国の財政を危うくする財政政策ではなく、国民一人ひとりの自助努力から「新しい価値」を生み出す経済活動を促すしかない。

神と国民の間にあって、政治家は、神の徳へと近づけるよう国民を導くことが仕事である。指導者の役割について、大川隆法・幸福の科学総裁は、『未来への国家戦略』でこう述べている。

「『やはり、一国の指導者は、国民に勤勉の意欲を起こさせる方向へと導いていかなければいけない』ということです。(中略)国の指導者は、国民に向かって、『「小さなものをコツコツ積み上げて大きくしていく」という積小為大の精神のなかにこそ、国家の繁栄はある。そうした、新しい倫理に基づく経済体をつくって「大きな仕事」を成し遂げよう』ということを発信しなければいけません」

国民の働くインセンティブを高めるには減税や規制緩和を実行に移すことである。富を生み出すのは政府ではなく国民である。その自覚が持てない限り、次期首相候補も米バイデン民主党政権と本質的には同じリベラルであって、神から人間に与えられた自由を保守する意味での保守とは言えないのである。

(長華子)

【関連書籍】

未来への国家戦略

『未来への国家戦略』

幸福の科学出版 大川隆法著

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

コロナ不況にどう立ち向かうか.jpg

『コロナ不況にどう立ち向かうか』

幸福の科学出版 大川隆法著

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

【関連記事】

2021年2月1日付本欄 米MMT学者のウソ 日本はMMTの正しさを証明していない

https://the-liberty.com/article/18047/

2021年9月9日付本欄 政府が輸入小麦価格を19%値上げ 背後に中国がひた隠しにする食糧危機

https://the-liberty.com/article/18746/

2021年9月7日付本欄 高市早苗氏が自民党総裁選で法人への「預貯金課税」導入に言及 マイナンバーの本当の狙いは「貯金税」にある

https://the-liberty.com/article/18740/

2021年5月31日付本欄 米経済はサッチャー登場前夜に向かっている!? 「信念の政治家」サッチャーを形作った信仰心とは(前編)

https://the-liberty.com/article/18441/