《本記事のポイント》

  • 7月~8月、中国各地で甚大な洪水被害が発生
  • 当局による死者数の隠蔽が相次ぐ
  • 不都合な数字の隠蔽は、「民衆からの批判を避ける」「面子を保つ」「敵を混乱させる」ためか

中国各地はここ数カ月、未曽有の豪雨に見舞われている。

7月から8月にかけて、各地で甚大な洪水被害が起きた。大雨と直近の台風6号「インファ」(中国名「烟花(花火の意)」)による影響である。

台風6号は7月下旬、沖縄県を通過。気象庁は同月28日午前3時、中国・長江下流付近で熱帯性低気圧になったと発表している。

ところがその後、インファはゆっくりと華中沿岸部を北上し、8月に入っても、東北三省で猛威を振るった。そのため、同地方はもとより、広東省、浙江(せっこう)省、江蘇(こうそ)省、河南省、湖北省、上海市、天津市、北京市等でも水害が起き、各地で甚大な被害が生じた。

被害に遭った省市の中で、河南省鄭州(ていしゅう)市の状況が一番酷いようなので、ここでは、同市をケース・スタディとして取り上げたい。

電車の中に閉じ込められ、14人が死亡

鄭州市では7月17日に雨が降り始め、昼夜を問わず、4日間降り続けた。そして、20日午後4時から5時にかけて、1時間に200ミリメートル以上の降水量を記録したのである。

同日午後6時50分ごろ、同市地下鉄5号線の車両が海灘街駅を過ぎたところで、突然停止した。午後7時時点で、多数の乗客が車両の中に閉じ込められた。そして、電車内では水位が乗客の首あたりまで迫った。結局、電車内では、14人が死亡している。

その後、沙口(さぐ)駅出口付近には、遺族らが献花した。ところが、当局は初七日の同月26日、献花台が見えないようにパネルで封鎖している。いったん、市民によってパネルは取り除かれたが、また封鎖された。

トンネル浸水で6000人あまりが亡くなるも……

他方、鄭州市では、全長25.2キロメートルの京広高速が交通の要である。この京広高速には、計4.3キロメートルの3つの不連続のトンネルがある。その中で1番被害が大きかったのは、全長1835メートル、高さ6メートルの京広北路トンネルだった。

このトンネル内に大量の雨水が浸入し、多数の車がほとんど動けないまま水没した。一説にはおよそ6000人が亡くなったという(7月24日付『自由時報』「解放軍全面接手!京廣隧道傳已挖出6000遺體 真相恐成『國家機密』」)。また、葬儀場には約2万人弱のご遺体が運ばれて来たという未確認情報もある。

けれども、鄭州市当局は、トンネル内の死亡者数は6人、廃車になった車両は247台だと公表した。無論、トンネル内の犠牲者がたった6人であるはずはない。当局は、死者数の隠蔽を謀ったのである。京広線トンネルの歩道橋には、地下鉄の沙口駅付近同様、死者を悼んで献花がなされた。

一方、中国共産党は外国人記者に対し、中国の災害状況の取材をしないよう警告した。また、同党は共産主義青年団(共青団)を使って、外国人記者に嫌がらせを行っている。ちなみに、北京政府は英BBCが"フェイクニュース"を流していると非難した。

河南省政府は8月2日、水害による死者が302人、行方不明者が50人に達したと発表している。

水害と食糧危機とコロナ再流行のトリプルパンチ

このような情勢下、被災した地域住民は、東京オリンピック観戦を楽しんでいる場合ではなかっただろう。生きるか死ぬかの瀬戸際である。一部の養豚農家は水害に遭ってほとんどの豚を失い、生活に困窮している。

また、中国では食糧危機が迫っているせいか、国家発展改革委員会は7月30日、国内の一部主要肥料メーカーが一時的に輸出を停止すると発表した。水害で食糧生産が厳しい状況に陥っている証左ではないか。

実は、現在、10省25都市に新型コロナウィルスが再流行している。なお、中国製ワクチンの効果については世界中から疑われている。コロナの再流行が、洪水被害と相まって、習近平政権に大きなダメージを与えるのは間違いないだろう。

中国共産党が不都合な数字を隠す理由

ところで、以前から我々が主張しているように、中国共産党は、同党にとって不都合な数字をほとんどすべて隠蔽し、場合によっては、数字をねつ造する。

なぜ正確な数字を隠すのか。

第1に考えられるのは、同党は正確な数字を公表して、民衆から批判を受けたくないからではないか。共産党による"統治の正当性"が疑われ、揺らぐからだろう。

周知の如く、中国共産党は、1949年10月の中華人民共和国建国以降、町や村などの基層選挙以外、それより広域である省市等の地域代表、および全国代表の「両会」(全国人民代表大会代表と政治協商会議全国委員会委員)などを選ぶ"普通選挙"を行ったことが一度もない。そのため、同党の"統治の正当性"が疑問視されている。

第2に考えられるのは、中国人特有の"面子"の問題ではないか。統治者として、正確な数字(特に、死者数の如く大きな数字)を出すのは恥ずかしいので、発表しないのかもしれない。

第3は、『孫子』の教えに従い、敵(自国民や諸外国)を混乱させようとして、デタラメな数字を公布している可能性も否定できないだろう。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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