テレビドラマ『半沢直樹』の新シリーズが、再び高視聴率を叩き出し好調だ。主人公が巨大組織にはびこる悪事を暴き、「企業に寄り添う」という金融の使命に真摯に向き合う姿が、多くの共感を呼んでいるのだろう。そんな精神を、「地域を支える」という形で発揮している"バンカー"がいる。本欄では、日本一の米どころである新潟県南魚沼市に本店を構える塩沢信用組合理事長のインタビューを紹介する。

※2019年11月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。

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塩沢信用組合 理事長

小野澤 一成

(おのざわ・かずなり)

1955年生まれ。旧塩沢町(現・南魚沼市)出身。77年、塩沢信用組合に入組。2008年6月より現職。11年に金融担当大臣顕彰、16年に黄綬褒章を受章。

──蔵造りの本店に、理事長が着ておられる地元・塩沢の織物の羽織……。地域への思いが伝わってくるようです。

小野澤氏(以下、小) : 塩沢信用組合は、地域あっての銀行です。ですから、"つじつま"が合わなくても、地域のため、お客様のための仕事をします。利益は後からついてくるんです。金融機関としてよりも、地域のための仕事が多いかもしれません(笑)。

資金繰りの悩みから解放する

: 金融庁の調査によると、中小企業は「親身になって相談に乗ってもらえること」を求めています。ところが銀行は、目の前のお客様が困っていても、お構いなしのところがあります。それは、銀行が3カ月ごとに決算を迎えるため、利益を即時に出せる仕事しかしないからです。

中小企業の多くは、「このままだと経営に行き詰まる」と分かっていても、資金繰りに追われて、本業に専念できずにいます。

ですから、私どもは、「経営者を資金繰りの悩みから解放する」と決めています。利息が返済されれば、短期資金は事業者の手元に残し、恒常運転資金として使えるようにして、本業に専念していただきます。

──実は私の両親も、まさにその問題に直面していた時期がありました。そういった支援のある金融機関が近くにあったら、どれだけ心強かったことか……。

: つい最近も、ある地元企業への支援がまとまったばかりです。その企業は、1億5000万円あった借入残高を9000万円まで減らすことができました。

当然、返済負担も変わってきます。これまでの負担は、年間で3600万円でした。これが、いくらまで下がったと思いますか? 普通は3分の2程度ですが、私どもは半減を目安に考えました。少なくとも2年先、3年先まで本業に集中できて、資金繰りに悩まなくてもいい環境をつくるには、中途半端な支援をしても意味がありません。ところが今回は、半減で計算しても、事業者の手元に現金が残りませんでした。ですから、68.6%減の1100万円まで返済負担を引き下げました。「これだったらやっていける」と、社長にも喜んでいただけました。

金融支援をすると決めたら、その企業が再生するまでずっと付き合いますし、最後まで面倒を見ます。これが、私どもが得意とする「永続伴走支援」です。

金融機関が中小企業への支援に本気になれば、日本経済は復活できます。だから、「私たちが必ず救う」。そう思っています。

ローカルのつながりを大切に

: 当組合では、職員が見聞きしてきたローカル情報をもとに、信用に値する人物かどうかを判断します。一方、他の金融機関は、信用情報機関のビッグデータを使って融資の審査をするので、評価基準が一律になります。他の金融機関が出せないような融資でも、当組合が出せる理由はここにあります。

最近はAIを導入する銀行も増えていますが、機械を使うのは、結局「人」ですよね。ですから、最後は必ず、血の通った人間同士のお付き合いを大切にしているところが生き残ります。

私たちは、地域の"町医者"です。しっかりと患者に向き合って、原因究明をするから、"大病院"にかかっても治らない病気を治して差し上げられる。これって、かっこいいと思いませんか? (笑)。これが、塩沢信用組合が目指している姿です。

正面入口

外観は、細部に至るまで蔵造りを徹底。

窓口と待合スペース

「ここは観光案内所ですか?」と入ってくる人も。

ATMコーナー

ATMコーナーはあえて店の奥に設けることで、地域の方との会話も増える。

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