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《本記事のポイント》
- 米電気自動車メーカーのテスラが4四半期連続の黒字で、S&P500入りか!?
- 中身をみると、温暖化ガス排出権(クレジット)による売却益という「実体のない利益」
- 同社の売上を伸ばしたのは、米中覇権戦争のリスクが高まる中国市場……
米電気自動車メーカーのテスラが、一時、日本で上場する自動車メーカー9社を合わせた時価総額を超え、話題をさらった。注目を集めた2020年第2四半期の純利益は1億400万ドル(約110億円)となり、創業以来初めてとなる4四半期連続の黒字を記録した。
増益となった主な要因は、中国・上海工場の生産に伴う中国市場での販売伸長や、従業員給与の一時的な削減、他の自動車メーカーへの温暖化ガス排出権(クレジット)の売却益などである。
4四半期連続の黒字により、テスラは、アメリカの代表的な株価指数「S&P500」に採用される可能性が生まれ、有名企業の仲間入りを果たすと見られている。
同社の業績が好調なのは、「再生可能エネルギーの時代が到来する」ことへの期待感の表れとも言える。もし今後、環境政策を目玉にするバイデン政権が誕生すれば、テスラに強い追い風が吹くだろう。これらにより、同社の株価は、年初から7月22日までで280%も上昇した。
クレジットという「実体のない利益」
だが、テスラに死角はないのか、本当にそれだけの市場価値があるのか、と疑問を投げかけられているのも事実だ。特に、温暖化ガス排出権(クレジット)による売却益は、事業の成功に裏打ちされた収益とは言い難い。
排出権取引とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出枠をあらかじめ定め、その枠が余った企業は他社に売買できる制度である。
テスラの売上高60億4000万ドル(約6445億円)のうち、クレジットの売却益は4億2800万ドル(約457億円)。クレジットの利益は、純利益や営業利益、フリーキャッシュフローを上回り、前期より約3倍に増えるなど、収益の大きな柱に成長している。クレジットがなければ、第2四半期の決算で「赤字」に転落したほどだ。
中国依存の経営は大丈夫か
さらにテスラの売上に大きく貢献したのは、中国政府が今年、電気自動車などの新エネルギー車の普及を目指し、優遇措置をとったことにある。新エネ車を購入する際の登録費の減免や補助金の支給により、同社の販売が伸びた。
テスラを支えたのは、「環境規制や中国の優遇措置で生まれた利益」と言える。
だが、クレジットのような実体のない利益の増加や、米中覇権戦争のリスク分散が進まないことは、テスラの健全な発展につながらない可能性がある。株高で注目を浴びる同社の経営は、盤石とは言いきれない。
(山本慧)
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