香港では2019年6月以降、「逃亡犯条例」改正案を契機とした大規模な抗議デモが行われている。デモ隊に対する政府や警察の対応に不満が高まる中、昨年11月に行われた香港区議選は、民主派の歴史的な勝利となった。

同選挙で初当選を果たした若手の区議に、香港デモの実情を聞いた。

(聞き手: 国際政治局 小林真由美)

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香港・観塘区議会議員

梁翊婷

プロフィール

(りょう・よくてい/Edith Leung)1990年生まれ。香港城市大学英文学部を卒業後、テレビ局勤務を経て、2017年に民主党に加わり、18年に党中央委員に就任。2019年の区議選で初当選。

──梁さんは若手議員として期待を集めています。政界に入ったきっかけを教えてください。

梁氏(以下、梁): 幼い頃から、政治のニュースをよく見る家庭で育ちました。6歳の時、両親が天安門事件について、当時の新聞の切り抜きなどを見せながら教えてくれたことがきっかけで、世界にはさまざまな不正があることを知りました。

大学2年生の頃から政治運動に本格的に参加するようになり、2017年の行政長官選挙では、林鄭月娥(キャリー・ラム)の対戦相手となった曾俊華(ジョン・ツァン)候補の選挙活動に参加しました。香港の未来のために、自分自身も政界に入る必要があると考え、その年に民主党に入党し、19年の区議会議員選挙に出馬しました。

今回、当選したことは、私個人が選ばれたというよりは、自由や民主主義を求める有権者の意思表示だと思っています。また、香港の民主化デモの主力は若者だったため、私は若者の代弁者となることを求められていると感じています。

香港警察による暴力

──選挙の約10日前に、警察から暴力を振るわれたことを訴える記者会見を行われました。当時の状況について教えてください。

梁: 19年11月11日の早朝、私は抗議活動に参加するために、地下鉄駅付近を歩いていました。マスクで顔を隠した香港警察たちがいたので、「市民には顔を隠してはいけないと言いながら、なぜ警察は顔を隠しているのですか」と抗議し、警察と口論になりました。

すると警察の一人は、急に私の頭をつかんで地面に押し当てました。膝を私の首の上につき、別の警察が私の手を踏みつけようとしたので、私は抵抗しました。すると彼らは警棒で私の頭を何度も殴りました。

彼らは私を座らせ、顔と頭に催涙スプレーを大量に噴射しました。私の目は催涙スプレーだらけで視界がぼやけていましたが、地面に血が流れているのを見て、それが自分の頭から流れていたことに気づきました。

彼らは私を警察署に連れて行きましたが、私は「病院に行きたい」と言い、数時間後に病院に連れて行かれました。私の頭の傷は深く、5針縫うほどでした(写真)。

左画像は本人のFacebook、右画像は民主党のFacebookより。

その後、きちんとした裁判手続きを求めて警察を訴えました。今は、民主党の弁護士である何俊仁(アルバート・ホー)さんと一緒に戦っています(文末の関連記事参照)。

泣き寝入りはしない

梁: 私の傷は、私の友人たちが負った傷よりもずっと軽いものです。私の友人の27歳の男性は、香港の最もレベルの高い学校の有名な教師ですが、警察の放ったゴム弾が目に直撃し、片目を失明しました。彼の視力はもう回復する見込みはないようです。

デモ隊の応急処置をしていた時に右目を撃たれ、血まみれになった写真が報じられた女性も、私の友人です。彼女はたくさんの手術をしなければなりませんでした。

香港人の多くは、警察に酷い暴力を振るわれても泣き寝入りするしかありません。告訴しても、警察からさらに嫌がらせを受けるだけだからです。

私は殴られたり、逮捕されたりすることを恐れていません。自由を求めるためには、犠牲になったとしても、誰かが立ち上がり、当局や警察に対して「あなたたちは間違っている」と言わなければいけないからです。

デモ隊を「ゴキブリ扱い」する警察

梁: 第一線にいる警察には、広東語ではなく北京語を話している人もたくさんいます。中国から来た人が香港警察のフリをしている可能性がとても高いです。彼らも長引くデモの対応で精神を病んでいて、人間らしさを失っています。

実際に、警察がデモ隊を殴る時、「このゴキブリめ!」と言っているのをよく目撃しました。ゴキブリを殺す感覚で、催涙スプレーをかけたり、棒で叩いたりしているのです。だから、あそこまで非人道的になれるのです。

また、香港では不審死も増えており、たくさんの不可解な事件が起きていますが、本来取り調べをすべき警察が責務を果たしていないので、そのままになっています。

台湾は香港の経験から学ぶべき

──今回、台湾の選挙でも、香港の事例を出して中国の体制を批判する声が高まりました。

梁: 多くの台湾人は今、香港人のために声を上げてくれています。香港も台湾も、巨大な中国の独裁政権と戦っているからです。ある台湾人の友人は、「台湾人は香港の状況を選挙利用しているけれど、それでもいいの?」と聞いてきました。私は、「どうぞ利用してください」と答えました。

香港ではすでに、多くの血が流れ、大勢の人が涙を流しています。台湾はこうした香港の経験から学ぶべきです。台湾人が香港を見て、自由と民主主義を守る選択をしてくれたら、本望です。自由も民主主義も、天から降ってくるものではありません。戦って勝ち取らないといけないものです。

目標は中国の民主化

梁: 私の究極の目標は、アジアのすべての国が立ち上がり、民主主義の価値を掲げ、中国を民主化することです。独裁的な国が力を持てば、その影響は他国にも及びますが、逆に民主主義国家の力が強くなれば、他の国にも影響を与えられると思います。

香港はとても小さな都市ですが、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどの民主国家は、香港で起きていることをよく知っています。世界中の人々が「独裁的な政府には未来がない」ことを知る必要があります。

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泣きながら取材した香港革命~日本人へのSOS~【未来編集】

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2019年9月18日付本欄 「中国も民主化すべき時」: 香港の民主派弁護士アルバート・ホー氏インタビュー

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