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城取 良太

プロフィール

(しろとり・りょうた)1977年東京都生まれ。山形県酒田市在住。成蹊大学経済学部卒業後、人材コンサルティング業界を経て、幸福の科学に奉職。HS政経塾1期生。趣味は映画鑑賞、サッカー。

生産年齢人口が減少しつつある今、日本も移民政策について考えざるを得ない状況になっている。山形を拠点に政治活動をしつつ、世界を飛び回って政策研究を行う城取良太氏が、諸外国の移民政策の実態をレポートする。

今回はフランス編の2回目。

小説『服従』に描かれた近未来のフランス

パリの新聞社が預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことを発端として、「シャルリー・エブド事件」が起きた2015年1月7日、時を同じくしてセンセーショナルな小説がフランスで発刊された。

欧米圏ではもちろん、日本でも熱狂的なファンを持つベストセラー作家、ミシェル・ウエルベック氏の『服従』だ。

物語は2022年に行われるフランス大統領選の動向を中心に進んでいく。

反移民を掲げ、国をフランス人の手に取り戻そうとする「国民戦線(現・国民連合)」と、サウジアラビアの経済支援をもとに、移民やリベラル層の支持を取り付け、快進撃を続ける「イスラム同胞党」との間で、国を分断する大統領選挙が行われる。結果としてイスラム系の政権が誕生し、そして……というストーリーだ。

政治にも宗教にも距離を取った典型的なインテリ、大学教授フランソワの目線から、フランス人の享楽的で刹那的な生活や思考が描かれた、シュールでリアルな小説だ。

いまのフランスを遠い日本から見る限り、4年後にイスラム政権が誕生するとはさすがに思えない。しかし、この『服従』を読めば、現代フランスに大きな価値観の揺らぎが起こっていることは、少なからず実感できる。

「揺らぎ」を起こしている中心的な原因は、間違いなく移民問題といえる。

19世紀~20世紀―欧州圏内のカトリック移民が大半

フランスでは正確な移民統計を出すのは難しいといわれる。国勢調査で民族的な出自等を尋ねていないからだ。

正確な統計ではないが、大雑把に見て、フランスの移民は700万人を超える。また、生まれも育ちもフランスだが、移民にルーツを持つ、広義の移民は1500万人。実に総人口の2割強が移民をルーツとしているということだ。

近代以降のフランスはいくつかの移民受け入れ政策の波を経験してきた。

第1の波は19世紀の終わりころ。今でこそ、どの先進国でも見られる傾向だが、フランスはこの時代、世界中で唯一少子化が進行し続ける奇妙な現象が起きた。

フランス革命によって世俗化が進み、人々の信仰心が弱まったことが少子化の原因ではないかとの説が有力だが、1890年から1914年の四半世紀は、死亡数が出生数を上回る危機的な状況を迎えていた。

さらに、第一次大戦後の1920年代、そして第二次大戦後の1945年以降が第2、第3の波とされる。これは、フランスが両大戦の主戦場となり、合わせて220万人以上の甚大な死傷者を出したことが背景にある。

低出生率と戦争による人口減少からフランスの衰退を救ってきたのが、大量の移民たちだった。

そのころ、フランスが受け入れた移民はほとんどが、スペインやイタリア、ポルトガル、ベルギーといった欧州圏内出身者で、そのうちの大半がカトリック教徒だった。

信条や価値観を同じくした彼らとの同化は極めてスムーズだったと言えるだろう。

20世紀後半-アフリカ・イスラム移民が急増

移民大国としての内実が大きく変わってきたのが、20世紀後半、特に1980年代ごろからだ。

フランスの植民地だったアフリカ諸国からの移民が徐々に増大し始める。75年には、移民全体の35%を占めていたアフリカ出身者が、82年には43%、90年には47%近くに達した。

アフリカ移民の中でも、最大集団のアルジェリアをはじめ、モロッコ、チュニジアなど北アフリカ(マグレブ系)等を中心に、アラブ系のイスラム教徒がかなりの割合を占め、一説には約500万人のイスラム系の移民がいるとされている。

フランス編Vol.1( https://the-liberty.com/article/15061/ )でも指摘した通り、フランスの移民政策の大きな特徴は、同化主義を基調に、平等主義を大事にして国籍、民族による選別をあまり行ってこなかった点にある。

だが、欧州系移民(古い移民)たちとは異なり、アフリカ・イスラム系移民(新しい移民)たちはフランスの文化にすんなり同化することが出来なかった。

もちろん、新しい移民の中でも、刻苦勉励し、名門校に進学したり、高所得を得たりする者も少なからずいたので、一概にうまくいかなかったとは言えない。

しかし、一般的なイスラム系移民と、現在30~40歳代の第二世代の立場に立つならば、経済構造の変化や製造業の雇用縮小などの影響を強く受け、彼らの経済環境は極めて厳しい。

移民に限らず、ただでさえフランスの失業率は慢性的に高い。中高年層の雇用保護(先任制)も法制化されており、若年層の失業率は全体で10%を超える。

そんな中、イスラム系移民の第二世代の失業率は30~40%を超えると言われる。

雇用における格差は歴然としており、フランス的平等の建前の裏側で、履歴書による民族差別も横行しているのが実態だ。

教育による同化の失敗

さらに、教育による同化の失敗という要因も重なる。

第二世代の「初等教育以下」の比率はアルジェリア系27%、モロッコ系17%と極めて高く、彼らは失業者・貧困層となっていく。

同時に、高学歴者の割合も全体と比べるとはるかに少ない。

教育の失敗とそれに伴う慢性的な失業によって、貧困が常態化した移民層などが集まっている場所が、フランスで「郊外(バンリュー)」と呼ばれるところだ。

彼らは「フランス人だ」という自覚をどれだけ持っていても、民族的ルーツや宗教で区別されていると感じてしまう。「ゲットー」のように、マイノリティの密集居住地と化してしまっているのだ。

(後編に続く)

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2018年7月号 人手不足ニッポン「親日外国人」を育て戦力化する Part.1

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2018年10月31日付本欄 【移民の成功学・失敗学】フランス編 Vol.1 欧州最大の移民国家の光と影

https://the-liberty.com/article/15061/