《本記事のポイント》
- 「財政赤字の主因は減税」という報道
- 税収は増えており、法人税の落ち込みを上回って所得税が増えた
- 「税率を下げ、税収が増えた」現象こそ注目すべき
「(アメリカの財政赤字拡大は)大型減税で法人税収が減少したのが主因」(16日付日経電子版)
「トランプ政権の減税で6年ぶりの赤字幅となった」(17日付朝日新聞朝刊)
「トランプ政権の大型減税で法人税収が落ち込む一方、国防費や社会保障費が増えた」(16日付読売新聞夕刊)
こうした報道を見て、「そら見たことか」と思った人もいるかもしれない。「トランプ政権の減税で、財政赤字が6年ぶりの規模で膨らんだ。やはり安易な減税は危険であり、無責任なのだ」と。
しかし上のような報道は、大きな誤解を与えている。
歳入は923億ドルも増える
確かに米財務省の発表によると、2018会計年度(2017年10月~2018年19月)の財政収支そのものは、1132億ドルの赤字となっている。この数字が6年ぶりの水準であることも間違いない。
しかし、それが「トランプ減税」に結び付けられて報じられるのは、強引に過ぎる。なぜなら、税収を主とする歳入そのものは、減税が実施される2017会計年度よりも増えているからだ(923億ドル増)。
財政赤字が膨らんだ主因は、それ以上に歳出が増えたことだ(1270億ドル増)。
歳出がかさんだ要因として最も大きかったのは、公的債務への「利払い」が増えたこと(620億ドル増)。背景には、米連邦準備理事会(FRB)が引き締め政策として、政策金利を引き上げたことがある。
そして「利払い」に次ぐ歳出拡大要因は「国防費」だ(333億ドル増)。これも、中国の覇権拡大に対抗するためのもの。軍事費を減らし続けたオバマ政権のツケであり、未来の平和維持のためのコストだ。
つまり、財政赤字拡大の"主因"はどちらも、減税したこととは別の話だ。
こうした事実を前提に上記の報道を見たとき、「減税が財政赤字拡大の主因」という書き方はあまりにもミスリーディングではないか。
「減税=赤字」の苦しいこじつけ
上の記事では、減税と赤字拡大をこう結び付けている。
「米経済は4~6月期の実質成長率が4%台に高まって企業業績も好調だが、それでも法人部門の大幅な税収減は避けられなかった」「税収が増えやすい好況時に財政収支がこれだけ悪化するのは極めて異例だ」(16日付日本経済新聞電子版)
つまり、「好景気なら税収が増えるはずなのに、減税したから十分増えなかったではないか」ということだ。しかし繰り返すが、赤字の理由は歳出だ。そして歳入は増えている。好景気も、減税がなければ実現しなかった。
やはり「減税が赤字の主因」というのは、苦しい論だ。
法人税の落ち込みを上回って所得税が増えた
むしろ注目すべき現象は、「減税したにもかかわらず、歳入が増えたこと」だ。連邦法人税率を10%以上も引き下げ、個人所得税も下げるというのは、かなり大胆な減税だった。
さすがに法人税収入は大幅に落ち込んだ(923億ドル減)。しかしそれを上回って、個人所得税が増え、減税分を帳消しにしているのだ(964億ドル)。その背景は、減税や規制緩和による歴史的な好景気だ。そうなると「減税が赤字の主因」という論は、ますます苦しく見えてくる。
「税率を下げ、税収が増える」
大幅な歳出拡大の影で起きている、この重要なパラドックスにこそ注目すべきだ。なぜ報道はそれを黙殺するのだろうか。
最近よくなされるように、トランプ景気について「副作用がある」「脆弱だ」などと議論するのは構わないだろう。しかし少なくとも新聞は、目の前の現象を素直に報じるべきだ。「消費税率引き上げ」を前に、国民は正しく考える材料を欲しているのだから。
(馬場光太郎)
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