《本記事のポイント》
- 「実質消費」「実質賃金」ともに下がりっぱなし
- 減税したアメリカに比べ成長率は半分に
- 自分と家族のために働けるのは午後2時45分以降
安倍晋三首相は15日の臨時閣議で、消費税率を来年10月1日から10%へ引き上げる考えを正式に表明した。
軽減税率が導入され、大規模な経済対策も行われるが、不安の声は大きい。日本は2014年4月に行われた8%増税のダメージをまだ引きずっているのではないか。本当に、増税できるような経済状況なのだろうか。
3つのグラフからもう一度考えたい。
「実質消費」「実質賃金」ともに下がりっぱなし
安倍政権は現在の経済状況を、「戦後2番目に長い景気回復」「いざなぎ超え」などと評価する。しかし、国内総生産(GDO)が2桁成長を続けていた「いざなぎ景気」と、実質値で1%前後しか成長していない現在とでは、雲泥の差がある。
実質GDPが微増しているのも、アベノミクス第一の矢(金融緩和)による円安で、一部の輸出企業・大企業が潤ったことが主な要因。つまりは外需頼みだ。
では、肝心の一般庶民の懐事情はどうか。
上のグラフは、2010年から2018年の実質消費・実質賃金指数の推移だ。
「実質」とは、物価上昇を差し引いた「本当の豊かさ」を示すもの。季節変動があるので、7月時点の指標で比較している。
ご覧のとおり、どちらの数字も2014年4月の増税から大きく落ち込み、回復するには至っていない。
政府主導の「賃上げ」も、大企業の従業員ばかりが恩恵にあずかっている。しかも物価上昇に相殺されている形だ。
景気回復の象徴として「景気回復期間の長さ」や「有効求人倍率」などが出される。しかしシンプルに見れば、「消費と賃金が減ったままなのだから、増税の後遺症はいまだに続いている」と考えるべきだ。
それでも前回の増税は、アベノミクスが始まったばかりの「景気絶好調」の時期に行われた。現在のような状況下で次の増税が行われれば、その影響はいかほどのものだろうか。
減税したアメリカに比べ成長率は半分に
大企業は潤っても、大多数の庶民は賃金も消費も減っているので、GDP全体も低空飛行だ。
上のグラフは、トランプ減税を行ったアメリカとの実質GDPの増分の比較。その伸び率には2倍もの差がつけられている。
よく、「日本は先進国で成熟しているので、経済成長を前提にした財政運営はするべきではない」という議論が見られる。しかし、日本以上に“成熟"しているはずのアメリカ経済にこれほどの差をつけられているとなれば、もう言い訳はできない。
実質値で3%以上の成長を続けることは可能なはずだ。その命運を大きく分けているのが「増税か減税か」ということになる。
自分と家族のために働けるのは午後2時45分以降
さらに景気以前の問題として、「税金全体として、これ以上増えていいのか」というそもそも論を問わなければならない。
上のグラフは、「平均的な日本人が納税のために働く状態から解放される時間」の目安を示したものだ。
税金は「お金」の形で払われるが、それは国民が汗水流して働いた結果。つまり「人生の時間そのもの」といえる。
東京23区正社員の1日の労働時間は平均で8.9時間だ。それに、財務省が公表している国民負担率42.5%を掛け合わせると、3.78時間となる。
国民負担率とは、「国民所得に対する国民全体の租税負担と社会保障負担の合計額の比率」のこと。日本人の多くは、払っている税金の全体像を知らない。働いた結果、企業に入る利益からは「法人税」が引かれ、「所得税・住民税」が天引きされ、事実上の税金である「社会保険料」も労使折半で引かれる。そして得た手取りからは、買い物をするたびに8%の「消費税」が引かれる。
そうして知らず知らずに払う税金の割合は、所得や家族構成によって差はあるものの、全体で平均すれば42.5%になるわけだ。
始業を午前9時、お昼の休憩時間を1時間(労働基準法で定められた最低水準)と仮定し、納税のために3.78時間働いたとすると、自分や家族のために自由に使えるお金を稼げるのが、ちょうど午後2時45分からということになる。
昨今、「ブラック企業」だの「社畜」といった言葉が聞かれるが、この状態はまさに「国畜」といえる。
もちろん税金も社会保険料も、"国民のため"に使われる。しかし政府や官僚が本当に効率的に、そして誠実にその税金や保険料を使っているか。昨今のさまざまなニュースを思い出しながらよく考えるべきだろう。
まとめると、日本は消費税を上げたことによって、消費も賃金も下がった。減税したアメリカに比べて経済成長率は半分以下となっている。そして労働時間の4割以上を、政府のために捧げている。
それでも、増税するというのか。「国民は自分勝手であり、もっと我慢しなければ財政が破綻する」というようなロジックを、日本人は受け入れられるだろうか。
安倍政権にはもう一度、慎重な検討をお願いしたい。
(馬場光太郎)
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