Faiz Zaki / Shutterstock.com

《本記事のポイント》

  • サイバー攻撃は、犯罪か軍事攻撃かさえ分からない
  • "AI参謀"に誰も勝てなくなる!?
  • 3DプリンターがAIと組み合わされた時……

技術革新によって、戦争のあり方が、人類史の中でも稀に見る変化を遂げようとしている。そこに、日本の自衛隊はついていけるのか。元航空自衛官であり、現在はハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、軍事学や国際政治学を教える河田成治氏に話を聞いた。

◆               ◆               ◆

人類の歴史を紐解くと、「戦争のあり方が、ある段階で飛躍的に変化した」というタイミングが、何度か訪れています。それは、火薬や核などの技術開発による革新だったり、戦略思想の革新だったりします。

そして今、戦争の世界に、それに相当するビッグイノベーションが起きつつあります。

信号、空港、病院……サイバー攻撃は生活全てを狙う

その代表例が、最近よく耳にするようになった「サイバー戦争」です。サイバー空間は今や、「第五の戦場」と言われるようになっています。

「サイバー」といっても、ピンと来ない人もいるかもしれません。

しかし、もし信号のネットワークが破壊されて、動かなくなったらどうなるか、想像してみてください。

また、空港の管制塔と、着陸しようとしている飛行機との通信が切れたらどうなるでしょうか。空港では1~2分の間隔で、飛行機が着陸します。その"交通整理"が消えれば、飛行機は着陸できなくなります。しかし燃料にも限りがあります。下手をすれば、大事故にもつながりかねません。

昨年、「ランサムウェア」というウィルスが、世界中に感染して大問題になりました。このウィルスが最初に襲ったのは、イギリスの病院にあるコンピューターだと言われています。大勢の入院している患者さんたちの体調を管理できなくなり、大混乱に陥りました。

私たちがお金を預ける銀行のネットワークも、攻撃対象です。2015年に発表されたアンケートによると、日本の金融機関の50%は、何らかのサイバー攻撃を経験しています。

つまり、"私たちの生活全て"がサイバー攻撃の対象となるのです。

サイバー攻撃は、犯罪か軍事攻撃かさえ分からない

しかしこのサイバー攻撃には、容易に防衛できない特徴があります。それは、攻撃元が特定しにくいということです。

サイバー攻撃は、コンピューター上においてワンクリックで仕掛けられます。その攻撃は、光の速さの0.3秒で地球を約二周しますが、攻撃元を特定するには、数カ月かかります。

つまり、攻撃を仕掛けられた時点で反撃するのは、事実上不可能なのです。そうなると、軍事学の原則であった「抑止力」が成り立つのかどうか、分からなくなります。それどころか、犯罪なのか、国による軍事攻撃なのかさえ分かりません。多くの国の法体制においては、警察が対処すべきか、軍が対処すべきかの区分が難しく、さらに対策が遅れる可能性があるのです。

日本は「専守防衛」を謳っています。しかし、その概念が意味を成すのかという、根源的な問題にもぶち当たります。

また、今の日本において、サイバー攻撃に対応する法律は警察法規しかありません。自衛権の行使の要件としての「武力攻撃」としても認定されていません。「サイバー防衛隊」がつくられたと報じられていますが、それはあくまで、自衛隊組織をサイバー攻撃から守るための部隊に過ぎません。

しかしこれからの戦争は、まずサイバー空間による奇襲攻撃から始まる可能性が非常に高いです。中国は実際に、サイバー攻撃を経てから、物理的な攻撃を行う訓練を行っています。

迅速な対応が求められる分野なのです。

"AI参謀"に誰も勝てなくなる!?

次に大きな革新をもたらすのは、AI(人工知能)です。

世界の大国は、「AIこそが覇権を左右する」とはっきり認識しているのです。アメリカのマティス国防長官は、AIこそ、今後、アメリカが優位に立ち続けるための柱と語っています。中国の国務院も、2030年までに「AIのフロントランナー」を目指す戦略を立てています。ロシアのプーチン大統領も、「AIの分野でリーダーにある者が世界の統治者になる」と語っています。

軍事の世界におけるAIには、「静止オートノミー」といういわば「参謀機能」を持つものと、「運動オートノミー」というAIを搭載したロボットが実際に攻撃を仕掛けるものの2種類があります。

「静止オートノミー」は、いわば参謀機能を果たします。

例えばアメリカは今、世界中に多数の無人偵察機を飛ばし、大量の情報を集めています。特に、「グローバルホーク」という偵察機は、地上にあるゴルフボール大のものまで認識することができます。こうした偵察機によってアメリカは、毎日、米連邦図書館全蔵書の2倍のデータを収集しているのです。これらを人間が分析することは、ほぼ不可能です。

しかし、もし、これほどの情報をAIに高速で分析させたなら、米軍にはどのような力が手に入るでしょうか。さらにそこに併せて、人工偵察衛星、SNS、監視カメラなど、あらゆる情報を集め、AIに分析させればどうなるでしょうか。

AIが軍の参謀として、陸・海・空・サイバー・宇宙のあらゆる領域の情報から「どこで何が起きているのか」を瞬時に把握し、瞬時に作戦の提案ができるようになれば……。敵よりもはるかに早く、質の高い意思決定ができるようになるのです。そうなれば、軍事的な優位は、格段に違ってくるでしょう。

戦争は複雑化し、人間頭脳の限界を超える!?

特に米軍は、陸・海・空・宇宙・サイバー・電子の6つのドメイン(領域)で、同時多発、かつクロスオーバーして戦闘が進むことを前提とした「マルチ・ドメイン・バトル構想」というものを進めています。

中でも米国のインド太平洋軍(旧・太平洋軍)は、率先して取り組む予定で、今年のリムパック2018では、この状況下での訓練になると伝わっています。

これは極めて複雑な作戦なので、人間の頭脳の限界を超えることが予想されます。作戦立案どころか、「戦況の可視化」さえも困難になる可能性も高く、現況が勝利の手前にあるのか、敗北の瀬戸際なのかも判断がつきにくいことが予想されています。そのため、AIへの期待が高まっているのです。

「AIが指揮官に助言をする時代」に、日本のAI技術が米軍にキャッチアップできていなければ、日米共同作戦の指揮命令において、自衛隊の行動にも米軍が口出しするなど、事実上の米軍の配下に置かれてしまうような事態も想定されます。

また、上に紹介した「サイバー攻撃」にもAIは絡んできます。もしサイバー攻撃を受けた瞬間に、AIがIT機器の異常を察知し、自立的に防御・修復できれば、被害は少なく済みます。つまり、どちらの国が性能の高いAIを持つかによって、サイバー攻撃の趨勢も左右されてしまうのです(*)。

次に、「運動オートノミー」の例です。ターミネーターのような戦闘ロボットもいずれ出てくるでしょうが、現時点で兵器化され得るのは、例えばAIを搭載したドローン兵器です。殺害したい相手の顔を入力すれば、勝手に顔を認証し、自動追跡して攻撃に向かう時代も近いうちに来るでしょう。

こうした「自律的致死兵器システム(LAWS)」は、火薬や核兵器に続く「戦争の第三の革命」と予想されています。

(*)もちろんAIの意思決定をどれだけ信頼すればいいかについては課題が多い。意思決定の前提となるデータそのものの信頼性や、人間の「勘」「インスピレーション」のようなものを含む判断に劣る可能性なども、挙げられている。

3DプリンターがAIと組み合わされた時……

さて、次は3Dプリンターです。

同技術の進歩もめざましく、コンクリート製の一軒家を、たった1日で、100万円ほどのコストで、そして人間が造るよりも高い強度でつくることもできるようになっています。

また、最新機「ボーイング777X」という史上最大のジェット機のエンジンに使用されるノズルは、3Dプリンターでつくられます。今までの金属製品とは異なり、鋳型をつくる必要がありません。また、即座に修正や改善を反映させることができるのです。さらに、アメリカのF-35も、45個もの部品を3Dプリンターでつくっています。

3Dプリンターでつくる部品は、経費が安く、迅速で、どこにでもつくることができ、輸送時間も大幅に短縮できるため、極めて軍事に向いています。

戦場で兵器が壊れた際には、本国から部品の輸送を待つことなく、必要な部品を自動で製造できます。中には、敵地に飛行中の航空機内において、3Dプリンターによってミサイルを生産し、発射させるという計画まであります。

この技術が軍事において最も威力を発揮するのは、AIと組み合わされた時です。実戦を経れば経るほど、自己学習して、部品・兵器の精度・性能を上げることができるのです。戦争中、兵器が勝手に進化し続けるのです。

この技術において、今、最も先頭を走っているのは中国だと言われています。

しかし、安く、そして速く兵器を調達する仕組みが最も必要なのは、軍事費も少なく、昔から兵站思想が弱い日本ではないでしょうか。現在、ミサイル防衛強化などの議論がされていますが、さらに一歩も二歩も先の議論をしなければ、この国をますます危機にさらすことになってしまうでしょう。

(本記事はHSU未来創造学部で行われた公開授業の内容を加筆編集したものです)

【関連記事】

2018年3月28日付本欄 「戦力不保持」維持と「自衛隊」明記で、現場はどう変わる!? 元自衛隊員に聞いた

https://the-liberty.com/article/14292/

2018年1月11日付本欄 「いずも」空母化で、日本は何ができるようになる? 軍事専門家に聞く

https://the-liberty.com/article/14001/

【HSU未来創造学部 公開授業のご案内】

・日時:2018年7月14日(土)13:40~16:50頃

・会場:HSU未来創造・東京キャンパス(東陽町)

・内容:

第一部 「日本の防衛力 今と未来-見えてきた日本の次期防衛戦略-」

講師 防大卒・元航空自衛官 河田成治

第二部 「日本はこう変わらねば~東京オリンピック後の日本~」

講師 株式会社人間と化学の研究所 飛岡健 所長

・お申込み・お問い合わせは下記までお願いします(会場案内など詳細をご案内します)。

HSU未来創造学部:TEL:03-3699-7707

【関連サイト】

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ 公式HP

http://happy-science.university/