《本記事のポイント》

  • 東大のランキング低下の理由は「教育力」「研究力」の問題
  • 上位の大学のある国は飛び級が認められるなど教育制度が自由
  • 日本も飛び級や新規参入を認めるべき

衝撃の結果だ。

イギリスの教育専門誌である、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が、このほど、今年の世界大学ランキングを公開した。東京大学は、前回の39位から、46位に転落。前々回の43位を下回り、過去最低の順位となった。

なぜ、東大の順位がこれほど落ちてしまったのか。

THEの分析によれば、今回東大の順位が下がった原因は、資金不足や中国の大学が急速に順位を伸ばしたことにあるという。同誌編集長は、「資金の調達方法を多様化する必要がある」と指摘している(5日付日経新聞電子版)。

東大の順位が下がった別の理由

しかし、評価項目を見てみると、違う側面が見えてくる。

THEによる世界ランキングは、「教育力」30%、「研究力」30%、「論文の引用」30%、「産学連携等による産業界からの収入」2.5%、「国際性」7.5%の5領域、13項目で「総合」100%を算出し、評価している。

この5領域で、東大の評価ポイントの順位の推移で見ていくと、「教育力」と「研究力」が下がっていることに気づく。「教育力」は過去最低、「研究力」は前年より約5ポイント減となっている。

「教育力」も「研究力」も、世界の学者へのアンケート結果に基づく「研究者による評価」の割合が大きい。評価ウェイトが30%あるうち、「教育力」は15%、「研究力」は19.5%が「研究者による評価」で占められているのだ。この2領域が下がっているということは、日本の「教育力」「研究力」に対する研究者の、客観的な評価が下がっていることを意味する。

これを、単に「資金不足」で片づけることはできない。

全ての上位国にある「飛び級制度」

日本の大学と他の上位大学との間には、制度上の違いがある。

今回のランキングで上位30校までに入ったのは、イギリス、アメリカ、スイス、シンガポール、カナダ、中国の大学だが、これらの国は全て飛び級制度を備えている。特に、アメリカの大学は、上位30校のうち、19校を占めるほどの驚異的な競争力を誇るが、その背景には、教育制度が驚くほど多様なことがある。

例えば、アメリカには、大学の単位先取りシステムである「APプログラム」(Advanced Placement Program)というものがある。「APプログラム」は、NPO団体であるカレッジボードが主催する制度だ。高校生で、大学レベルの授業を受け、試験に合格すれば単位が認められる。高校に通いながら、大学進学後にも使える単位を先取りできるのだ。

また、公費で民間人が運営できる公設民営校の「チャータースクール」も特徴的だ。「チャータースクール」では、教員だけでなく、地域団体や親でも学校を経営することができる。運営は公費によって行われるので、授業料は無償だ。法令や規制の多くが免除・緩和され、独自の方針で運営ができるので、教員免許を持たない人でもフルタイムの教員として教えることが可能となっている。

その代わりチャータースクールは、学力の改善などで、成果が上がらないと判断されれば認可は取り消される。自分たちの理想通りの教育を行える「自由性」がある代わりに、成果を出す「責任」を伴うのだ。

なかでも有名なのは、ハワイ州のワイアラエ・チャータースクールで、創造性と自由性の高い教育が注目されている。2005年から2010年まで同州の学力テストで高い成績を上げるなど、安全で質の高い学校教育を誇り、2009年にはハワイ州子供栄養局から優秀賞を受けている。

アメリカは教育の理念として「平等性と機会の均等」を謳いつつも、徹底的に能力重視である。「子供の成長(年齢)に合わせた教育」ではなく、「子供の能力に合わせた教育」ということだ。そして、結果の平等ではなく、機会の平等を目指しているがゆえに教育の自由性が高い。それが大学の競争力の元になっている。

日本が国際競争力を高めるためには

日本も、こうしたアメリカ型の教育に見習うべき点は見習い、能力重視の教育を取り入れることで世界的な競争力をさらに上げる余地がある。現在も、全国で数校の大学が17歳からの飛び入学を受け入れているが、この制度をもっと広げて、飛び級制度の導入、また大学の参入規制の緩和を行ってはどうだろうか。

教育の質を上げるには、競争が必要だ。教育制度の自由化が、国際競争力を伸ばすカギとなるだろう。

(HS政経塾 須藤有紀)

【関連記事】

2017年8月25日付本欄記事 「高等教育無償化の議論が具体化 飛び級で教育制度自体の見直しが先決」

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13441

2017年7月10日付本欄記事 「加計学園の問題の本質とは――民主主義における『官僚』『政治家』『規制』のあり方」

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13233