元陸自化学学校副校長
濱田 昌彦
プロフィール
(はまだ・まさひこ)1956年、山口県生まれ。80年に陸上自衛隊に入隊し、化学科職種で約30年間活躍した。著書に『最大の脅威CBRNに備えよ!』(イカロス出版)。
北朝鮮が3週連続でミサイルを発射し、日本人の大多数が「ありえない」と思っていた日本へのミサイル攻撃が「もしかしてあるかもしれない」に変わりつつある昨今。
全国の書店でこのほど発売された本誌7月号の特集「北ミサイルから家族を守る」では、陸自化学学校の副校長を務め、地下鉄サリン事件や福島第一原発事故にも対処してきた元自衛隊幹部の濱田昌彦氏にインタビューしました。
紙幅の関係で紹介し切れなかったインタビューのロングバージョンを、2回に分けて掲載します。今回は、その前編です。
◆ ◆ ◆
北の脅威は「核ミサイル」だけではない
――北朝鮮からの攻撃にはどのようなものが想定されるでしょうか。
濱田昌彦氏(以下、濱): 北朝鮮の脅威は、核ミサイルだけではありません。化学兵器を搭載したミサイルや、さらに工作員による「化学兵器テロ」なども考えられます。
北朝鮮の化学兵器について日本ではあまり報道されませんが、お隣の韓国は北朝鮮の化学兵器に強い危機感を持っています。韓国政府は国民に対して、一人当たり1個のガスマスクの保有を勧めています。金正男氏のVX暗殺事件以降、韓国国民のガスマスクへの関心が高まり、韓国内ではガスマスクは品切れ状態です。
基本的にこういう話題はお茶の間に上がるような話題ではないし、マスコミも触れないので、日本人はあまり知らないですよね。
しかし、朝鮮半島の情勢が緊迫する中、何が起こるか分かりません。アメリカは北朝鮮を攻撃しないという人もいますが、そんな保証はありません。
――アメリカによる軍事行動はあると見ますか。
濱: あると考えておくべきだと思います。あると考えて実際になかった場合には別に問題はありませんが、逆の場合は困ります。一部の日本の論調のように、「話し合いだけで結局軍事行動はないだろう」と考えて本当に攻撃があったら、取り返しがつきません。
アメリカが北朝鮮を攻撃するなら短期戦で勝負をつける
――アメリカが北朝鮮を攻撃するとすれば、どのようにしますか。
濱: アメリカの攻撃のやり方については、今までの戦争で大体予測できます。1991年の湾岸戦争は、それまでの世界大戦やベトナム戦争と比べてかなりスピードアップしました。2003年のイラク戦争になるともっと早くなりましたよね。
なので、長期戦ではなく短期戦で勝負をつけるはずです。現在の北朝鮮情勢を考えると、一瞬でカタをつけないとまずいという専門家もいます。
――なぜ早く終わらせる必要があるのでしょうか。
濱: 38度線の北側には、北朝鮮の砲兵部隊が配置してあります。当然ソウルまで届きますし化学兵器を載せることもできるので、一番の懸念材料です。
もしこれがアメリカの攻撃後に多少でも生き残れば、当然ソウルに向けて化学兵器が飛んでくるでしょう。とにかくこれを潰さなくてはならないので、MOAB(大規模爆風爆弾)を何発か落とす可能性もあります。アメリカとしても、韓国に在留しているアメリカ人への被害がないという状況にしなければ、北朝鮮への攻撃が始められないですよね。
しかし、38度線の砲兵を潰しても、北朝鮮の中心の方から化学兵器を搭載したミサイルがソウルに落ちることも考えられます。日本政府としても、在留邦人が化学兵器で攻撃された場合の除染を視野に入れておく必要があります。ただ、陸上自衛隊の専門部隊にそこまでの除染能力があるかというと、なかなか難しいです。
まず懸念すべきは工作員による化学兵器テロ
――アメリカが大規模な攻撃をした場合を考えて、日本はどのような想定をしておくべきでしょうか。
濱: まず考えるべきは、すでに日本に数多く潜入している北朝鮮の工作員が、化学兵器を使ってテロを起こす危険性です。
ある程度の資金力と原料調達力があって、ノウハウがあれば、化学兵器はつくれてしまいます。北朝鮮から密輸する可能性もありますし、リン化合物など原料の前段階のものであれば、外から持ってくることも難しくないでしょう。施設の中で生成することもあり得ます。
こういうことを防ぐために、化学兵器禁止条約の中に、産業査察というものがあるのですが、残念ながらこれもすり抜けることができてしまいます。
(後編へ続く)
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2017年4月30日付本欄 大川隆法総裁「トランプ氏は近く、大規模攻撃を行う」と予測 幸福実現党大会にて