元旦の社説には、その新聞の考え方や何を重要視しているかが表れるもの。本欄では2017年の元旦の読売、朝日、毎日、日経、産経の五紙の社説を概観したい。

書かれたテーマは大きく2つ。朝日と産経がおもに「憲法」について、読売、毎日、日経が「国際的な反グローバリズムの潮流」についてだった。

憲法について正反対の朝日と産経

まず、憲法について書いた朝日と産経を見てみよう。以下は各社説の概要。

朝日「憲法70年の年明けに 『立憲』の理念をより深く」

  • トランプ氏の米国をはじめ、幾多の波乱が予感され、大いなる心もとなさとともに年が明けた。各国を席巻するポピュリズムは、人々をあおり、社会に分断や亀裂をもたらしている。

  • 不穏な世界にあって、日本は今年5月、憲法施行70年を迎える。「立憲主義」という言葉の数年来の広がりぶりはめざましい。立憲主義は、時に民主主義ともぶつかる。独裁者が民主的に選ばれた例は、歴史上数多い。立憲主義は、その疑い深さによって民主主義の暴走への歯止めとなる。

  • 自民党は立憲主義を否定しないとしつつ、その改憲草案で「天賦人権」の全面的な見直しを試みている。立憲主義に対する真意を疑われても仕方あるまい。

  • 目をさらに広げると、世界は立憲主義を奉じる国家ばかりではない。立憲主義の理念を、揺らぎのままに沈めてしまうようなことがあってはならない。

産経「自ら日本の活路を開こう」

  • 安倍晋三首相が昨年末に取り組んだ日露首脳会談と真珠湾訪問には敗戦、戦後へのけじめをつけたいとの共通項があった。日本もそろそろ独自外交に舵を切ろう―という意気込みは感じ取れた。

  • (日本の)針路を定める最たるものとして、憲法を国民の手に取り戻す作業をまず挙げたい。敗戦と占領を経て国際社会に復帰するまでの日本に自由な選択肢はなかった。公布から70年、憲法は放置された。この間、自己決定という国家の本質を日本は不得手なものにしてしまったのではないか。

  • (日本が失うことができないものをどう守るかという課題が)天皇陛下が譲位のお考えを示されたことへの対応である。ご意向を踏まえつつ、皇統の安泰も視野に入れた見直しをどう行うか。日本人にしか解決できない。知恵の絞りどころだ。

  • 足踏みする景気の原因や責任を、世界経済の変調に求めてばかりいても、解決にはならない。ものづくりや自由貿易に成長の基盤を引き続き置くなら、魅力ある「日本」を探し直す努力がいる。

朝日の社説では、不思議なことに、憲法がほとんど神様のように扱われている。たしかに日本国憲法には、国民の基本的人権や自由を守ることなど、大切なことも書いてある。立憲主義が個別の法律の欠陥から国民を救ってくれることもあるだろう。しかし、その憲法も、人間がつくったもの。当然、欠陥はある。

その点、産経の社説が「憲法を国民の手に取り戻す」と書いているのには賛成できる。欠陥があっても、時代に合わせて自分たちの手で書き直し、よりよいものにしていってこそ、憲法は本来の役割を果たせる。自分の国を自分で守るという、普通の国家が普通にできることを、日本もできるようにすべきだ。

ただ、産経が安倍首相の日露首脳会談と真珠湾訪問を評価している点には疑問を感じざるをえない。日露首脳会談の成果はゼロに等しく、真珠湾訪問もアメリカ国民に「選ばれなかった」民主党のオバマ大統領との関係を深めただけであり、ほとんど意味がないからだ。

トランプ大統領就任は不安でいっぱい!?

続いて、おもに反グローバル化の潮流について書いている読売、毎日、日経を見てみよう。以下は各社説の概要。

読売「反グローバリズムの拡大防げ トランプ外交への対応が必要だ」

  • 保護主義を唱え、「米国第一」を掲げるドナルド・トランプ氏が20日に米大統領に就任する。既存の国際秩序の維持よりも、自国の利益を追求する「取引」に重きを置くのであれば、心配だ。

  • トランプ氏にも国務長官予定者にも、政治経験がない。軍出身者が並ぶ閣僚の布陣も、危うさがある。日米同盟による抑止力の強化が、東アジア地域の安定に不可欠で、米国の国益にも適うことを、(トランプ氏に)粘り強く説明していくべきだ。

  • 反グローバリズムとポピュリズムは、欧州でも、その勢いを増している。排外主義を煽るポピュリズムの拡大は、人や物の自由な移動を進めるグローバリズムの最大の障壁になりつつある。

  • 保護主義を強めれば、雇用や生産が復活し、自国民の生活が楽になると考えるのは、短絡的だ。経済資源を、国境を越えて効率的に活用するのが自由貿易だ。多国間での取り組みをさらに進め、新興国の活力や技術革新の成果を世界に広げることで、成長の復活を目指すしかない。それが国際政治の安定の基礎ともなろう。

毎日「歴史の転機 日本の針路は 世界とつながってこそ」

  • トランプ氏の勝利と、それに先立つ英国の欧州連合(EU)離脱決定は、ヒトやカネの自由な行き来に対する大衆の逆襲だ。グローバルな資本の論理と、民主主義の衝突と言い換えることもできるだろう。

  • 私たちが昨年目撃したのは国家の「偉大なる復権」をあおり立てるポピュリズム政治家の台頭だ。しかも彼らの主張は、国際協調の放棄や排外的ナショナリズムといった「毒素」を含んでいた。欧州の右派勢力も勢いづいている。

  • 所得分布が貧富の両極に分かれていくと、この一体感(民主主義の基礎となる社会の構成員としての一体感)が損なわれる。トランプ現象で見られたように、選挙が一時の鬱憤晴らしになれば、民主主義そのものの持続可能性が怪しくなっていく。

  • ささくれだった欧米の政情と比べれば、日本社会はまだ穏健さを保っている。持続が可能な国内システムの再構築に努めながら、臆することなく、世界とのつながりを求めよう。

日経「揺れる世界と日本(1) 自由主義の旗守り、活力取り戻せ」

  • トランプ次期米大統領が掲げるのは大減税、公共投資、規制緩和の「3本の矢」だ。世界的なデフレに幕を引くリフレーション政策だとはやす人々もいる。

  • 一方トランプ氏が掲げる政策には、自由主義経済を損ねる要素も数多く含まれている。米国が中国やメキシコと対立し、関税引き上げなどの保護貿易に動けば、金融・資本市場にショックが走るだろう。開放経済と民主主義のとりでであったEUも、相次ぐテロや移民問題などで揺らいでいる。

  • だからこそ、日本は自由主義の旗を掲げ続ける責務を負っている。

  • もうひとつ、日本が真剣に向き合わなければならないのは、加速するデジタル社会への対応だ。20世紀の生産性向上がブルーカラーの肉体労働の代替だったのに対し、これから本格化するのは人工知能(AI)によるホワイトカラーの頭脳労働の代替である。そうした第4次産業革命を担うのは、デジタルネーティブと呼ばれる、物心ついたときからデジタルに親しんできた若手人材だ。

共通して、ドナルド・トランプ氏の勝利を否定的にとらえており、これまでのグローバル化の流れとは反対方向へ世界が進んでいることへの不安感でいっぱいのようだ。

しかし、本欄で何度も述べてきた通り、トランプ氏はたんなるポピュリストではない。国際秩序を破壊しようとしているわけでもなければ、排外主義者でもない。そろそろ日本の新聞も、ヒラリー・クリントンびいきだったアメリカの大手マスコミの情報から離れたほうがいい。

トランプ氏の勝利とイギリスのEU離脱が示すように、すでに世界の潮流は、反グローバル化だ。ただしそれは世界の分断ではない。トランプ氏が訴えるのは、中国という違うルールを持つ国と公平な貿易はできないということであり、イギリス国民は自国のルールを決めるのはEUではなく自分たちだと示しただけだ。

不安がるのではなく、日本もこの潮流に追いつき、トランプ氏の進めるアメリカ繁栄プランの中で存在感を示して、世界の繁栄を担っていかなければならない。

(大塚紘子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『トランプ新大統領で世界はこう動く』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1767

【関連記事】

2017年1月1日付本欄 新年のご挨拶 「ザ・リバティ」編集長 "革命の果実"を得る年に

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12415

2016年12月27日付本欄 「グローバリズム」の弊害とは? 【大川隆法 2017年の鳥瞰図(9)】

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12401

2015年11月11日付本欄 ミャンマー総選挙 スー・チー氏が大統領になれない「立憲主義」の危うさ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10446