東南アジアの指導者が次々に変わっている――。
ベトナム・ハノイで開催中の第12回共産党全国大会により、「改革派」とされるグエン・タン・ズン現首相が、次期中央委員候補から除外され、正式に退任することが決まった。共産党トップには、「親中派」のグエン・フー・チョン書記長が再任の見通し。書記長就任が有力視されていたズン首相だが、権力闘争に敗れた形となった。
ズン氏は、改革派の一派とされ、ベトナム戦争で冷え込んでいたアメリカとの関係改善に着手。昨年10月、アメリカが長年禁じてきた武器輸出の一部解除を勝ち取ったり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を果たしたりした。南シナ海を勢力下に収めようとする中国に対しても、一歩も引くことはなかった。
「ズン書記長」の誕生は中国の悪夢
中国にとっては、"親米派"に見えるズン書記長の選出は何としても避けたい。新指導部の選出を前に外交戦を展開していた。
昨年11月、中国の習近平国家主席は、グエン・フー・チョン書記長との首脳会談を行い、南シナ海問題の対立回避で一致。両国関係の緩和に努めると、12月にはフン国会議長率いる代表団と会談し、友好関係をアピールしていた。
これらの会談を通じて、中国は、ズン書記長の誕生に懸念を伝えていたと言われる。
ラオスで「親中派」が更迭
しかし一方で、中国にとっては、小さくない敗北もあった。
「中国寄り」と評されるラオスでは今月22日、ラオス人民革命党の大会が閉幕し、新書記長にブンニャン・ウォラチット氏の就任が決まった。この党大会で、中国との貿易拡大に尽力した、党内序列8位の「親中派」、ソムサワット副首相が新指導部から外された。
中国側としては、強力なパイプ役を失った敗北と言える。
ソムサワット氏の更迭は、親中路線に一定の歯止めがかかると見られ、すかさず25日に、アメリカのケリー国務長官が、ラオスのトンシン首相と会談。同首相は、「(中国による)南シナ海の軍事拠点化を望まない」と発言している。
東南アジアをめぐって、米中が激しい駆け引きを展開している。中国包囲網を築きたい日本にとっても、中国に対する各国のスタンスを注視する必要がある。その意味で、ベトナムのズン氏敗北は手痛いものだ。
今後も、韓国では4月に総選挙が行われ、フィリピンでは5月に大統領選挙が行われる。「アジアの選挙の年」とも言える2016年は、国際政治が大きく動くだろう。
(山本慧)
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