米アリゾナ州で 8日、下院議員の対話集会で銃乱射事件があり、6人が死亡した。単独犯と見られるラフナー容疑者(22)は精神病の傾向が指摘され、中退した大学での奇行やインターネットへの不穏なVTRの投稿が明らかになっている。

しかしそうした実行犯の精神的な理由に加えて、ノーベル経済学者で米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニストでもあるポール・クルーグマン氏は、反対派の主張を消し去ろうとする「憎悪の空気( Climate of Hate)」が存在したことが今回の事件の遠因となったと10日の紙面で指摘している。同氏によれば、2008年の大統領選終盤から右翼系過激派の活動が活発になり、時に過激にもなる保守派の声はラジオなどマス・メディアを通じて拡散され、それに触発され誰かが一線を超えかねない空気を醸成していったのだという。

確かに、オバマ民主党の社会主義的な政策への保守派からの批判は、人種差別的な排他性を帯びて高まっていた。「憎悪の空気」とのクルーグマン氏の指摘は、変わりゆくアメリカ社会の現実を映し出しているといえる。

オバマ氏の社会主義的な政策への反発と人種差別的な感情とが合わさって、保守派の不満がまず爆発したのが昨年 3月に医療保険改革法案が成立する時であった。ワシントンでの法案反対集会に集まった人々のプラカードなどには「オバマをケニアに送り返せ」などの人種差別的な言葉が並び、民主党黒人議員に唾を吐きかける参加者もあった。当時、殺害予告などの脅迫を受けた、法案に賛成する民主党議員は少なくとも10人にのぼった。3月の時点ですでに「オバマ氏は社会主義者」といった批判が世論調査の40%にもなっていたが(ハリス調べ)、支持率の低下にともないオバマ批判が公然とされるようになるにつれ、反対派の声を抹消しようとする「憎悪の空気」が高まっていったのはクルーグマン氏の指摘の通りである。

「小さな政府」を求めるのはもっともな主張なのだが、それが過激になったり排他的な人種差別と結び付くと、今度の事件のような暴力につながりかねない。政治的な暴力は民主主義への脅威であることは言うまでもなく、再発のないことを望むばかりだが、移民の国・アメリカが難しい移行期にあることも事実である。今回の銃乱射事件は、多様な意見や背景を持つ人々の融和というアメリカの根幹にかかわる問題を、他でもない民主主義の大国につきつけている。

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