私たちの社会は、 さまざまな法律に基づいて動いている。
だが、中には時代に合わなくなったり、
何のためにつくられたのか分からず、
経済活動の足を引っ張っている法律も少なくない。
(2016年12月号記事を再掲)
さらばニッポンの
変な法律
ふざけてるの?真面目なの?
ナニコレ珍法律
有名な哲学者がこう言った。
「悪法もまた法なり」。
だが法律は、金科玉条のごとく、
変えてはならないものなのか。
なんて優しい警察官!?
子供が警察官の真似事でする敬礼。交番のお巡りさんに敬礼すると、お巡りさんも敬礼してくれる。なんて優しいんだ……と思いきや、実は「そうせよ」と決められているのである(警察礼式)。答礼はサービスではないというのは、子供に教えない方がいいかもしれない。
うどんと素麺の違いは〇〇
原材料が同じ、うどんと素麺。その違いは……? 実は、「うどんは直径1・7ミリ以上で、素麺は直径1・3ミリ未満」と定められている(乾めん類品質表示基準)。これに反すれば、回収などの行政処分が下る(食品表示法)。味よりも重要なのは、太さだった。
詳しくは本誌45ページへ
国会議員はみな法律違反!?
「それでよく総理が務まるなあ」「まず自分が子供を産まないとダメだぞ」。ニュースでは、国会でのヤジの応酬をしばしば目にする。だが、国会で下品なヤジを飛ばしたら、「国会法」に反する可能性があるのはあまり知られていない。日本で最も無秩序な場所は、国会かもしれない。
ビジネスホテルとラブホの違いは?
ビジネスホテルとラブホテルを区別するのは、煌びやかな外観……と思いきや、条例では、食堂の有無が、区別するポイントになっている(東京都旅館業法施行条例)。食堂があれば、ラブホテルとみなされず、風俗営業の対象外になるためだ。食堂の規定を満たせば、城のようなビジネスホテルや、旅館のようなラブホもあり得る。外見だけで判断してはいけない?
あ! お隣さんの郵便物が入ってる!
人はみな間違いを犯す。郵便配達員もそうだ。近所の家の配達物が自宅のポストに入っていて、届けてあげた経験は一度や二度はあるだろう。だが、郵便法によると、もし誤配達があった場合、郵便局にその旨を通知し、再配送してもらうのが正しいやり方だ。総務省は、「トラブルを避けるため」と説明する。
芸能人という職業は自称なのか?
「芸能人」という職業は、誰が決めているのだろう? 自分で名乗れば芸能人! と思いきや、芸能人の定義にも規制があった。所得税法施行令には、「芸能人は、映画若しくは演劇の俳優、音楽指揮者、漫才家」などと規定されている。芸能人の給料は、源泉徴収の対象であるためだ。芸能人かどうかが税法で決められているのは、夢がない気がしないでもない。
死亡届は人間だけじゃない
家族のように大切な存在である犬。しかし、いつか別れの時はやってくる。自宅の敷地に埋葬する人もいるだろう。だが、ご存じだろうか。犬が亡くなった後、30日以内に死亡届を役所に提出しなければ、罰則が科される(狂犬病予防法)。1957年以降、狂犬病の発生例はなく、猫にも感染するにもかかわらず、なぜか犬だけが対象だ。犬と猫との違いは、死亡届だった。そんな馬鹿な。
警察官には自衛隊並みの規制が……
海外の警察と比べると、日本の警察は容疑者逮捕に慎重な印象がある。その理由は、自衛隊並みにがんじがらめにされる規制があるためだ。「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる兇悪な罪」の疑いがなければ、武器の使用は、原則認められない(警察官職務執行法)。緊急時に、六法全書を確認している暇はない……。今後、警察官の発砲ニュースに触れたら、よほど危ない目に遭ったのだろうと想像してみよう。
規制をめぐる涙ものエピソード
増え続ける法律でみんな損してる!?
普段の生活では意識しないことだが、終戦直後100本ほどだった法律は、
現在では2000本近くまで増えている。
増え続けたルールは、時に「悪しき規制」となって私たちの前に立ちはだかる。
規制のパターン1
新しいチャレンジを邪魔
民間企業が新しいチャレンジをすると、それを邪魔するルールが生まれる。誰か困る人がいるのだろうか?
(1) 自分の土地なのに家が自由に建てられない?
北陸地方でIT企業を営むNさん夫妻は、夢だったホームオフィスを建てるため、土地を買おうとした。だが、「その土地に、新しい住宅は建てられません」と告げられる(都市計画法に基づいて指定される「市街化調整区域」のため)。とはいえ、すでに何軒かの住宅も建っており、納得がいかない。
今度は、隣町にある夫の両親の土地に建てようとしたが、「生活に密着した建物以外はダメ」という変なルール(都市計画法)に阻まれた。役所の解釈によれば、コンビニや美容院はOKで、会社のオフィスはNGらしい。
仕方なく、夫の実家の隣に建てようとしたが、またしても規制が立ちはだかる。その町の条例では、「家の敷地は60坪なければならない」と定められていた。実家の隣は、40坪の土地しか確保できない。結局、夫の実家をリフォームすることに。規制で疲れきった夫妻に追い討ちをかけるように、役所が告げた。
「ここは住宅地ですから、オフィスはダメですよ。会社の看板は出せません」
2人は、「自分の土地なのに、自由に家を建てられないなんて」とため息をつく。
(2) 今までにない高齢者向け住宅をつくったら……
地方都市で有料老人ホームなどを経営する女性社長は、介護制度のおかしさに疑問を抱く。
民間の介護系施設は法人税や固定資産税を払う必要があるが、社会福祉法人(注1)が運営する介護施設は税額が低く、多額の補助金が入る。価格設定の面で不利になるが、魅力的なサービスで利用者の支持を得てきた。
他にも理不尽なことはある。
「今は元気だが、急に倒れたら不安」という高齢者のため、介護士が見守る集合住宅をつくったところ、似たスタイルの施設が増えてきて、新たなルールがつくられてしまった。バリアフリー構造や、一定の広さの廊下などが求められるようになった。
一番痛かったのは、集合住宅に診療に来てくれる医師の報酬が、厚生労働省によって、突然4分の1に減らされたことだ。これでは医師は来てくれない。
税金を納めながら経営努力を重ねている民間企業を邪魔するなら、結局は国民が損をすることになる。
(注1)社会福祉事業を行う特別法人。
規制のパターン2
国民の仕事に口出し
必死に経営努力する民間企業に、役所が「アドバイス」をくれる。企業が倒産しても責任を取らないなら、自由にさせて!
(3) 「貸すな」の次は「貸せ」?
金融庁に翻弄される銀行
銀行をいじめる金融庁の様子を描いて話題を呼んだ、ドラマ「半沢直樹」。銀行の仕事に口を挟むのも、一種の規制と言える。
10年ほど前まで都市銀行に勤務し、3年間で9回の金融庁検査を経験した元銀行マンは、こう話す。
「融資先企業の将来性を説明しても、決算書上の数字だけで貸すべきでないと判断されたこともあります。こうした検査で多くの中小企業が倒産し、『金融庁倒産』などと呼ばれました。批判が出て、今は金融庁も基準を見直しています」
実際、現在の金融庁は貸し出しを増やすよう金融機関へ呼びかけている。今まで貸し出しを受けなかった中小企業の状況を自ら調べ、発展の可能性がある企業にお金を貸すよう、地方銀行に働きかける方針だという。だが、銀行にとって「余計なお世話」であることに変わりはない。
メガバンクに勤務する20代の銀行マンは、「方向性は理解できます。でも、貸したお金が戻ってこない場合、リスクを負うのは銀行ですよね……」とつぶやく。
(4) 政府の口出しで増える仕事
携帯電話業界にも規制の波は押し寄せている。
大手キャリアの携帯ショップで働く20代男性は、携帯電話業界の苦境をこう語る。
「政治家の方針を受けた総務省から『0円携帯は禁止』『もっと利用料を下げろ』と言われたりするので、その対応に追われています。減った利益を補うため、最近では、スマホとセットでコメや電気、ウォーターサーバーまで売っています」
もはや携帯ショップではない。
「おまけに、消費者を守るためということで、契約文書に関する決まりがいろいろ増えました。機種変更の手続きなら、以前は十数分で済んでいたのに、今では30分以上かかります」
政府は、月末金曜日は15時に帰る「プレミアムフライデー構想」や「残業ゼロ」を後押しするが、余計な仕事を増やす規制をなくすほうが先ではないか。
規制のパターン3
ゼロリスクが新たなリスクに
「消費者の安全」「環境保護」を名目にした規制は、商品の値上げや経営危機という新たなリスクを生みかねない。
(5) 建築技術の進歩に追いつかない法律
不動産会社を経営する60代の社長は、建築に関する規制に頭を悩ませる。建物の高さやトータルの床面積に制限があり、部屋数を増やすことができない。
諸外国と比べて規制の厳しさは際立っている。例えば、同じ面積の土地に、東京23区なら平均1・3階建ての建物しか建てられないが、米ニューヨーク・ミッドタウンなら14階建てのビルが建つ(注2)。東京の部屋が狭くて高いのは、この規制が一因だ。
なお、このルールが制定されたのは、耐震技術などが十分でなかった1970年ごろだ。社長は「技術は進歩したのに、法律はほとんど変わらない。民間の発展を止めています」と語る。
(注2)2002年の森ビルによる調査。建築基準法の改正に伴い、特例容積率適用区域制度が創設され、現在は商業地域の容積率上限の引き上げも進んでいる。
(6) 本当は誰のため? 細かすぎるラベル表示
すべての加工食品に、主な原産国表示を義務付ける方針について、政府が検討を始めた。
これに対し、大手食品メーカーの役員は「同じ原材料でも、販売戦略などによって輸入する国は変わり、すべてを記載することは不可能です。また、ルール変更によってラベルを張り替えるコストはメーカーが負担することになります」と憤る。
政府は、国産品の消費を促すためだと説明するが、前出の役員は、次のように分析する。
「義務化の本当の意図は、食の安全に力を入れているという政府のアピールでしょう。心ある企業はホームページなどで原産国をすべて公表しています。結局は、メーカーと消費者の信頼関係の問題です。ルールが複雑で細かくなれば、ちょっとした表示ミスであっても『意図的に隠した』などとマスコミに叩かれてしまうんです」
添加物やアレルギー表示などは別として、一律に細かい義務付けをすべきではないだろう。
(7) 各省庁の目標を押し付けられる企業
各省庁には、政治家のトップダウンによって「省エネ」や「環境保護」に関する目標がある。だが、目標を達成するために働くのは企業だ。
大手半導体メーカーの管理職は、「経済産業省が強制してくる、温室効果ガス削減は本当に厳しいです。日本の2030年度の目標は2013年比26%減です。今までもかなり省エネに貢献してきたのに、電気代アップも加わって、毎年苦労しています。機械のモーターを、省エネ効果の高いものに交換しようとしましたが、機械の改造も必要で4割もコストが増えます。2年かけて回収できるかどうか」と悲鳴を上げる。
大手電機メーカーの技術者も省庁からのプレッシャーに悩まされている。「商品の部品や原料となる化学材料の規制が厳しくなっています。環境保護のためと言いますが、危険性が明らかになっていないものもあります。もちろん、環境省は代わりの材料を探してはくれません」
省庁から丸投げされた目標を達成しても、企業には何の報酬もない。
経営者に代わって聞きました
規制を増やす省庁にクエスチョン!!
うどんと素麺の表記の違い。金融庁による民間への口出し―。どうにも納得がいかないので、役所に見解を尋ねた。まずは消費者庁から。
規制が増える理由
山本(以下、山) もしもし、私、山本と申します。うどんと素麺の違いを法律で規定していますが、それはなぜでしょうか?
担当者A(以下、A) やはり、表示がバラバラだと、消費者が困るので。
山 分かりづらいなら、消費者が買わなくなるだけでは?
A まぁ、そうですが、消費者の声がありまして。
山 昔の事例ですが、沖縄そばを"そば"と認定してもらうのに、約2年かかっています(注3)。規制により、今までの枠を超えた商品を開発しづらくなる恐れもあるのではないですか?
A ……。それは表記の基準の話ですか?
山 そうです。中身と表示が異なるのはあってはならないですが、表記の仕方を厳格にする必要性はあるのでしょうか?
A 消費者が選択するためには、一定の基準が必要ですよね。
山 他にも表記を規定する背景には、消費者の安全を確保する点もありますが、どこまでいったら安全と言えるんですか?
A 個々のケースによって異なるので、それも我々としては、一定の基準を設けるしかありません。
山 後から新しい商品ができますし、そもそも料理自体の線引きも曖昧じゃないですか。どんどん規制が増えていく気がするんですが?
A 現状に合わないなら、変えた方がいいとは思います。
山 そうですか。ちなみに、Aさんは、うどんか、素麺のどちらが好きですか?
A どちらかと言うと、うどんが好きですね(笑)。
どうやら、一部消費者の声によって、規制が増える構図がうかがえた。しかし本来は、企業が対応すれば済む問題ではないか。結局、納得はいかなかった。
"空気の規制"があった
次は、銀行業を監督する金融庁だ。同庁は最近、融資が増えない現状を問題視し、自ら融資先を見つけ、地方銀行などへの経営指導を強化すると報じられている。これについての見解はいかに。
山 金融庁が経営指導を強化するとの報道がありますが?
担当者B(以下、B) 若干、事実誤認があります。指導ではなく、あくまでも金融機関との対話によって、融資状況を改善するのが趣旨です。ですから金融庁が、どこそこへ融資をしなさいと判断するわけではありません。
山 金融庁は今、人口減少社会などを見据えて、地銀に対して、独自のビジネスモデルを構築せよと発信していますよね。これをやり過ぎると市場への介入と受け取られるのでは?
B いや、それは……。我々は規制する権限を持ってはいても、事業について言う立場にないので、なかなか難しいですね。あくまでも金融機関が判断すべきことです。
山 銀行に改革が必要であるとの認識は理解できますが、現場からすると、金融庁が出てくると、従わざるを得ないのでは?だって、銀行界は横並びの社会だと言われてますし。
B そこはまぁー(笑)。
山 金融庁の後押しを受けて事業を行った結果、万が一、潰れたら誰が責任をとるんですか?
B そこまでは、ちょっとなかなか……行政方針に関わる壮大な問いですよね(笑)。私の個人的なあれを超えて……。奇抜なことをやればいいかというと、それで潰れても問題ですしね。すみません、別の部署の方に尋ねてくだされば……。
金融庁が行う対話を通じた状況の改善は、銀行から見れば、圧力に他ならない。日本人の"空気"を利用した規制強化が存在するということか。
(注3)「生めん類の表示に関する公正競争規約」によると、「そばは、そば粉が30%以上使われているもの」などと規定されている。だが、沖縄そばは、そば粉を使用しない。
景気回復には1円も要らない
規制を緩和すれば、これだけいいことが起きる。 時にその効果は、財政出動を超える。
規制緩和の効果はバツグン
規制緩和の余地はまだまだある
- 介護サービスの価格自由化
- 株式会社による病院経営の自由化
- 株式会社による農業への参入要件の緩和
- 公立・私立学校の区別をなくし、設立を自由化
- テレビや携帯電話会社の電波オークションの採用
- 保育所の価格・参入の自由化
旅館業法を緩和
家に観光客を泊める
「民泊」が増え消費が伸びる
予算0円→経済効果10兆円
新経済連盟の試算。
建築基準法などを緩和
東京都内の特区で
投資・住居需要・商取引が増加
予算0円→経済効果10兆円
都内28カ所の特区で、建物の高さや、外国人を含む起業の手続きなどを緩和した場合の政府試算。
経済対策のコスパは低い場合も
低所得者への3万円のバラまきなどは予算を超える効果を見込みにくい
予算2.6兆円→GDP押し上げ2.5兆円
2015年に安倍政権が高齢低所得者に給付した定額給付金など(補正予算)。みずほ総合研究所が試算。
国民1人につき1万2千円をバラまいても、大きな効果は見込めない
予算2兆円→経済効果3.3兆円
2008年に麻生政権が給付した定額給付金。
経済効果は消費性向0.4として試算。
規制緩和の主な例
1円も使わずに国内総生産(GDP)を増やす方法。それが「規制緩和」である。
江戸時代には、鎖国や身分制などによって、貿易や職業選択の自由がなく、産業も農業中心だった。明治維新後は、こうした「規制」がなくなり、産業も多様化した。その結果、明治新政府成立後30年の間に、一人当たりGDPは1・6倍になった。思い切った規制緩和で自由の範囲を拡大すれば、現代ならGDPは数百兆円増える可能性もある。
法律が少ないほうが、自由な経済活動ができ、日本全体の発展につながる。にもかかわらず、六法全書の厚みは増すばかりだ。
なぜ法律は増える一方なのか。
(1)新規参入の規制
既存の組織や業界と関係の深い政治家たちが、自分たちに都合のよい法律をつくることがある。新しいチャレンジをする株式会社が、病院経営に参入できないことなどはその一例だ。
(2)過度な介入
時の政権が景気回復を焦ったり、国民にアピールしたりするため、「女性管理職の割合を増やせ」など、民間の仕事に口を出す。
(3)ゼロリスク至上主義
失敗を恐れすぎる日本人の悪い癖により、企業の不祥事や商品トラブルなどの問題が起きると、マスコミが一斉にバッシングを始める。世論もそれに流されて「お上」に解決を委ねる。
法律は自由を守るためにある
本来、法律とは「禁じられていること以外は自由にしてよい」という形で、自由の範囲を決めるものだ。法律が増えすぎると、自由の領域は狭まっていく。
既存のルールを絶対視せず、「この法律は環境や時代に合わなくなったり、国民の自由を奪ったりしていないか」という目を持ちたい。法律をなるべく少なくシンプルにすることが、景気を回復しGDPを増やす道だ。