ウクライナ戦争の長期化 実はアメリカに「台湾有事」の備えがない? (前編)【HSU河田成治氏寄稿】
2023.07.09
《本記事のポイント》
- 台湾への軍事支援の供給不足は危険水域に向かう?
- バイデン大統領も在庫不足を自覚
- 中国の研究者は全面戦争の結果をどう見るか?
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
台湾有事はいつ起こっても不思議ではない状況に入ってきました。
中国の侵攻を未然に抑止し、侵攻が始まっても、断固として阻止することが求められますが、アメリカは、ウクライナ戦争で手一杯で、台湾を防衛するために十分なリソースを割くことが出来るのか、懸念されます。
台湾への軍事支援の供給不足は危険水域に向かう?
昨年8月のペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発した中国は、台湾を封鎖する形で軍事演習を行い、台湾周辺海域にミサイルを撃ち込みました。
この演習を指揮した司令官が、中国共産党の中央軍事委員会の副主席に異例の抜擢で就任したことからも、台湾侵攻の際には台湾封鎖作戦が行われるのではないかと見られるようになっています。この作戦がとられると、台湾支援が非常に難しくなります。
ロシア―ウクライナ戦争では当初、軍事力で大きく勝るロシアが短期間でウクライナを圧倒するのではないかと考えられてきましたが、実際には長期戦となりウクライナが善戦しています。その背景に、アメリカを中心とする軍事兵器や弾薬の供与があることが決定的な要因になっています。
しかし四方を海で囲まれる台湾は、陸地でつながるウクライナより海空の封鎖がはるかに容易で、ウクライナのように継続して軍事物資の輸送を続けることは困難です。
そのため、台湾の防衛体制を事前に出来る限り高めることが求められています。しかしウクライナに資金と物資をつぎ込むアメリカが台湾支援をするのは、余力の点で厳しいものがあると言わざるを得ません。
アメリカはすでに在庫の限界近くまで、ウクライナに砲弾を供与しています。アメリカ国内で生産できる砲弾は月産1.4万発であるところ、ウクライナ軍は月に11万発程度を消費しており、1カ月かかって、わずかに4日分の砲弾しか生産できていません。
一方でクラスター弾(上空で弾薬を広範囲に撒き、点ではなく面を制圧するための弾頭)の米軍在庫は300万発近いといわれており、不足する砲弾にかわってクラスター弾の供与に踏み切ったものと思われます。
バイデン大統領も在庫不足を自覚
CNNのインタビューでバイデン大統領は、「ウクライナの弾薬は底を突きつつあり、我々も不足している」「恒久的にではないが、ウクライナ向けの砲弾を増産する間、移行期間を認めるというものだ」と述べました。
アメリカで砲弾の在庫が不足する中、それを台湾へ供与することが難しくなっています。そのため、アメリカが砲弾の増産に必要な火薬を日本企業から調達することになっており、米軍の在庫を確保するというかたちで、ウクライナへの殺傷兵器の間接的支援に、日本も関わることにもなりました。
ちなみに、人道的および財政支援を含めたウクライナ支援の総額では、日本はアメリカ、EU、イギリスに続いて4位の水準に達しています。
中国の研究者は全面戦争の結果をどう見るか?
6月28日付の中国メディア「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は、中国軍の研究者による中国軍とアメリカ軍との総力戦をシミュレーションした論文を紹介しています。
上記の論文は、中国の研究誌『中国船舶研究』(Chinese Journal of Ship Research)に発表されたものですが、中国軍は、米中の軍事衝突のリスクが過去数十年で最高になっていると認識しています。
中国軍はこれまで、地域的な戦争に焦点を当ててシミュレーションを行ってきたようですが、現在は「全面戦争」のシナリオも想定するようになっていると言われています。
シミュレーションを行ったプロジェクトチームは、「地域紛争が全面戦争へとエスカレートする」と述べていますが、論文のシナリオも台湾を巡っての地域戦争が、アメリカおよび同盟国(日本など)を交えた全面戦争に発展するケースを想定したものであることは明らかです。
論文はコンピュータを用いたシミュレーションで中国海軍と米海軍の戦闘を検討しており、米海軍から総攻撃を受けたと仮定しています。中国海軍には現在50隻近くの駆逐艦がありますが、シミュレーションによれば、それぞれが11発以上のミサイルと3発以上の魚雷で攻撃されたようです。
これらの兵器が多方面からやってきたため艦船を守るのは困難で、かつ米軍は中国軍艦が通信に使用する信号の30倍以上強い妨害ノイズを発生させたため、中国のレーダーの探知範囲は、通常の距離の60%以下にまで低下したと述べています。
その結果、艦隊の防空能力は3分の2に低下し、米軍のミサイルの半数を防ぐことが出来なかったと結論しています。
このウォーゲームの結果を独自に評価した中国の海軍専門家は、この数値は「現実的」だと評価しました。
「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙は、中国政府のほとんどの高官が、中国は冷静であるべきで、アメリカとの「殲滅戦争」に巻き込まれるべきではないと考えていることを引用しながら、「もし中米間で戦争が起こったら、アメリカはほぼ間違いなく台湾に介入し全面戦争に発展するが、そのようなシナリオでは中国に勝ち目はない」という主張を展開していました。
(後編に続く)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。
【関連書籍】
いずれも大川隆法著、幸福の科学出版
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