自民、公明両党は、消費税率を低く抑える「軽減税率」の与党税制協議会の第2回会合を3カ月ぶりに開き、具体的な検討を始めた。
与党税制協は前回の会合で、軽減税率の導入に向け、課題を整理した資料の作成を財務省に指示。それを受けて財務省は今回、食品表示法などに基づき、「酒を除く飲食料品」「生鮮食品」「精米」の3案を例に、軽減税率の対象にすべき具体的な品目を示した試案を提出した。
軽減税率とは、食料品をはじめとする生活必需品などに対し、通常の税率より低く設定された税率のこと。低所得者の税負担を減らすことを主な目的としている。生活必需品の出費額は、高所得者であろうと低所得者であろうと大きく変わらないが、家計に占める生活必需品の割合は低所得者ほど大きいと考えられているからだ。
税負担が減る点で、一見優れた税制のように見られるが、軽減税率には問題がある。
「ぜいたく品は悪」という刷り込み
まず、生活必需品と「ぜいたく品」をどう区別するのか。
アベノミクスによる景気回復の実感を得られない家庭が多い中、家計の負担を減らすためにも軽減税率は必要だという意見はあるだろう。ただ、「ぜいたく品」を購入すれば高い税率をかけられる軽減税率は、その根底に「ぜいたくは悪」という発想があるのではないだろうか。
軽減税率を導入することによって「ぜいたくは悪」という発想が国民に刷り込まれてしまえば、どうなるか。
今の文明を支えているカラーテレビやクーラー、自動車(新・三種の神器)などは、今でこそ生活必需品と言えるが、家庭に登場し始めた当時はぜいたく品で、国民全員が買えるものではなかった。もし、こうしたぜいたく品を安易に否定するような考えが国中に広まれば、新しい発明や製品が生まれにくくなり、これからの経済発展は期待できなくなるだろう。
軽減税率の対象範囲の線引きは混乱を生む
また、今回の試案で示された軽減税率対象の品目を見てみると、違和感を抱かざるをえない。
試案では、製造過程で味が変わったり、複数の生鮮食品が混ぜ合わさったりしたものは加工食品として扱われ、軽減税率の対象にならないという。
生鮮食品に関して具体的に言えば、牛や豚の「ひき肉」や「カットレタス」、「1種類の魚の刺し身」などは軽減税率の対象となっても、「合いびき肉」や「ミックスサラダ」、「複数種類の刺し身の盛り合わせ」は対象外となる。こうした生鮮食品と加工食品の線引きは複雑ではないか。
複雑な税制は、小売業界に多大な導入コストの負担を強いることになり、消費者には買い控えを促しかねない。
実際、スーパーマーケットなどのチェーンストアの業界団体である日本チェーンストア協会は15日、「対象範囲の線引きが非合理的で、きわめて不明確にならざるを得ず、結果として新たな不公平と混乱を生む」などと、軽減税率の導入に対して改めて反対を表明している。
軽減税率の対象範囲の線引きには、消費者を納得させるほどの合理性があるとは言えない。
軽減税率が新たな天下り先をつくる
さらに、財務省が軽減税率を決める権限を用いて、ある品目を生活必需品と認定するようになるなど、特定の企業と癒着する可能性も考えられる。財務省の権限が大きくなり、軽減税率が財務官僚の新たな天下り先をつくってしまえば、民主主義の堕落を生んでしまう。
今やるべきことは軽減税率の導入で消費税の負担を減らすことではなく、「小さな政府」の下、消費税そのものを減税し、民間に自由にお金を使ってもらうことだ。消費減税で経済全体が活性化してこそ、国の税収は増え、低所得者の財政的負担も減っていくのだ。(冨)
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2014年5月号記事 釈量子の志士奮迅 [第21回]