特殊作戦群が所属する千葉県の陸上自衛隊習志野駐屯地。(wikipedia)

イスラム国による邦人人質事件について、安倍晋三首相は25日のNHK番組「日曜討論」内で、「この(テロ事件の)ように海外で邦人が危害にあったとき、自衛隊が救出できるための法整備をしっかりする」と述べ、今国会で議論する意思を強調した。

この発言について、日刊ゲンダイは「今回のテロ事件を安全保障や集団的自衛権の法改正問題と結び付けて"政治利用"しようとしているから許し難い」と評論(26日付電子版)。同ニュースに触れたネットユーザーの間からは、「安倍首相が辞めれば事件は収まる」「安保法制を変えたい安倍首相が仕組んだ」などと批判的な意見が出ている。

しかし、安倍首相の発言は、今後人質事件を起こさせないという危機管理の面から言えば、真っ当なものだ。自衛隊の動きを縛る現在の法体系は、テロや海賊行為が横行する国際情勢には適応できず、派遣された隊員の命すらも危険にさらしてしまう。

自衛隊の特殊部隊は宝の持ち腐れ

また、左翼陣営が懸念する自衛隊の中東派兵も、現状では可能性はない。実際、自衛隊トップの河野克俊統合幕僚長は22日の会見で、派遣の可能性を否定した上で、「現時点でわれわれがやっているのは情報収集オンリーだ」と語っている。

もし、中東派兵が現実化するのであれば、2001年の「アメリカ同時多発テロ」の発生などを受けて発足した自衛隊の特殊部隊「特殊作戦群」が、その派遣候補になるだろう。同部隊はアメリカのグリーンベレーなどをモデルとし、他国における偵察などを含む特殊作戦に従事することを想定している。しかし現在も、同部隊が中東に向かったという情報は流れていない。

今回の事件では、イスラム国に拘束される可能性を認識した上で現地に入った邦人が拉致された事件であるため、彼らに責任があることは言うまでもない。だが、国民の命を守る自衛隊が何もできないのは問題だ。

"小切手外交"を続ける日本

軍事力が背景にない日本外交は、身代金を出すか、人質交換をするかしかなく、交渉カードは少ない。安倍首相が発表した200億円規模の中東支援も、昨年秋から分かっていた人質事件解決の協力に向けた関係国への取引という思惑も見え隠れする。しかしこの対応は、これまでも国際社会から批判され続けてきた資金協力を中心とする「小切手外交」と同じだ。

「人命第一」「テロに屈しない」という安倍首相のメッセージは、論理的に矛盾しており、「自衛隊は軍隊にあらず」などを含めて日本国内でしか通用しない。こうした論理を国際社会で主張すべきではない。(山本慧)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『ムハンマドよ、パリは燃えているか。―表現の自由VS.イスラム的信仰―』 大川隆法著

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