2010年8月号記事
理性主義の限界
EU崩壊が始まった?
自由な経済活動こそが国家を繁栄させる
小国ギリシャの財政危機がEU経済を激しく揺さぶっている。ドルに代わる新たな基軸通貨になることを期待されていたユーロの威信は地に落ち、様々な矛盾を抱えるEUの実態が明らかになってきた。「超国家」EUの失敗をつぶさに見れば、自由主義経済のあるべき姿が、そして日本の歩むべき道が見えてくる。
(編集部・近藤雅之)
ギリシャの財政危機
「ギリシャ政府の統計は信頼できない」
欧州委員会は2月、ギリシャ政府による財政赤字の粉飾問題を受けて異例の批判を行った。
騒動の発端は、昨年10月に政権交代したギリシャのパパンドレウ首相が、当初GDP比3・7%としていた同国の財政赤字を12・7%にまで大幅修正したことにある。
これまでEU、特にユーロ加盟国は厳しい財政規律を守っているとされ、世界中の投資家から高い信頼を得ていた。ところが、そのユーロ圏で大幅な粉飾が発覚したため、市場には大きな動揺が広がったのだ。
アメリカのS&Pなど、複数の国債格付け会社がギリシャ国債の評価を引き下げると、信用を失ったギリシャでは株価が急落。ポルトガルやスペインなど、他の加盟国の財政状況まで不安視され始めた。さらに、ギリシャに多額の融資をしているドイツやフランスなどが、ギリシャ危機によって不良債権を抱え込むのではないかとの見方が広がり、世界中でユーロが売り払われる事態に発展した。2月には、ほぼ4年ぶりの安値となる1ユーロ=1・23ドルに急落。ニューヨーク株価は1万ドルを、東京株価も1万円を割り込んだ。
「EU発の世界同時不況が起こるのではないか」
そんな不安を払拭するため、ユーロ圏とIMF(国際通貨基金)は5月、ギリシャに最大1100億ユーロ(約14兆円)の緊急支援を行うことを決定。これによってユーロ通貨は事実上、IMFの管理下に置かれることになり、第2の基軸通貨としての信用は大きく傷ついた。
その後いったんは持ち直すかに見られたユーロだったが、6月にハンガリー政府与党幹部が「わが国の財政にもギリシャ同様の粉飾があった」と発言したことで不安が広がり、再び急落。「これほど乱高下すると、もはやユーロ決済そのものが成り立たない」(6月8日産経新聞)という声が東京外国為替市場で上がるほどに、今やユーロの信用は地に落ちてしまった。
EUは崩壊に向かうか
EUは1993年の発足以来、世界中の投資家や経済学者、政治家などから大きな期待を集めてきた。特に、99年に欧州統一通貨ユーロが導入されてからは、「ユーロがドルに代わる世界の基軸通貨になる」「国境なき経済圏が世界を牽引する」「21世紀は超国家EUの時代だ」などと手放しでもてはやされてきた。
しかし、今回のギリシャ財政危機と、それに振り回されるユーロ圏の姿を見て評価は一変。「ヨーロッパの夢の終わり」(5月18日付フィナンシャル・タイムズ紙)や、「ユーロの罠」(4月30日付ニューヨーク・タイムズ紙)など、多くのメディアがユーロ危機を激しく非難した。
「私たち懐疑派が経済通貨統合の最大の欠陥として取り上げたのは、EU諸国の通貨を統一しただけで、各国の財政政策はバラバラのままで放置するという仕組みだ」(ニューズウィーク誌5月19日号)。
このように、ユーロが抱える問題点として「統合の不完全さ」を挙げるメディアは多い。日本の大手新聞や経済誌でも、ユーロ圏には一刻も早い財政統合が必要だという論調が圧倒的だ。
だが、さらなる統合を進めることは、本当にEUを再建することにつながるのだろうか。
幸福の科学グループ創始者・大川隆法総裁は、すでに92年の講演会においてこう指摘している。
「いま統合に向かっているEC(EUの前身=編集部注)は、大きな破局を迎えるはずです。(中略)どのような形をつくっても、これはやがて崩壊します。国が集まれば強くなると思って、問題のある国どうしが欲得で集まっているのですが、強い国が集まれば強くなりますけれども、ガタガタの国どうしが集まって強くなることなど絶対にありません。これはお互いの病気が感染しあうだけです」(注)
EUにおける財政政策の統合は、安定した経済成長ではなく、むしろ一層の混乱を呼び込むことになるだろう。
なぜEUは崩壊してしまうのか。その理由として、大きく次の3つを上げることができる。
(注)大川隆法著『理想国家日本の条件』(幸福の科学出版)第3章所収。
EUが崩壊する3つの理由(1) ドイツ一国頼みの弱者連合
ユーロの信頼を支えるのはドイツの経済力
欧州では93年から単一市場がつくられ、関税や出入国審査が廃止された。これによってヒト、モノ、カネ、サービスが国境を越えて自由に行き来できる自由な経済圏が実現した。ただ、ユーロ圏の経済が順調だった背景として見落としてはならない点は、各国が資金を容易に調達できるようになっていたことである。
最も象徴的な例として挙げられるのが、各国の国債利回りの変化だ。国債利回りには、その国の経済力や財政に対する信頼感が反映される。ユーロ導入以前は、欧州一の経済国ドイツとその他の国では、利回りに、大きいところで10%近くも開きがあった。しかしユーロ導入後、各国の利回りは、見事にドイツと同じ低い水準へと収斂していった(上グラフ参照)。
まさにユーロ加盟国への信頼とは、ドイツ経済への信頼にほかならなかったのだ。ギリシャの金融機関では2004年以降、ユーロ圏から調達する資金が単年で10倍以上に膨れ上がるなど、ユーロ建てによる低金利の恩恵を受ける国は多い。
ドイツのチュービンゲン大学のヨアキム・スターバティー教授はこう指摘する。
「ユーロ圏での自由競争が、加盟国すべてにとって近代化政策となり、それによって国際競争力を得られるだろうと思われていました。ところが、実際はまるで逆のことが起こりました。ユーロ圏南部の国々は低金利をいいことに、官民問わず過剰な支出をし、賃上げを行った結果、支払い能力も国際競争力も失ってしまったのです。今回のギリシャへの救済策も、国際競争力の欠如という問題を解消することはできません」
つまり、この10年間のユーロ経済の好調は、ドイツの威光を受けて、加盟国が借金依存型の消費をしていたことによるものなのだ。
弱小国の財政を
背負わされるドイツ
そもそも経済統一を目指すにしては、ユーロ加盟国の間にはGDPの規模に大きな開きがある。
問題となったギリシャのGDPは、実は神奈川県と同じぐらいの規模しかない(表参照)。ギリシャに続く財政危機が予想されるポルトガルのGDPは埼玉県とほぼ同じだ。さらに、ユーロ加盟国16カ国のうち、実に11カ国のGDPが50兆円以下、そのうち5カ国に至っては10兆円にも満たない規模だ。
また、輸出額においても、ギリシャやポルトガルはドイツの約20分の1以下に過ぎず、ギリシャのGDPの約2割は観光業が占めている。
「ユーロ圏はすでに、競争力のある国と過剰債務国という2つのグループに分かれており、ユーロは一枚岩だという幻想こそが経済的な困難の原因を生んでいるのだ」(3月29日付ニューヨークタイムズ紙)
やはり、競争力のある自立した国同士が連合しなければ、対等に協力し合う関係ではなく、弱者が強者に一方的に依存する関係に陥ってしまう。
実際、財政危機の可能性が高いとされるPIIGS諸国(注)の国債は、ドイツやフランスの銀行と投資家が大量に引き受けている。どこか一国でも財政危機に陥れば、ドイツやフランスも道連れとなり、多額の借金を肩代わりすることになる。
結局、ユーロ圏の経済は、順調時はドイツの威光で過大評価され、不調時は弱小国の財政不安がユーロ全体を震え上がらせるという、まさに病気が感染りあう構造だと言える。
前出のスターバティー教授はこう言う。
「ギリシャの救済策により、ユーロ圏は資産移転と負債の共同体に変わっていくでしょう。すでに救済策についての議論から、加盟国間で敵対意識が生まれています」
統合によって国際競争力が高まるはずが、現実は、多額の負債を抱える国に対して、豊かな国がその富を再配分する状況になっている。今回のギリシャ支援で最大の出資国となったドイツでは、「まるで戦後賠償をさせられているようなものだ」というEU批判が出ている。だが、他国の財政赤字をいくつも背負い続けられる国家などありはしない。EUからのドイツ離脱説すら出始めており、下手をすればヨーロッパは第二次世界大戦前の混乱に逆戻りしかねない。
EUが崩壊する3つの理由(2) 「大きな政府」の破綻
放漫な各国の財政
EU崩壊の原因の2つ目は、ヨーロッパで戦後続いてきた「大きな政府」を目指す政策に限界が来ていることだ。
大きな政府は社会保障を充実させ、国民生活の面倒を見ようとしてきたが、ニューズウィーク誌5月19日号は、社会保障について以下のように指摘している。
「(戦後)イギリスの国力は低下し、金本位制は政府にとって過大な重荷になり、政府債務は返済不能な水準にまで膨らんでいた(中略)。今日の世界で当時の金本位制に相当するのは、社会保障だ。先進国は社会の高齢化が進むなか、税収基盤で支えきれないほど手厚い社会保障を国民に約束している。その結果、政府の債務が膨らみ続けている」
今回財政危機に陥ったギリシャも、かねてから社会保障費の増大による放漫財政が指摘されてきた。
加盟国の財政赤字は通貨の信用にかかわるため、EUはユーロへの加盟条件として厳しい基準を設けている。財政赤字はGDP比3%以内、累積政府債務はGDPの60%以内とされているが、今では有名無実の規定となっており、ほとんどの加盟国が違反している状態だ。ギリシャに至っては、01年に加盟した時に、実は財政赤字が基準の3%を超えていたことが、04年になって発覚していた。
財政再建は可能か
今回の財政危機を受けて、就労人口の2~3割を占めると言われる公務員の多さや、休暇や年金の超優遇など、ギリシャの高福祉政策に批判が集まり、支援を受ける代わりに、緊縮財政に取り組まざるを得なくなった。
公務員ボーナスの大幅削減や、日本の消費税にあたる付加価値税の2~3%の引き上げ、年金受給年齢の引き上げ、国営企業の民営化などで、2014年までに財政赤字をGDP比3%以内に抑える計画だ。
しかし、急激な緊縮策は反発を呼び、約50万人が参加するゼネストが決行され、首都アテネでは抗議デモが行われた。こうした中で、政府は本当に緊縮策を実施できるかどうかを疑問視する声も多い。
ギリシャ在住の日本人経営者(54歳)は、「ギリシャでデモを行っているのはあくまで一部の人たちです。ギリシャ国民の多くは、今回の事態を重く受け止めています。私の知り合いなども、年金の受給年齢の引き上げは正直困るけれども、この緊縮財政は受け入れざるを得ないと言っています」と話す。
ギリシャ危機を受け、ポルトガルが付加価値税の引き上げや公務員給与の削減を発表するなど、他の加盟国も財政再建に乗り出している。
だが、緊縮財政は逆に国民の消費を妨げ、企業の業績悪化や失業率の上昇など、さらに景気を低迷させるのではないかと懸念されている。
いずれにしても、「大きな政府」を目指してきたヨーロッパ各国は、今後、次々とギリシャのような状況に陥ることが予想される。
言うまでもなく、そうした福祉国家を多く抱えるEUは、相次ぐ救済措置に追われ、非常に困難な運営を強いられることになるだろう。
EUが崩壊する3つの理由(3) 理性主義の限界
EUに流れる理性主義
EU崩壊の原因の3つ目は、EU統合の背後にある理性主義そのものの限界である。
理性主義による計画経済を批判したノーベル経済学者のハイエク(1899~1992)は、ユーロ発行に先立つこと20年以上前に、著書『貨幣発行自由化論』のなかで統一通貨とそれを担う国際機関の問題点をこう指摘している。
「ヨーロッパ通貨は、あらゆる貨幣悪の根源となっている、政府による貨幣の発行と管理の独占ということを、より強固に定着させるという効果を結局のところもつだけにすぎないであろう(中略)。国際機関のもつ利点というのは主として加盟国を他国の有害な措置から守ることにあるべきであり、加盟国に他国の暴挙に従うことを強制することにあるのではない」
フランス革命以降、ヨーロッパでは理性主義の傾向が強くなり、経済活動も理性の力でコントロールできるという考え方が根強い。それはEU統合にも大きな影響を与えている。
EUの原点はECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)にまでさかのぼるが、それを1950年に発案したのがフランス政府の外相ロベール・シューマンと企画担当のジャン・モネである。それは、「ヨーロッパに平和と繁栄を実現させるために、国家の主権を部分的にしばり、それを超国家機構である共同体に委譲する」という構想だった。
モネは当時の演説の中で、「ドイツ、フランス両国の不可欠な国益は、ドイツのものでもフランスのものでもない。ヨーロッパ当局の管理のもとにあります(中略)。加盟国が共同体の超国家的な性格を尊重し、共同体当局の職務遂行においてその影響力を行使しないという誓約を留意します」と語っている。
この思想は次第に具体化されていき、EU発足となった91年のマーストリヒト条約では、単一通貨の発行、外交・安全保障政策の統一、ヨーロッパ市民権の考え方などが盛り込まれるまでになった。
理性は決して万能ではない
長い年月をかけて進められてきたEU統合。しかし、言語や文化、経済規模などがまるで異なる27もの国々を統合することは、決して社会の進化や国民の幸福につながらないことが明らかになってきた。
伝統の象徴ともいえる自国通貨を放棄させてまで導入したユーロだったが、その流通量や金利をヨーロッパ中央銀行(ECB)が一元管理した結果は悲惨なものだ。
「ユーロの導入によって、どの加盟国にとっても適正とはなり得ない単一金利と為替レートのもと、多様な国々が共存せざるを得なくなった。そして、単一通貨と独立した国家財政を組み合わせることで、放漫財政を助長してしまったのだ」(2月17日付フィナンシャル・タイムズ紙)と指摘されるように、どの加盟国にとっても“扱いづらい通貨”になってしまった。しかも金融政策をECBが管理しているため、ギリシャは今回、通貨切り下げなどを行うことができなかった。自国の経済が破綻の危機にあるというのに、政府が手出しできないのは致命的な欠陥だ。
さらに各国の財政政策を統一する動きもあるが、ライン川の運河建設など、すでに加盟国の間で公共事業の利害をめぐった衝突が起きている。財政の統一は各国の財布の中身を一つに混ぜるようなものであり、自国の税金がどこの国に流れるか分からない。すべての加盟国が納得する事業計画を、欧州委員会がつくるとでも言うのだろうか。
今回のギリシャ救済策でさえ反発は強かった。
ドイツのデュッセルドルフでターミナルケアに従事するトニー・シュスターさん(47歳)は、「ギリシャは加盟時にも詐欺行為を働き、赤字を偽装しました。また、ギリシャでは脱税も蔓延しています。彼らに反省を促すためにも支援はすべきではないと思います」と話す。
世論調査でも、ドイツとオランダではギリシャに批判的な意見が多数を占めている。こうした国民感情を考えれば、これ以上の統合にはかなりの強制力が必要になるのは明らかだ。
やはり、一部の人間が様々な国の政治、経済をデザインし、コントロールできるという理性主義にこそ大きな欠陥があると言わざるを得ない。国際化し、多様化する社会において、そのすべてを一元的に管理する基準や原理などつくり出せるはずがないのだ。
社会主義に帰結するEU
EUは将来的に、「ヨーロッパ合衆国」という統一国家の建設を目指すつもりかもしれないが、理性によって国家をつくることはできない。
本誌連載の地政学者・奥山真司氏も指摘しているように、国家にはレジティマシー(正当性)が必要であり、それを生み出すのは「神話」や「英雄」に相当する存在だ。現在のEUには、まさにこれが欠けている。加盟を希望してきた国のほとんどが、経済的な利益を目当てにしていたことは誰の目にも明らかである。国家は経済のみで成り立つものではないのだ。
これまで見てきたように、EU統合は実際には、「富の再配分」や「自由な経済活動の否定」へと向かっており、その姿は社会主義経済そのものである。旧ソビエト連邦ですでに実証済みの「敗れた経済」を繰り返しているようなもので、同じ結末に至る可能性は高いだろう。
困難なEUの構造改革
イティネラ研究所ディレクター
マーク・デヴォスMarc DeVos
【マーク・デヴォス】法学博士。ベルギーのシンクタンク、イティネラ研究所ディレクター。ヘント大学、ブリュッセル大学(ともにベルギー)教授。EUとベルギーの雇用問題を専門とするほか、EU統合や福祉制度についても幅広く論じる。主要近著は『メルトダウンの後で』『EUの市場と労働法』(いずれも未邦訳)など。
ユーロの構造的欠陥は、加盟国の財政規律について定めた「マーストリヒト基準」が、政策、報告、監督のいずれにおいても遵守されなかったことです。つまり、ユーロの安定は各国の合意に委ねられていたので、ひとたびその合意が霧散すれば、あとは危機が起きるのを待つだけの状態になるわけです。
さらに、2000年に採択された「リスボン戦略」は、加盟各国に生産力や競争力、雇用の創出などを促す改革プランを採択するよう誘導するはずでした。しかし、これもまた失敗したため、一部の脆弱な加盟国が抱える資金繰りの問題は、根本的な支払い能力の危機へと発展しました。
今後数カ月の間に何が起こるかにかかっていますが、もし、ヨーロッパ経済の「二番底」が現実のものとなれば、次の救済をする余裕はなく、ギリシャの債務繰り延べやそれ以上のことが起きるかもしれません。
今必要なのは、より厳格な基準と監督、制裁手段を設けること、そして国レベルでの負債削減と、さらなる経済成長を目指す構造改革を行うことです。しかし、EU各国がこれらを行う結束力を示すことはできないでしょう。後に残るものは、国際的な人気を失った統一通貨と、成長の見込みが落ちたヨーロッパ大陸のみとなる可能性が、一番高いでしょう。 (談)
ユーロの信用が落ち込む中、
円の存在感が増してきている。
最近の円高は単にユーロからの逃げ場として選択されているだけではなく、日本経済への見直しによるものだという見方が広がっている。
なぜなら、日本政府の累積債務はGDP比で約180%に達しており、財政危機の陥ったギリシャの133%を大きく上回っている。本来ならユーロ同様、円も急落するはずだが、逆に円高が進んでいる。実は市場は、「ギリシャの次は日本だ」と危機を煽るマスコミ報道とは裏腹に、円を高く評価しているのだ。
本誌は以前より、日本の財政は一般的な評価よりも、実際は安定していることを指摘してきた。その根拠としては、日本国債は他国と違って、ほとんどが国内で買われており、対外債務が非常に少ないこと。また、1400兆円にも上る国民資産があること。そして、政府債務約900兆円のうち、実は資産にあたるものが600兆円ほどあることを根拠に挙げてきた。
「日経ヴェリタス」118号でも、「もしかして、円の時代? ユーロ混迷が生む新・安全神話」という記事が掲載されるなど、円の再評価が始まっている。
日本経済はまだまだ強い。積極的な投資を行い、新たな基幹産業を生み出す努力をしていけば、円はドルに換わる基軸通貨になる可能性が十分あるのだ。
各国が自助の精神に基づいて
自由な経済活動を
EUの先行きは厳しいが、日本の菅政権が掲げる政策は、そのEUに追随するかのようなものばかりだ。
「強い経済、強い財政、強い社会保障」を掲げ、前政権が進めた「子ども手当」や「高校無償化」などのバラマキ政策に、さらなる社会保障を上乗せする方針だ。経営ノウハウが十分ではなく、赤字が続いている医療や介護への投資は放漫財政を助長するだろう。破綻が確実な高福祉国家への道を突き進む政策である。
また、東アジア共同体構想は、まさに「アジア版EU」そのものだ。経済的なイニシアチブを期待されるのは日本であり、ドイツの二の舞となるのは間違いない。ヨーロッパに比べればアジアはまだまだ貧しく、日本が担う富の再配分はドイツ以上になることは必至だ。日本経済の急激な衰退は避けられないだろう。
しかし、ユーロ圏が新たな世界不況の震源地になりかねない今、日本経済が沈没すれば、世界は大混乱に陥る。日本は決して政策の舵取りを誤ってはならない。
日本はむしろ、新たな分野に積極的に投資することで、高付加価値の産業を創造し、世界の経済発展を牽引していくべきだ。
そのためには、社会保障に頼ろうとする風潮と決別し、各人が企業家精神を発揮して、それぞれの持ち場で創意工夫を重ねる努力が必要だ。
自由主義社会においては、可能な限り規制を少なくし、各人の智恵や才覚を最大に発揮することによって、経済は花開くのだ。