Photo & Text by Teru Iwasaki
2010年12月号記事
作家・司馬遼太郎は、親しみを込めて男性を「老台北」と呼んだ。
世界各地を旅して書かれた短編紀行文集『街道をゆく』の40番目、「台湾紀行」の中で、「老台北」は頻繁に登場する。
名を蔡焜燦(さいこんさん)という。
北京に何代も住み続け、中国の上流文化を備える知識人のことを「老北京」と呼ぶが、司馬の眼には、それを台北という言葉に代えて表現したくなるほどの教養人に映ったに違いない。
蔡さんは、1927年生まれの83歳。日本が統治する台湾の台中・清水で生を受け、日本の教育を受けて育った「日本語世代」の1人だ。
18歳まで、日本人だった。
その洞察力は現在も、いささかも衰えを知らない。
いま、揺れる東シナ海と沖縄、そして日本の将来を、祖国・台湾と同じように我がことのように心配し、見つめる日々が続いている。