有権者約8億1500万人、文字通り世界最大の民主主義国のインドで5年ぶりとなる総選挙が始まった。4月7日から5月12日まで、地域別に9回の期間に分けて投票が行われ、5月16日に一斉に開票、同日に大勢が判明する見通しだ。

10年ぶりの政権交代を目指すナレンドラ・モディ氏率いる最大野党・インド人民党(BJP)が、マンモハン・シン首相の与党・国民会議派をリードしている情勢だ。地元NDTVが行った世論調査では、与党・国民会議派104議席に対し、BJPが214議席と、大きく引き離す展開も予想されている。

これまで福祉政策を重視してきた国民会議派だが、この5年間は経済成長率の低下と汚職の急増を防ぎきれず、国民からは愛想を尽かされつつある。貧困層へのバラマキ政策も、手に負えないほどはびこった汚職で、大半が国民の手には届いていないという有様だ。

国民会議派のソニア・ガンジー総裁に逆らえないシン首相は、指導力を疑われている。またソニア氏の息子で、次期リーダーと目されるラフル・ガンジー氏の政治手腕への信頼も薄い。

支持が集まらない国民会議派が攻撃するのは、インド人民党が掲げるヒンズー至上主義によって、国内情勢を不安定にするのではないかという点である。さらに、ヒンズー教徒が多くのイスラム教徒を虐殺した2002年の「グジャラート暴動」で、当時グジャラート州知事だったモディ氏が警察の出動を怠ったため、多数の死傷者が出たと責任を追及している(この事件でモディ氏は証拠不十分で不起訴になっている)。

一方でモディ氏は、グジャラート州知事としての政治手腕が国民の間で高く評価されている。同州では、インド全土で慢性的に発生している停電が、ほとんど起こらなくなった。さらに、企業進出の手続きを簡略化し、外資系企業の招致に成功。インド全土の平均的な経済成長率が年7.7%の中、同州は10.1%の経済成長を実現した。州知事として発揮したリーダーシップにも、国民の期待は集まる。

モディ氏が目指す方向性は、「小さな政府」である。公約には、製造業・インフラ開発の推進による失業対策、一部国営企業の民営化など規制緩和を掲げる。小さな政府を掲げて福祉制度と戦うモディ氏は、インド版サッチャーになれるか。福祉に頼る社会から脱却し、力強いインド市場の飛躍に期待したい。(HS政経塾 田部雄治)

【関連記事】

2014年3月20日付本欄 ロシア制裁に乗り気でないインド 独自外交を日本も見習うべきだ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7538

2014年1月16日付本欄 米印演習に招かれる海自 「海の同盟」で中国の脅威を防げ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7226