2025年3月号記事

もらってばかりの人生は駄目!

バラマキ亡国論

良識ある人は、「バラマキは人間の精神を蝕む」と考えているだろう。
先月号に続き、『なお、一歩を進める』の視点から、この問題に向き合う。


contents

もらってばかりの人生は駄目! バラマキ亡国論 ──『なお、一歩を進める』の読み方② - Part 3 「根性の腐った民主主義」が国を滅ぼす


「根性の腐った民主主義」が国を滅ぼす

では前ページ(もらってばかりの人生は駄目! バラマキ亡国論 ──『なお、一歩を進める』の読み方② - Part 2 「教育で格差が生まれる」は本当か 教育無償化の根拠を問う)とは反対に、自助論を忘れた国の場合はどうなるのか──。

象徴的な例が、ローマ帝国だ。最盛期のローマはヨーロッパからアフリカ、中近東の一部まで支配し、向かうところ敵なしだった。

だが一方で、植民地から安価な穀物や奴隷がローマに流入すると、競争にさらされた中小農民である平民の多くが没落。失業者が町に溢れる。

政治家は彼らを自身の支持者に取り込むべく、「パンとサーカス」というバラマキに手を染めた。具体的には、市民に穀物(パン)を配給し、借金を免除する徳政令を実行した。

最低限の生活が保障された民衆はもはや働かなくなり、暇を持て余すと公衆浴場に入り浸り、賭博や風俗に興じた。政治家もそうした層に向けて、サーカス(コロッセオの剣闘士競技など)をさらに充実させ、人々の歓心を買おうと躍起になっていった。


ローマ市民の半分は生活保護者

このパン(食糧)とサーカス(娯楽)の問題を現代に置き換えれば、「国家が国民生活の最低限保障のためにバラマキをしたら、競馬などに通い詰める人が激増した」というようなことだろう。実際に2世紀ごろのローマでは、市民の3~5割が無料の穀物で生活し、経済的自立者はたったの1~3割程度だったと言われている(*1)。

他方、皇帝の腐敗ぶりも度を越える者が出てきて、公会堂の上から金貨をバラまき、放蕩を続けるために市民に重税をかける人もいた。また、ある者は残酷な処刑を好み、美食家のあまり食べては吐き、食べては吐きを繰り返した。多くの怨みを買い、謀殺される皇帝も相次いだ。

結局、パンとサーカスの虜になったローマは平和ボケとなり、異民族の侵略を受けて分裂・滅亡。末期には異民族に食料の供給網を断たれ、飢餓が起きると、市民は不衛生で粗末な食べ物をめぐって争い、隣人や自分の赤子を食べるなど、断末魔の様相を呈した(*2)。

(*1)弓削達著『ローマはなぜ滅んだか』(講談社)
(*2)エドワード・ギボン著『ローマ帝国衰亡史』(PHP研究所)

 

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社会保障の充実でイギリスは沈んだ

バラマキが多いと人間の魂まで曲がっていく