2024年10月号記事

大ヒット中の映画

「キングダム」と狂人的覇権主義

「始皇帝英雄論」が広がっている。天下統一の夢を追いかけ、仲間とともに葛藤などを乗り越えるという"王道的作風"が人気を集めている。
だがその実態は、「覇道」であると注意する必要がある。

映画シリーズ第4弾『キングダム 大将軍の帰還』が、大ヒットを飛ばしている。

動員数は400万人を超え、興行収入が令和につくられた邦画の実写で1位を記録するなどの好調ぶりで、5弾以降の製作計画が持ち上がっているとも報じられている。

原作であるコミックスの累計発行部数は、1億部の大台を突破した人気作品。同作品のストーリーは紀元前の中国・春秋戦国時代を舞台にし、7つの国が乱立する中、秦の国王である嬴政(後の始皇帝)とそれを支える武将・李信が、中国史上初めて天下を統一するという青春の夢を抱いて戦う。

ファンが多い三国志のように、歴戦の猛者が活躍するスペクタクル的要素を盛り込んだキングダム。史実では、政は統一戦争に乗り出してから15年で6つの敵国を滅ぼし、550年余り続いた途方もない戦乱の世を終わらせ、紀元前221年に秦王朝を開き、「始皇帝」と名乗った。

歴代王朝はこの皇帝制度を継承し、秦が「チャイナ」の由来になるなど、大きな足跡を残した。なんと言っても、始皇帝が修築した長さ約5000キロメートル(京都からシンガポールに相当)の万里の長城は、中国の象徴にもなっている。

始皇帝は英雄か、暴君か

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始皇帝

その反面、中華を統一した始皇帝は、万里の長城の建設などで大勢の人を死なせたなどのイメージがあり、「暴君説」が定説とされてきた。

これに対しキングダムなどは、「統一した英雄である」と始皇帝の前半期の功績を強調して異を唱えている。

そして暴君説のベースとなった『史記』(司馬遷)の記述に疑問を投げかけている。「史記は秦の後に成立した漢の時代にできたものであり、漢の統治を正当化するため、始皇帝を必要以上に悪魔化している」と主張し、始皇帝の負の遺産を薄めようとしているのだ。

始皇帝は英雄か、暴君か──という論争は古くて新しい問題であり、明治時代の日本人も喧々諤々で、今なお決着を見ていない。

だが始皇帝論は歴史家の狭い話題ではない。大川隆法・幸福の科学総裁は、今の中国の覇権主義と密接に関係していると洞察し、非常に現代的テーマだと一石を投じている。一体どういうことだろうか。

※文中や注の特に断りのない『 』は、いずれも大川隆法著、幸福の科学出版刊。

 
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