《本記事のポイント》

  • 西アフリカの政変で欧米側はいっそうのエネルギー危機か?
  • 中東:中露と欧米の勢力争いが激化
  • 北朝鮮:ロシアとの関係がより親密化するか?

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

前編では、バイデン政権がロシアを中国側に追いやった結果、世界が2つに分断されつつあり、その分断された境界線上で紛争が起きていること。そして、その係争地域の一つに西アフリカがあり、親露派に傾くニジェール情勢等について、論じてきました。

西アフリカの政変で欧米側はいっそうのエネルギー危機か?

7月に起きたニジェールでのクーデターは、ナイジェリアからヨーロッパに向けた天然ガス・パイプライン計画も脅かすものとなると考えています。

理由を説明しましょう。

アフリカ最大の天然ガス埋蔵量を誇るのはナイジェリアです。このナイジェリアのパイプラインの計画自体は1970年代から構想されていましたが、ウクライナ危機を受けて改めて注目を浴び、昨年2月に工事が開始されました。

ヨーロッパはウクライナ戦争への制裁として、ロシア産天然ガスの輸入量ゼロを目指す意向です。ロシア産ガスを代替するのがパイプラインです。開通すればロシア産の約20%を代替できる見込みです。

ところが、その位置関係を下図で確認してみると分かるように、パイプラインの計画ではニジェールを通過することになっているため、ニジェールの意向によっては、パイプライン計画は頓挫する可能性があるのです。

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また、これ以外の西アフリカ諸国も天然資源に恵まれています。これらの国々が親露派になっていくと、ヨーロッパにとって大きな脅威となります。

アフリカからヨーロッパへの資源・エネルギー供給を左右するロシアの影響力の拡大は、ヨーロッパの厭戦気分を高めて、停戦へとつながるかもしれません。これはこの状況が良い方に作用した場合です。

一方で、資源・エネルギーのブロック化は、インフレと経済の混乱要因ともなり、分断と対立が一層深まる恐れも十分にあります。

中東:中露と欧米の勢力争いが激化

中国の仲介による3月のイランとサウジアラビアの電撃的な国交回復は、世界を驚かせました。アメリカの影響力低下と中国の存在感を見せつける象徴的な事件となったからです。

また今年5月に、シリアはアラブ連盟に復帰し、サウジなどと和解しましたが、その背景にはロシアの仲介があったといわれています。

焦るアメリカは、イスラエルとサウジの国交回復を仲介して、中東での影響力を取り戻したいと考えています。

アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙は、サウジの事実上の権力者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)は、サウジがアメリカの援助によってウラン濃縮施設を保有することをイスラエルとの和平合意の最重要条件にしている、と報じています(Iran's Nukes Are a Thorn for Saudi-Israeli Peace)。

アメリカの足元をみたMBSは、これを機にアメリカ公認で核開発能力を獲得しようとしているのですが、アメリカがこの条件を飲めば、サウジが将来、核弾頭製造能力を得る可能性を否定できないばかりか、トルコやエジプトも、アメリカに同様の要求を行うことは十分に推測できます。

米政府は、イランはウラン濃縮が進んでいるため、「12日間ほどで核爆弾1個分の核分裂性物質を製造できる」という分析を明らかにしています〈「イラン、「約12日間で核兵器製造が可能も」 米が警告」 〉。

イランが核爆弾を持てば、サウジも核開発を加速させることは間違いなく、アメリカの対中東政策は、他の地域と同様に、分断の境界線としてきな臭さを増すことになるのではないでしょうか。

北朝鮮:ロシアとの関係がより親密化するか?

北朝鮮はミサイル発射実験を繰り返しており、日本の安全保障上の直接的な脅威となっています。

今年4月に発射実験が行われた火星18は、高性能のICBM(大陸間弾道ミサイル)と見られます。これについて、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)は8月17日、ロシアとの技術協力でもたらされた可能性が高いと発表しました。

これまでも旧ソ連のウクライナにいた科学者などとの協力関係は指摘されていましたが、ロシアが欧米と敵対関係になったことで、より一層、関係が深化していると推測されます。

「新・戦争の世紀」を避けるために

以上、述べてきた世界の不安定と紛争の多くは、バイデン政権が「民主主義と専制主義国家の戦い」として、ロシアと中国をひとくくりにして、両方とも敵に回してしまったことが元凶にあります。

今世紀の最大の敵は、無神論・唯物論の全体主義国家である中国であるべきで、ロシアを敵視することは、世界の平和と繁栄にとってあまりに愚かな戦略です。

これまでも一貫してお伝えしてきていることではありますが、ウクライナ戦争を一刻も早く停戦に導き、ロシアを国際社会に迎え入れ、中露を離間させ、世界で分断と対立が起きないようにしなければなりません。

世界が平和で美しいものとなることを願ってやみません。


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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